TPP交渉の内部文書全文 アメリカの強硬姿勢が浮き彫りに

ハフィントンポストが環太平洋パートナーシップ協定 (TPP)交渉参加国から入手した内部文書の全文翻訳を紹介する。この文書は12月10日に閉幕したシンガポールの閣僚会合に先立って作成されたもので、2013年11月19日〜24日、アメリカのソルトレークシティでの交渉結果を受けたものである。
時事通信社

ハフィントンポストが環太平洋パートナーシップ協定 (TPP)交渉参加国から入手した内部文書の全文翻訳を紹介する。この文書は12月10日に閉幕したシンガポールの閣僚会合に先立って作成されたもので、2013年11月19日〜24日、アメリカのソルトレークシティでの交渉結果を受けたものである。ハフィントンポストが入手する前に、かなり多く編集されている。 (注: 省略は、文章の編集を意味する。[ ]内の文章は、第三者によって付け加えられたものである)。

この内部文書からは、TPP交渉の場でのアメリカの強硬姿勢が浮き彫りとなっている。文書内にも、「アメリカは、過去の会合と同様、提案に柔軟性を持たせず、話し合いをまとめるための障壁となっている。投資協定の概要の中には、国家と外国の投資家との間で交わすことのできる、ほとんどすべての重要な契約が含まれているからだ」と記されている。

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[ソルトレークシティでの2013年11月19日から24日における協定交渉後の

環太平洋パートナーシップ協定 (TPP) 交渉参加国

この文書は、あるTPP交渉参加国の内部政府文書の抜粋である。抜粋は選ばれた箇所で編集が少し行われているが、流出元の国の特定を防ぐためである。[ ]内の文章は、説明のために加えられたものである。

主な略称は以下。国略称:オーストラリア、BN=ブルネイ、CA=カナダ、CL=チリ、JP=日本、メキシコ、MY= マレーシア、NZ=ニュージーランド、PE=ペルー、SG=シンガポール

用語略称:CN=TPP首席交渉官、ISDS=投資家の紛争解決手続のための条項 (ISD条項)、

MFN=最恵国待遇、適合措置、lP=知的財産、SLC=ソルトレークシティ、SOE=国有企業、TBT=貿易の技術的障害]

[概要と過程]

…概要として、アメリカが今週中にできる限り多くの事項について妥結に達するよう厳しい圧力をかけていることがまずあげられよう。しかしながら、本日主席交渉官等によって検討されたTPP条項に進展はあまり見られなかった。掛けられる圧力は日を追うごとに強くなることは確かだ。

…[アメリカ主席交渉官は]12カ国すべてと会談を行ったが、計画通りの進捗は見られなかったと述べた。ある交渉参加国は、現在に至るまでアメリカ側が大きな動きを見せず、それがこの状況の原因だとした。会合の緊張度は、主席交渉官間だけではなく専門家集団においても、予想通りここ2日間で厳しさを増した。シンガポールでの会合を前に出来る限り多くの条項を妥結することへの圧力は増している。結果は可もなく不可もなくといったものだったが、以下の項目において若干の進展が見られた。物品市場アクセス (条項)、電子商取引、投資、TBT (貿易の技術的障害)、政府調達 (条項)…

…いくつかの交渉分野において具体的な詳細を詰める前に、シンガポールのシナリオは未解決案件の数からみて、先行き不透明であることに着目しておきたい。知的財産や国有企業、環境といったより難航している問題を棚上げしたままであるのに、前記の事柄を鑑みると年内の完全な妥結は非常に難しいものとなるだろう。協議過程に影響を与えるような予期せぬ事態に陥ることを避けるためにも、違うシナリオを用意すべきだとするものもいる。これには、部分的妥結やさらには年内包括的妥結の断念をやむなしとすることも含まれる…

[知的財産]:

…知的財産権グループは、ソルトレークシティでの会合中の成果を再検討した。この成果は、議長国であるアメリカによる覚書を反映しており、未解決の各項目の「着地点」を含む。すべての項目に各々の立場や目標をもう一度組み入れ、各項目においてより目標に適った割当てを表示するためである。一般に、議長国の示す「着地点」とは、アメリカの立場から表明される解決策である。故に、他の参加国にとってアメリカに利用されているかもしれない条項において自国の立場が喪失しないように、まずもう一度表明し、それから合意に達する努力をするのだ…

…全般的な考察として、この会合は条項のほとんどの部分において深い溝が存在し続けていることを裏付ける結果となり、それはシンガポール会合に深刻な影を落とした。明らかに、この覚書は代表者等によって検討され、提案されたものではない。アメリカが目標とすることは、代表者等がこれを命令として受け入れるか、協議国が合意に達するための交渉におけるガイドラインとして受け入れることだ。国有企業の項目で起こったことのように、暗示的であるが、シンガポール会合で合意に至ることが不可能ということに疑いの余地はない。しかしながら、各国は会合中にアメリカがさまざまな交渉分野において妥結にいたるよう強引に圧力を掛けてくることに用心しなければならないだろう…

…知的財産の項目においては、主席交渉官は議長国や主要国と協力して、来たるべき日に備えて手配を整えた。覚書や「着地点」に関しては、いかなる国の立場をそのまま表すようなものであってはならず、またその立場を色濃く反映したものであってもいけないだろうとした。議長国は、119に及ぶ未解決案件を減らすことを目標としている。主席交渉官等が継続して交渉を課されること及び協議国の進展が日々最新のものとなることが決められている。アメリカは、最も重要かつ慎重にならなければならない問題は、シンガポールに持ち越す考えだ。

…医薬品に関する議論関連では、アメリカと日本は、他の協議国に対して覚書を提出した…オーストラリア、シンガポール、チリの代表が介入し、それぞれの国の基準とアメリカの基準から理解しなければならない要素や用語があることを指摘した。しかしながら、義務の大半において同意済みの規定を上回るものが課せられている。関連して、上記3カ国のうち、水準を上回る状況であることを指摘した国はなかった。

関連して、協議参加国は提出された条項にコメントを残し、記述を提案し、基準に各国の基準や規制が反映されるようにした。

…シンガポールは、残りの中小協議国に向けて、アメリカの意向に沿った形で進めていくよう述べたが、それはグループから離脱することを意味している。同様に、カナダも反対意見を表明しないよう厳しい圧力を受け続けている。最終的に、オーストラリアの立場が不確かで、中小協議国の支持において弱さを露呈しはじめている。結論として、協議国の結束にひびが入ったことが明らかとなった…

[医薬品の透明性に関する追加条項]:

…残念な報告として、アメリカが現在、オーストラリアと日本が進めた、現在の改訂版医薬品の透明性に関する追加条項を再改訂しようと働きかけている。アメリカが過去強く否定され続けた条項を再浮上させるアメリカの手法に苛立ちを示す国もあった…アメリカは、すべての国に適用されるものではないと繰り返し、補足で記述を付け加えるように求めた。そこが残された問題だ…

[投資]:

…交渉参加国のほとんどにとって最重要な問題となるのは、アメリカによるISD条項(ある国の規制によって外国の企業や投資家が損した場合、国際機関に仲裁を申し立て、相手国に賠償を求めることができる取り決め)を投資協定や投資許可に適応するという提案だ。アメリカは、過去の会合と同様、提案に柔軟性を持たせず、話し合いをまとめるための障壁となっている。投資協定の概要の中には、国家と外国の投資家との間で交わすことのできる、ほとんどすべての重要な契約が含まれているからだ。

鉱業権、炭化水素開発に関する行政による規制あるいは特約、公的事業権 (道路、高速道路、橋、インフラ等) といった重要な権利を含み、これらの契約は協議会の規定を覆しかねない…

…アメリカと日本だけがこの提案に賛成している一方、他の参加国は反対を表明しており、他の案を模索し、概念を練り、協議会の選択した契約にいくるか留保点を残したが、アメリカはまったく柔軟な姿勢を見せていない。

…立場が一極化している二つ目の分野は、投資条項において、一般的例外 (GATT[関税及び貿易に関する一般協定]およびGATS[サービスの貿易に関する一般協定]) の適用に関するものだ。議論はまだ終結していないが、アメリカが提案を行い、その支持国が現在検討中である。この提案の問題点は、この事項が部分的にしか解決されないことだ。オーストラリアとニュージーランドの利益にのみ対応していることなどが挙げられる。各国の内国民待遇(自国の領域内で、自国民に与える待遇と同様の待遇を他国の国民にも与えること)や不適合措置における個別の注釈を明確に説明する補足を含むにも関わらず、内国民待遇、最恵国待遇、首脳各国の義務の例外が適応されるという点における…

…チリ、日本、ブルネイ、マレーシア、ベトナムといった、全条項にこの例外を適応することを支持する国々に対して、序文や条項の目的として含むことが提案されている。この提案は、不十分なものである。というのも序文は解釈の要素としてのみの利用になりかねず、現在示されているような拘束力のある項目とならないからだ。さらに、アメリカが提案した序文への言及は、記述を追加して条項の他の基礎となる目的を認識しなければならない。つまり投資の促進と保護である。これによって、序文はまわりくどい記述になってしまい、国が実際に利用できる具体的な手策として組み入れたいという協議国の目標を台無しにしかねない。

…他最も議論を呼んだ議題は、投資家の紛争解決手続のための条項 (ISD条項) の適用範囲に関してだ。ベトナムのみが、事後設立段階のみにISD条項を適用するとの立場を守っている。この協議中、マレーシアおよびブルネイは、事前と事後どちらの設立段階においてもISD条項を適用することに同意し、ブルネイは、ISD条項の事前設立段階を撤廃する付属書に含まれる状態となり、マレーシアは将来的に審査枠組みを行う権利を留保した。協議参加国間で根本的な差異があることを鑑みると、この問題は妥結からは程遠い。

[国有企業]:

ペルーが交渉に参加した。マレーシアは今秋にも参加すると表明。協議会はこの項目の議論において進歩を見せた…

…マレーシアは、交渉の席に着くことに同意したので、この条目に12カ国含まれる。協議会は、専門的な議論において進捗した。しかしながら、主席交渉官等は、シンガポールにおいて条項すべてに代表が同意する立場にはないことを認めており、協議会が4つ以下の質問からなるリストを作成した。リストは2部構成になっており、1部は準国家レベル条項、助成金の規制、あるいは自由競争による利益、2部は例外措置あるいは適用範囲の制限といった中心的な事柄に関する決定を主張した。アイディアの核は、代表者がこれらの質問に答え、それを基礎としてシンガポールにて協議参加国が取り組み回答を条項に反映させることにある。

これは、条項の交渉が煮詰まっていないことを考えると大変な仕事となるだろう…

…メキシコ、シンガポール、ペルーによる対談で共通したのは、TPPは妥結は程遠く、シンガポールで予定される会合で進展の余地はほぼないという理解であった…

[物品市場アクセス]:

10月25日金曜日、ソルトレークシティ会合の前に、第3条項が達成され、提案の95%を開示することとなった。日本以外のすべての国は応じたが、日本はつい最近交渉の席に着いたばかりなのである意味そうする権利があった…シンガポールでの首脳会合で具体的な成果が挙げられるよう双務的な交渉を詰めるように求められている。

日本を取り巻く状況は特に難航するよう思える。例外を設けないという合意を高い水準で確認することが求められ、それにより日本 (および残り数カ国) が行動に移すことが望まれる…

関税交渉に関しては、第4条項は達成されていない。アメリカは、妥結される包括的な条項がどれであるのかが明らかになるシンガポール会合まで留保しておきたいためだ。カナダ、チリ、オーストラリアやペルーと共に、ニュージーランドは、アメリカのやり口と、透明性が欠如したままであることに苛立っていると報じられている…チリは、シンガポール会合前に更なる透明性が必要であると述べ、シンガポール会合で協議される条項の状態がわかるだけでは十分ではないとした。アメリカは、受け入れ枠の利用が、いくつかの国々にとってある種困難であると表明する方法となるだろうと述べた。これは、砂糖に関してオーストラリアにアクセスを許可することとなるかもしれない。主席交渉官は、双務的な会合を詰め、また会合の中でこの提案の過程に関する情報を提供するよう指示した。しかしながら、この点で状況が改善する予想はあまり見られない…

…条項に関しては、いくつかの項目は妥結されたが、アメリカが拒否した農業関連事項は継続中である。特定の品目に関しては、アメリカは付属書を通じて各国の利害対象となる品目が何であるのか、問題をはっきりさせるつもりだ…

[原産地規則]

セクションAおよびBではほとんど進歩は見られなかった。ベトナムとメキシコが、それぞれの懸念分野において動きをほとんど見せなかった…

[特定原産地規則]

…多くの課題が残され、予定する枠組みのなかで妥結できるかは、残された課題が最も慎重にならざるを得ないものであることを特に鑑みると、不明瞭である…

[繊維]:

…メキシコが、他の国々、特にベトナムがメキシコに利益を組み入れていないとして供給不足品目から退くと発表した後に深刻な危機があった。これは、メキシコが最も厳しい全体的な規制 (Yarn FonNard) を適用し、リストに含まれる187品目もの量を受け入れられないということを暗示している。ペルーも、公共部門に問題が因じるとして大きな反応を示した。…メキシコのこの反応は、アメリカによって以前「でっち上げられた」ものという印象を受ける。この危機はいまだ進展中である…

[SPS (衛生植物検疫)]

…唯一未解決となっているのは議論の決着点だ。アメリカは、全体的な枠組みの適用を受け入れられるとしたが、

撤廃を支持するオーストラリアを除く協議参加国すべてが、アメリカの提案に同意する様子だ。

…アメリカも、この条項のいくつかの規則を自国の影響を弱める方向で再び協議するとした。しかし、アメリカが柔軟性をみせていないことやあまり価値のない条項に時間をかけすぎることで懸念材料となっている。

[一時的入国]:

アメリカは、市場の要請を不可能であると表明し続けている。

[環境]:

会合は、環境法の定義を巡って2番目の問題を看過できないとして、中断された…

[法制度]

例外に関していえば、進展はまったくなく、ほとんどすべての条項は継続中である。タバコは、アメリカが新たな提案をし、マレーシアも提案を固持しているが、関税撤廃の例外とすることが真剣に考慮されている…

[金融サービス]:

進捗は十分ではない。各国の立場は平行線を辿っている。アメリカはまったく柔軟性を示さない…

[農業輸出補助金]:

アメリカを除くすべての参加国が撤廃する立場を表明した。

[ITA (情報技術協定)]:

各国は、技術製品リストに関税を与えることを含む、この相互的協定に参加することを堅く約束した。

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