「休眠口座」の預貯金は何に使うべき? 自公が法案提出を検討

長期間お金の出し入れがない、あなたの「休眠預金」が公共事業に使われることになりそうだ。自民・公明両党は、「休眠口座」の預貯金を、公共のために活用することができる法案を検討するとした。どのような事業に使われることが望ましいのか。

長期間お金の出し入れがない、あなたの「休眠預金」が公共事業に使われることになりそうだ。

自民・公明両党は、銀行などで10年以上お金の出し入れがない「休眠口座」の預貯金を、公共のために活用することができる法案を検討するとした。休眠口座に預けられているお金を一旦「機構」に移し、その機構を通じて事業などに貸し出すことができるようにする。NHKニュースが報じた。

自民・公明両党は、金融機関に10年以上預けられたまま一度も取り引きがない、およそ400億円に上るとされる、いわゆる「休眠預金」を、金融機関からほかの機関に移管して公益性のある事業に活用することを検討しています。

両党がこのほどまとめた具体化に必要な法案のたたき台によりますと、金融機関にある「休眠預金」を預金保険機構に移管したうえで、内閣府が第三者委員会の意見も参考に、事業に活用する際の基本方針や基本計画を策定し、これに沿って資金を活用する事業を認可するとしています。

(NHKニュース「"休眠預金"活用 自公が法案提出目指す」より 2013/12/24 04:43)

■「解約のコストが見合わずそのまま......」休眠口座が生まれる理由

全国銀行協会では、10年以上放置されている預金のうち「残高が1万円以上で持ち主と連絡がとれない」「残高が1万円未満」ものについて、休眠口座とするルールとしている。金融庁によると、休眠預金は毎年800〜900億円ほど発生し、うち4割程度が申し出により払い戻しされるという。

口座を開きお金を預けたものの転勤や結婚などで長期間放置してしまい、解約しようにも銀行までいく旅行代のほうが嵩んでしまう状態であったり、家族が他界したので口座を解約しようとしたが、相続者全員分の印鑑証明が必要で手間がかかるためそのままというものなどが休眠口座になっている。

なかには、2年以上取引がない場合に休眠口座とみなし、年間1200円の口座管理手数料をとったり、手数料の引き落としもできない場合は解約とするようなところもある。

ところがこれらの休眠預金は、金融機関の利益として処理されていたため、新党日本の田中康夫氏が2010年に国会で「金融機関の不労所得」と追求。その後、民主党政権が、休眠預金を東北復興の資金として活用できないかという案を出して話題になった。

休眠預金の活用は、当初は全国銀行協会など7団体から反対意見がでていたが、後に「国民的な理解を得る、立法措置がとられる、新しく発生する休眠預金に限る、の3点が守られれば、協力はする」と態度が変わっている

これを受けて民主党政権では、2013年に法整備を行い、2014年度から検討を進めるとしていたが、自民党へ政権が変わったため、この案は一度は途切れた状態になっている。

■自民党も乗り気の「休眠口座活用」、どのような事業に資金が使われるべきか

安倍政権も、休眠口座の活用には乗り気だ。3月には菅義偉官房長官も、休眠口座を公共のために活用することは極めて重要だと答弁している。今後議論になるのは、どのような事業に休眠口座の資金が使うべきかという基本方針や、資金が適正に使用されているかをチェックする体制づくりとなる。

休眠預金の使い道について、民主党政権時代に政府に「休眠口座基金創設」を提案した一人、NPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表は、公共のためにつかうべきと提唱している。駒崎氏自身も、ひとり親家庭の子達のために大学進学などを目的とした借り入れの方法を探っていた際に、海外諸国には休眠口座を使って少額融資をする仕組みがあることを知ったという。

イギリスや韓国などでは、休眠口座に眠るお金を銀行の利益にするよりも社会のためにつかうべきとする考えから、次のような取り組みが行われている。

韓国では1997年のアジア通貨危機の際、銀行が国の支援を受けた。これをきっかけに「公的支援を受けている銀行が、休眠預金を利益にしているのはどうか」という声が国民から高まった。当初は銀行業界が猛反発した。だが、貧困対策のマイクロ・クレジット(小口融資)でノーベル平和賞を受けた元グラミンバンク総裁のムハマド・ユヌス氏が2006年に訪韓したのを機に、盧武鉉大統領(当時)は休眠預金を小口融資として活用できると考え、07年に新法を制定。休眠口座を活用する財団を設け、貧困層への融資や社会的起業の支援をしている。

英国では、04年に労働党政権が休眠口座の活用を提唱、08年に法律を作った。10年に保守党に政権交代した後も引き継がれた。09〜11年に休眠預金となった473億円のうち190億円を返還請求用に確保。186億円を低所得者層の子供の教育や社会的起業の支援に使った。不況で支援を必要としている人が多く、特に反対はなかったという。

(朝日新聞GLOBE「[第91回]年800億円の休眠口座、活用を 銀行の利益より、社会支援に -- 先読み世界経済 -- 」より 2013/01/20)

自民党政権では2013年2月に、東北で高齢化が進む豪雪地帯などで、雪下しを代理で行うボランティアやNPOに、休眠口座の預貯金を使うことを検討すると報道されている。これは、民主党政権時代に事業仕分けで除雪費用がカットされたため、これまで除雪を請け負ってきた業者が機械の買い替えなどができず、今後除雪体制を維持できなくなる恐れがあるという懸念から出てきたものである。

菅元首相は除雪の費用をカットしたことに対して、間に入っていた公益法人による中抜きなどがあったためと答弁したが、ボランティアやNPOに資金を援助し監視するすることで、除雪コストを抑えることも狙いとみられる。

このほか、経営コンサルタントの大前研一氏は、民主党政権が提案していた東北復興に休眠預金が使われるよりも、若者の起業のために休眠預金を使うほうが、国家にとって有益な資金運用となるのではないかと述べている。

若者に限っての起業支援が上手く活用されれば、何万社も起業し、そこから多くの上場企業が出てくる可能性もあり、それは日本の将来を大きく変えるきっかけになり得ると思います。国がそこまで手を差し伸べてくれてくれるのなら、若者、あるいは定年退職した人なども、大いに刺激を受けて意識が変わるはずです。

ぜひ日本の将来のために、若者が作る日本のために使ってもらいたいと思います。

(大前研一 ニュースの視点 blog「本四連絡道路と休眠口座~真剣に「活用する」ことを考える」より 2012/03/02)

休眠口座の預貯金を「使う」のではなく「投資する」という考え方は、イギリスでも同じのようだ。イギリスで休眠預金を社会的投資に活用しているBig Society Capitalは、基金が目減りしないように運用することを、行動指針の一つとしている。そこには、団体にお金を与えるのではなく、団体に投資を行い、その利益を基金の運営資金に充てるという考え方がある。また、直接現場で活用するNPO団体などにお金を出すこともせず、現場のNPOにお金を出している団体に資金を提供する点も、Big Society Capitalの特徴の一つとなっている。

大前氏は、休眠口座への指定は、取引がなくなってから「3年」でも良いのではないかとの考えも示しており、その際の休眠預金は、日本国債の原本返済にあてるべきではないかとも述べている。

なお、国債については、銀行は休眠預金を利用して国債を引き受けているという指摘もあり、休眠預金が基金に集められると、銀行が国債を引き受けられなくなるのではないかと懸念する声もある。通信社で日銀担当をしていたある編集員は、次のようにツイートしている。

はい。なので、休眠預金を使うと... @swmemo 休眠口座の資金って、思うにきっと国債買ってる原資だよね。

— 本石町日記 (@hongokucho) January 27, 2011

【※】休眠口座の資金を公共のために活用することについて、あなたはどのようなものに使われるべきだと思いますか。ご意見をお寄せください。

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