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【鼎談:眞鍋かをりさん×疋田智さん×松浦編集長】クルマと自転車が共存するためには。前編

ここ数年、全交通事故の約2割に自転車が絡んでおり、また、自転車事故者の約6割が、何らかの法令違反を犯しているという報告がある。「自動車vs.自転車」。これから先、ますます深まっていくであろうこの二者の関係をどう捉えていくべきかを考えるべく、ヘビーな自転車ユーザー代表として疋田智(自転車ツーキニスト)、ライトな自転車ユーザー代表として眞鍋かをり(女優)、そしてドライバー代表としてハフィントンポスト編集長の松浦茂樹による鼎談が開かれた。
The Huffington Post

ここ数年、全交通事故の約2割に自転車が絡んでおり、また、自転車事故者の約6割が、何らかの法令違反を犯しているという報告がある。「自動車vs.自転車」。これから先、ますます深まっていくであろうこの二者の関係をどう捉えていくべきかを考えるべく、ヘビーな自転車ユーザー代表として疋田智さん(自転車ツーキニスト)、ライトな自転車ユーザー代表として眞鍋かをりさん(タレント)、そしてドライバー代表としてハフィントンポスト編集長の松浦茂樹による鼎談が開かれた。

松浦 疋田さんは自転車通勤をはじめられて17年目とのことですが、それだけ長いこと乗っていると、ヒヤリとする場面に出くわしたことも幾度かあるのではないでしょうか?

疋田 まあ、なくはないですが、ほぼないですね。自転車って、わりとルールを守ってきちんと走っていれば、そこまで危なくないんです。東京の街は、例えばドイツやオランダに比べると非常にサイクリストに冷たいつくりなのですが、それでも、法令を守って車道を走っていれば基本は安全だと思います。

松浦 確かに、ヘルメットやウェアをきちんと着ている人だと、クルマを運転していてもある程度安心感があります。むしろ、例えば主婦の方や高齢者の方々に危ないシーンが散見されるなと感じます。最近は電動アシスト自転車が普及して、おじいちゃんやおばあちゃんでも、わりとすごいスピードで走っていますからね。

疋田 そうなんです。自転車で危ないのは、実は、ルールを「守らない」のではなく「知らない」人たちなんですよ。

眞鍋 ルールと言えば、道路交通法の改正で、2013年の12月から自転車の右側通行が禁止になると聞きました。これまで禁止じゃなかったのが、むしろ不思議な気もするのですが……。

疋田 そうですよね。今回禁止になったのは、「路側帯」を右側通行することです。確かにこれは非常に危険な行為ですので、徹底して欲しいと思います。実際に自動車と自転車の事故で多いのは追突事故ではなく出合い頭の事故なのですが、右側通行というのは、正面衝突事故を増やしているだけではなく、出合い頭事故の主因となっていまして、これを取り締まるのは、大きな意義があると思います。今回の道交法の改正は、多くの人の意識を変えていくいい機会だと思います。(注1)

眞鍋 「自転車は車道の左側を走る」ということを老若男女に徹底させるためには、どのような手段が有効だとお考えですか?

疋田 私の持論なのですが、一番効果的なのは、警察官がきちんとヘルメットをかぶって、車道の左側を走ることだと思います。これこそが、「教育」の第一歩。子どもたちへのモデルにもなりますし、ドライバーへの意識付けにもなると思うんですよね。

眞鍋 確かに、おまわりさんって歩道を走っていますよね!

疋田 インフラの整備も大切ですが、警察官に正しく自転車に乗ってもらうことも、とても有効だと思うんです。

松浦 警察官が車道の左側を走っていたら、ドライバーもちょっと緊張するので、事故自体も減りそうですしね! 啓蒙としては、有効かつ即効性のある方法かもしれません。

疋田 実は日本って、先進国のなかでもとりわけ自転車事故が多いんですよ。人口が3倍近いアメリカと比べても、日本の方が件数自体多いくらいですから。その原因として挙げられるのが、右側通行のほかに、歩道から車道に降りるときなんです。ドライバーは車道で起こることには注意が向いているけれど、歩道から飛び出してくる自転車にはとっさに対処ができませんからね。

眞鍋 そのあたり、自転車に乗る側の意識がまだまだ甘いですよね。私もクロスバイクで長距離を走るときは、疋田さんみたいに「サイクリスト」の思考になっていますけれど、小径車に乗って近所をブラブラしているときは、ついつい歩道を走ることもありますし、気付いたら右側を走っていることもありますから。

松浦 ドライバーの立場で考えると、先程疋田さんが仰ったように、常に気にしているのは車道での出来事ですから、歩道のことに関してはどうしても心の目が閉じてしまいます。そんなとき、第3の目ではありませんが、事故の可能性を事前に察知してくれるのがボルボの「ヒューマン・セーフティ」だと思います。同じ方向に進む自転車が急にクルマの進路内に入るとテクノロジーが感知し、最終的にはクルマ自らがフルブレーキを作動させるシステムです(注2)。ボルボは、2020年までに新しいボルボ車による交通事故の死亡者・重傷者をゼロにする「ビジョン2020」を掲げていますけれど、この「ヒューマン・セーフティ」は、その核となるシステムと言えるでしょう。

疋田 この十数年、クルマ業界全体が、クルマの外にある危険を探知できるシステムを作ろうと取り組んできましたよね。それがさらに進化しているのは、クルマと自転車の関係にとって、すごくいい傾向だと思うんです。

松浦 対自転車に対するセンサーを実現してしまった以上、ほかのメーカーも追随せざるを得なくなってきますからね。

眞鍋 エコが浸透していったときのように、例えば減税措置だとか、なかば義務化されるともっともっと普及すると思います。エコも、それによってみんなの意識が一気に変わっていった気がしますし。テクノロジーが進歩していろいろなことができるようになっても、使われないと意味がないので、そういった普及の仕方が、これから大切になってくるのではないでしょうか。

疋田 でもいくら、クルマ側ががんばってくれても、自転車に乗る人の知識やマナーがいまのままではいけませんから、彼らに対して「正しい自転車のルール」を啓発していくことが、引き続き大事になってくると思います。

松浦 何はともあれ、「自転車は車道の左側を走る」ことを、今日から徹底ですね。そしてクルマ側もテクノロジーの進歩に頼りすぎず、自らの責任で安全な運転を行うことを忘れないようにしないといけませんね。

「自転車とクルマの衝突事故を防ぐ鍵は、警察官にあり」という、一周巡って至極もっともな結論が導き出された今回の鼎談。次回は、都市とモータリゼーションの話題に触れながら、クルマと自転車が共存するために必要なことは何かを模索します。

注1 一部大きな国道などでは自転車が歩道通行可となるケースもあります。参考:国土交通省道の相談室

注2 サイクリスト検知機能は車と同じ方法に走っている自転車を検知し、差し迫った追突の危険性を検出すると、ドライバーに注意を促すために音と光で警告。これに反応せず衝突の危険が高まると瞬時にフルオートブレーキが作動します。

眞鍋かをり さん

愛媛県出身。横浜国立大学卒業。大学在学中からタレント活動を始める。

バラエティに加え、ニュース番組のコメンテーターやMC、執筆などマルチに活躍。

2010年C.P.A.チーズプロフェッショナルの資格を取得。現在、Twitterでは約60万人のフォロワー数を誇る。『世界をひとりで歩いてみた~女30にして旅に目覚める~』が祥伝社より12月4日に発売予定。

眞鍋かをり オフィシャルブログ

疋田智 さん

宮崎県出身。NPO法人自転車活用推進研究会理事。学習院大学生涯学習センター・非常勤講師(自転車学)。

「自転車ツーキニスト」という言葉を広めるなど、都市交通の中で自転車を活用することを提案。『だって、自転車しかないじゃない』(朝日文庫)『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)など、自転車に関する著書多数。

疋田智メールマガジンの「週刊 自転車ツーキニスト

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