「反転授業」とは何か? 成績が大幅にアップとの報告も【争点:教育】

佐賀県武雄市にある小学校で、新しい授業スタイルとなる「反転授業」の試みが始まる。成績が大幅にアップするという報告もある「反転授業」だが、一体どのようなものなのか。
Students using digital tablets with instructor on monitor
Students using digital tablets with instructor on monitor
Getty

佐賀県武雄市にある小学校で、2013年11月から新しい授業スタイルとなる「反転授業」の試みが始まる。全国私塾情報センターによると、子供たちは授業の動画ファイル(授業ビデオ)を入れたれたタブレット端末(iPad)を持ち帰り、自宅でその動画を見る。学校では授業ビデオではわからなかった点を教え合いながら、応用問題を解くなどするという。

武雄市が行う試みは、武雄市内の1つの小学校のなかで1つのクラスを選び、研究授業を行うというもの。武雄市教育委員会によると、算数と理科について各1コマ分の反転授業をテスト的に実施するという。

■反転授業とは

現在学校で展開されている授業では「講義を受けること」が主流だが、反転授業では「講義を受けること」は“宿題”となる。教師は説明型の講義を動画として用意し(授業ビデオ)、それを生徒が宿題として家庭などで閲覧しておく。学校での授業時間は、生徒たちが予習で得た知識を応用して問題を解いたり、議論を行ったりする。

学校の授業時間内の講義時間を減らすことで、授業中は教師が生徒ひとりひとりに対して、よりきめ細かい対応をすることができる。また、生徒にとっても、自分のペースで学習に取り組める点もメリットだ。米国カリフォルニア州の公立小学校に勤めるハイフィル先生は、ビデオ授業の動画が何度でも巻き戻せたり、再生速度を調整できる点を評価。生徒の授業への取り組み方についても、次のように話している。

「一日に数時間しかない教室での時間は貴重なので、新しい知識を学んだり、記憶したりすることではなく、知識を実際に自分の力で活用することに重点を置きます」

(.dot「一斉講義をやめた米の教師たち 「反転授業」を展開」より。 2013/05/26 07:00)

反転授業を実施しているアメリカの高校では、「テストの前などに動画を見ることが出来て、わかりやすい」と生徒からの声も上がっている。

■反転授業は10年後は主流となる

反転授業の取り組みは、アメリカで進められてきた。複数年にわたる反転授業の研究報告書によると、事前にビデオ授業を見て授業に参加した大学生は、テストの点数が5.1%向上したという。TechChrunchによると、大学生で成績が5%以上向上するというのは「相当すごい」ことだという。

東京大学大学院の山内祐平准教授は、10年後には反転授業が主流になるという。その理由を「実質的な学習時間が増えるから」と指摘し、次のように書いている。

(高次の思考能力を育成する)活動が普及しなかった最大の理由は「時間がない」ためであった。限られた授業時間に応用的な活動を導入すると、基礎知識を習得する時間が足りなくなってしまうのである。このことが「知識習得」と「思考能力」のどちらが大事かという論争の原因になっている。

実際には、知識に基づかない高次思考能力は存在しないし、応用できない知識は無意味である。「知識習得」と「思考能力の獲得」を両立させるためには、学習時間を延ばすしかないが、学校の時間はもはや隙間なく埋まっている。この難問を解く鍵になるのが、授業と自宅学習の連続化による学習時間の確保と学習目標に合わせた時間の再配置なのである。

(山内祐平准教授ブログ「【記事公開】未来に備えるための学習」より。 2013/04/16 21:45)

■反転授業の課題

良いことづくしの「反転授業」のようだが、課題もある。朝日新聞デジタルは、反転授業の課題の一つに、「保護者の協力」を挙げている。

低学年ほど、大人が映像を見るよう促す必要があり、保護者の協力が欠かせないことだ。家庭環境の厳しい子どもには、放課後に学習の場を設けるなどの工夫が要る。

朝日新聞デジタル『「授業、まず家で」試行へ 動画見て予習→教室では応用 佐賀・武雄市が「反転授業」』より。 2013/09/24)

武雄市教育担当者によると、今回の研究授業はテスト的な実施であるため、放課後に生徒同士で宿題を行うことは考えていないという。生徒は普段はタブレットを持ち帰ることがないので、事前に保護者への説明などを行い、またメールなどで案内も行うとする。研究授業の終了後には保護者へのアンケートも実施予定とのことだ。

なお、反転授業を実施した宮城県の富谷町立東向陽台小学校の佐藤靖泰教諭によると、反転授業に対する保護者の意見としては「先生の授業が保護者も見られて役立った」とする声もあれば、「目新しいので興味を持って取り組んでいるが、慣れてきたらどうなるか心配」との懸念があったという。

子供の家庭での学習に対する家庭の負担については、「学習が、家庭でのフォローを今まで以上に必要としている」という分析もある。学習指導要領の改定で、2011年度から小学5、6年生の英語が必修となったり、学習量が増えるなど、授業が難化されているということなどが原因とされる。

タブレット教材については金額面で保護者に大きい負担となりうることもあるが、授業ビデオでの予習・復習のお陰で、保護者が子供に教えるという点では、負担の軽減が期待できそうだ。

反転授業が導入されることで、保護者は子育てに対する負担がどれぐらい軽くなると思いますか?あなたの考えをお寄せ下さい。

関連記事

iPad Mini

かなり使えるタブレット9選

注目記事