小泉元首相の「脱原発」発言に、避難者は賛否両論【争点:エネルギー】

首相時代は原発を推進してきた小泉純一郎元首相が「脱原発」をめぐる言動は、原発避難者にはどのように受け止められたのか。
jiji

脱原発「道筋語って」 原発避難者ら、小泉元首相に賛否

「いま総理が決断すればできる」。小泉純一郎元首相が「脱原発」のボルテージを上げている。12日は報道陣約350人を前に「原発ゼロ」の実現を訴えた。首相時代は原発を推進してきた小泉氏の「転向」ともとれる言動は、どのように受け止められたのか。

福島県双葉町から福井県坂井市に避難している学習塾経営の川崎葉子さん(63)は、小泉氏の主張に懐疑的だ。「今それを言えば世間に受けるだろう。いいとこ取りじゃないか」

自宅は東京電力福島第一原発から約3キロ、帰還困難区域に入る。12日には一時帰宅した。荒れた我が家に戻るたびに心がふさぐ。小泉氏は首相時代、原発を推進してきた。「そこまで言うなら、これまでを反省し、具体的に原発停止までどういう道筋にするかを語って欲しい」

小泉氏は、フィンランドの核廃棄物最終処分場「オンカロ」の視察をきっかけに考えを変えたという。ここには「核のゴミ」が10万年も埋められる。

東電の元役員の一人は、「勘のするどい人だから現地で処分の大変さを感じたのだろう。しかし、原子力は国のありようにもかかわる多元的、複合的な問題で、シングルイシューではない。郵政とは違う」。

「原発銀座」と言われる福井県敦賀市。全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)の会長も務める河瀬一治市長は12日、取材に「即時原発ゼロ」を求めたことについて「無責任」と言い放った。

同市内にある高速増殖原型炉「もんじゅ」は点検放置問題で運転再開の準備に入れず、敦賀原発1、2号機は老朽化や断層問題で廃炉の瀬戸際にある。

「急に止めたら(原発関連で働いている住民の多くが)生活できない。地元をほったらかしにした発言だ」と批判した。

一方、反原発運動を続けてきたNPO「原子力資料情報室」の山口幸夫共同代表(75)は、小泉氏の「転向」を歓迎した。「額面通りに受け止めたい」

原発を推進してきた学者や技術者で、その後に原発反対に転じた人を何人も知っている。自身もオンカロのドキュメンタリー映画を見て、「地下深くに10万年も埋める」事業の不条理さを感じた。「あとは若手・中堅の議員たちがどう受け止めるかに期待したい」

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■小泉首相時代の原発を巡る動き

2002年8月 東京電力で原発データのトラブル隠しが発覚、翌月社長らの引責辞任を発表

2002年12月 発送電分離の動きが頓挫

2004年3月 関西電力高浜原発でプルサーマル発電を進めることを福井県などが了承

2004年8月 関電美浜原発3号機で11人が死傷する事故

2005年2月 二酸化炭素などの削減目標を決めた京都議定書が発効

(朝日新聞社提供)

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