ベースアップ(ベア)を含め、来春の賃上げ検討を表明する企業が増えている。消費増税を乗り越え、安倍政権が目指す持続的な景気拡大や脱デフレを達成するには、所得環境の改善が不可欠なだけに、賃上げの動きの広がりは、フォローの風となりそうだ。
アベノミクス成否のカギを握るとも言える家計所得の改善。政府は、政労使会議を設けるなどし、異例とも言える形で企業側の行動を促してきた。
政府の要請に対し、企業からは「社会の公器である企業が政府とともに経済を下支えすることは大事なこと」(新浪剛史・ローソン<2651.T>CEO)や、「政府も頑張っている。ベアは企業の責任を踏まえ検討を深めていく」(鈴木吉宣・オムロン<6645.T>専務)など、政策と足並みを揃えようという姿勢が出てきている。
<ベアに前向きな発言も>
日本電産<6594.T>の永守重信社長は、来春のベアについて「僕の決意」と述べ、実施に向けた強い意志を示した。「(復興特別法人税を)なくすというのは利益が上がるということ。全部なのか半分なのかは分からないが、従業員に還元する」とし、還元の方法としては、ボーナスの上積みではなく「ベアも必要だろう」との考えを表明した。
三菱自動車<7211.T>の益子修社長も、配当を復活し株主への責任を果たしたうえで、ベアについても「前向きに考えていきたい」と述べている。関係筋によると、同社は、来年1月にも2000億円の公募増資に踏み切り、三菱グループ各社がもつ優先株を処理する計画。懸案だった優先株の処理にめどを付け、復配、2000年度以来のベア実施などに取り組んでいく考えだ。
<製造業と非製造業の格差是正>
製造業と非製造業の賃金格差是正も念頭に賃上げを表明するのはローソンの新浪CEO。製造業から非製造業に雇用が移ると賃金が下がることがデフレの一要因になっていると指摘し「非製造業は生産性を上げ、賃金を上げることが必要。2―3%は賃上げをしていきたい」と、今春に続いて賃上げを実施する方針だ。実施方法は検討中ながら、消費意欲を喚起する意味も込めて20―40代の賃上げを行う方針で、ボーナスへの上積みが有力だ。
賃上げの検討は、業績好調企業だけにとどまらない。2014年3月期は3期連続で最終赤字計画のアドバンテスト<6857.T>。松野晴夫社長は「それぞれの地域の賃金の水準をみて、その国の賃金を決める」という方針を示し、日本でも賃上げムードに沿う形で前向きに考えるということかと聞かれ「そう」と答えた。
<業績を見極める姿勢>
10月に開かれた政労使会議で、川村隆会長が「ベアも選択肢」と発言して注目された日立製作所<6501.T>。中村豊明副社長は、業績が向上すれば報酬で報いるのが自然だとして「ベアも一つの手法だ」との見解を示した。ただ、通期の営業利益が過去最高を更新できるかどうか注目されている状況でもあり、「あくまでも通期での結果が出てから」になるとし「現時点で確定的なことは言えない」と述べた。
キーエンス<6861.T>の山本晃則社長も「給与制度は営業利益に連動する形。営業利益が増えれば従業員に(還元)、ということになる」と述べ、あくまで業績連動との姿勢だ。
野村ホールディングス<8604.T>の柏木茂介・執行役CFOは「賃上げ要請が一般的にあるなかで、お金がまわって経済活性化されることには賛成。ただ、(当社は)報酬体系が多様化しており、基本的には業績をふまえながら検討していく」としている。
毎月勤労統計では、現金給与総額は2011年、2012年と2年連続で減少。うち、所定内給与は2006年以降、7年連続でマイナスとなっている。
[東京 30日 ロイター]
関連記事