リベンジポルノやプライバシーのネット拡散をどう止める? - 表現の自由か、法規制か

元恋人や元結婚相手によって、プライベートな写真や映像を別れた後にネットに投稿されてしまう「リベンジポルノ」。こうした個人情報がネットで拡散される被害が今、世界的な社会問題となっている。しかし、規制を強めることに対しては、「表現の自由」にも深く関わるために慎重な意見もみられる。誰でも手軽にネットで情報を送受信できる社会で、この問題はネットを使うすべての人々に関わってくる。被害の発生を防ぎ、また拡散しないために私たちは何ができるのだろうか?
足成

元恋人や元結婚相手によって、プライベートな写真や映像を別れた後にネットに投稿されてしまう「リベンジポルノ」。こうした個人情報がネットで拡散される被害が今、世界的な社会問題となっている。アメリカでは10月からカリフォルニア州で禁止法が施行され、EUでもインターネット上の個人情報の削除や拡散防止ができる「忘れられる権利」を含んだ「EUデータ保護規則案」が議論されている。日本でも被害が後を絶たず、最近も未成年の女性が元交際相手に殺害された上、同様の被害にあっていることから議論が起こりつつある。しかし、規制を強めることに対しては、「表現の自由」にも深く関わるために慎重な意見もみられる。誰でも手軽にネットで情報を送受信できる社会で、この問題はネットを使うすべての人々に関わってくる。被害の発生を防ぎ、また拡散しないために私たちは何ができるのだろうか?

■欧米で議論されるネット規制と「忘れられる権利」

カリフォルニア州は10月1日、嫌がらせ目的で個人的な写真や映像を流出させた場合、最高で禁錮6カ月、最高1000ドルの罰金刑の対象となる法律を施行した。この新しい法律では、同意のもとに撮影された写真や映像でも、同意なく投稿されれば処罰の対象となる。アメリカでは最近、リベンジポルノの専門サイトが存在し、多くの女性が被害にあって社会問題化しているが、投稿の削除には多額の費用や時間がかかるのが現実だ。カリフォルニア州では、2012年に当時15歳だった女子高生が参加したパーティーで男子学生3人に暴行を受け、その写真が高校内で出回るという事件があった。これを受けて、女子高生はその後自殺するという痛ましい結果を招いている。

ハフィントン・ポストUS版では、この事件が今回の法規制を触発したとも報道している。しかし、インターネットに対する法規制強化は表現の自由の確保とは常に背中合わせの関係にあり、規制強化に反対する議論もある。アメリカでデジタル時代の自由な言論を守るために活動しているNPO「電子フロンティア財団」(Electric Frontier Foundation, EFF)も、慎重な法規制を求めており、フロリダ州でも同様の法案があったが、表現の自由を保障した憲法に反する懸念があるとのことから、成立には至っていない。

また、EUで議論されているのが「忘れられる権利」だ。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、Googleを相手どり、自らのプライベート画像を検索結果から削除するよう求めているマックス・モズレー前国際自動車連盟(FIA)会長が起こしている訴訟が、各国の裁判所で進んでいる。問題の画像は、イギリスの裁判所ではプライバシーの侵害に当たると判断されたものの、検索結果で表示されてしまうからだという。EUでは、ネット上に公開されている個人情報の削除を義務づける「忘れられる権利」を盛り込んだ、これまでの「EUデータ保護指令」より厳格な「EUデータ保護規則案」の導入が議論されている。しかし、全ての削除依頼に対応するためにはネット事業者側に大きなコスト負担を強いることにつながる。モズレー前会長の訴訟の行方も、「忘れられる権利」導入の議論に影響を与えるとみられている。

■国内でリベンジポルノが起きてしまった場合

日本でも最近、殺害された女性のプライベート写真や映像が、元交際相手の容疑者によって投稿されるという事件が起こっている。国内のネット事業者(Google、サイバーエージェント、Twitter、はてな、paperboy&co.、Yahoo!JAPAN、LINE)に取材したところ、Yahoo!JAPANでは報道直後から被害を拡散させないため、該当するサイトが検索上位にならないような措置をとった。また、Amebaブログを運営するサイバーエージェントでも、関係者が開設していたブログについて検討していたところ、警察からの依頼もあったために非表示にする対応を行った。paperboy&co.は、第三者からの通報を受けて情報が転載されたブログの削除を実施した。Googleは被害女性が未成年であったために児童ポルノとしての対応をとっているという。しかし、各社による対応は温度差があったことも事実だ。

国内ではまだリベンジポルノという言葉が定着していなかったこともあり、各社はリベンジポルノが起きた場合、従来のガイドラインや運営方針、独自の判断によって対応している。しかし、いつ大切な家族や友人が同様の被害にあうかはわからない。以下は、ガイドラインなどリベンジポルノへの対策について、各社から寄せて頂いた回答だ。

児童ポルノについては本人以外の第三者からの通報であっても厳しい対応をとっており、インデックスから外しています。成人だった場合は、セーフサーチを使っていれば表示されなくなります。グーグルがウェブ上に存在するコンテンツに直接何か働きかけをすることはできないので、当該サイトのウェブマスターに依頼の上、ご連絡いただければ検索結果に現れなくなります。(Google)

現状、「リベンジポルノ」への対応に限定した規約はありません。ただし、Ameba利用規約上、禁止事項として、「良識に欠けるものや、品位にかけるもの」「社会倫理や法令に反するもの」の投稿は禁止として定めています。ユーザーが投稿した内容が「リベンジポルノ」かどうか運営側で判断することは難しい場合が想定されますが、一般的に言われる「リベンジポルノ」は禁止事項に該当し、運営側が確認でき次第、削除もしくは警告などの対応となります。よって、今後すぐに「リベンジポルノ」に関する規定を設けることは検討しておりませんが、現状の体制で適切に対応ができると判断しています。(サイバーエージェント)

現在、「リベンジポルノ」に関する特別なガイドラインはありません。これは「攻撃的な行為に関するポリシー」「児童ポルノ」などの既存のルールなどを適用しています。また、サービスを利用される際に同意いただくTwitterルールの禁止事項に「特定の人物に向けた罵倒や嫌がらせ」というものがあります。すべてケースバイケースですが、このようなものと照らしあわせて利用規約違反として調査、アカウントの凍結を行っています。なお、児童ポルノに該当するコンテンツはいかなる場合もツイート、リツイートは違反となります。Twitterやインターネットの利用方法が変わるとともに、規約も変えていく必要があります。今日現在は上記を行っていますが、今後、規約やガイドラインが変わる可能性はあります。(Twitter)

違法有害情報や権利侵害情報については、はてな情報削除ガイドラインに沿って削除や公開範囲の制限などの対応を行っています。(はてな)

「リベンジポルノ」のみに対するガイドラインはございませんが、弊社は特定電気通信役務提供者として、名誉毀損、プライバシー侵害のおそれのあるブログ記事等の情報の送信を防止する措置に関するお申出に対しましては、当社サービス利用規約に基づく対応のほか、プロバイダ責任法及びそのガイドラインに沿った対応をしております。重大な事件等については社会に与える影響をなどを考慮し、対応してまいりたいと考えております。(paperboy&co.)

「リベンジポルノへの対応」に限定した基準ではなく、自社の全般的な基準になります。違法性のあるものや個人情報などは、もちろん対象としています。かつ、(表現の自由は極めて重要なものではあるものの)許される表現行為の限界を超えていると判断したものは、この当社の基準に従って対応をしています。(Yahoo!JAPAN)

弊社サービスは、利用規約に則って運営しており、 不適切な画像・動画などが投稿された際には削除・非表示対応などを行い、健全なサービス運営に努めています。(LINE)

■カジュアルに削除依頼できる仕組みを

リベンジポルノを始めとする、嫌がらせ目的の個人情報拡散防止には、まずは写真や映像を撮らない、撮らせないという情報リテラシー教育が大切になってくるだろう。もしネット上で見つけてしまったら、クリックせずに拡散しないことも大切だ。それに加えてネット事業者の自浄努力も今後ますます求められる。それでも万が一、被害が発生してしまった場合、日本では「インターネット・ホットラインセンター」などの通報窓口はあるものの、有効な対策が少ないのが現状だ。

ネットユーザーの権利の保護や情報リテラシー向上を目的に活動している一般社団法人「インターネットユーザー協会」事務局長、香月啓佑さんは、こう指摘する。「現在、そうした被害に対する対応はプロバイダ責任制限法がカバーすることになっています。プロバイダは被害者から「送信防止措置依頼」を受け取ると、その内容を削除するかどうかついて審査します。この審査のために「プロバイダ責任制限法 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」があります。このガイドラインによれば、明確にプライバシーが侵害されていると判断できるものはプロバイダの自主的な判断で削除できることになっていますが、それ以外の書き込みについては表現の自由などの問題があることから、プロバイダは投稿を削除する前に投稿したユーザーに対して削除しても問題ないかを照会することになっています。そして照会から1週間以内に投稿したユーザーから申し立てがなければ、削除できることになっているのです。しかしネットでの情報拡散スピードからすれば1週間は長いと感じるのも無理はありません」。

「これは2013年夏に解禁されたネット選挙でも問題になり、公職の立候補者には別途新たにガイドラインが設けられました。このガイドラインでは投稿者への照会期間が7日から2日に短縮されました。しかしこれを一般人に対しても適用するとなると削除対応コストの問題もあり、積極的な削除対応をしたくないネット事業者も多いはずです。そうなると法制度の変更で対応せねばならないという議論がでてきます。しかし、表現の自由や公益性の高いリークなどとのバランスも考える必要があり、法制度での対応はかなり議論を呼ぶでしょう。法制度での対応以外でできる施策のひとつとして、リベンジポルノのようなこれまで想定されていなかったようなプライバシー侵害情報に早急に対応できるような明確なガイドラインの策定があると思います」

そして、香月さんはこう提案している。

「また、カジュアルに削除依頼が出せる仕組みも求められます。特に現状では郵便による手続きを求めるプロバイダが多いですが、メールやフォームでも削除依頼を受け付ける仕組みが求められます。これによって照会期間を短縮することができるかもしれませんし、公職の立候補者向けのガイドラインではメールでの削除依頼も受け付けることになっています。そうした自主的な取り組みを進めた上で、『忘れられる権利』の導入も含めた法制度の変更の議論をしていくこと求められるのではないでしょうか」

【※】いつ誰が被害にあってもおかしくはない問題、あなたのご意見をお聞かせください。

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