辺野古埋め立てで住民ら提訴へ 世界自然遺産の申請に影響は

辺野古の埋め立てを取り消してほしい――。埋め立てに反対する近隣住民らが、県を相手に訴訟を起こすことが明らかになった。琉球地方は世界自然遺産の登録も予定されているため、県の判断が環境保全の面からも法律にそっているかが焦点となりそうだ。
時事通信社

辺野古の埋め立てを取り消してほしい――。埋め立てに反対する近隣住民らが、県を相手に訴訟を起こすことが明らかになった。その背景には、政府が世界自然登録を目指す琉球地域の環境が、埋め立てによって破壊されないかという懸念があるようだ。

沖縄県名護市の辺野古沿岸部は、米軍の普天間飛行場を移設するため政府が沖縄県に埋め立てを申請。12月27日に仲井真弘多知事がこれを承認した。訴訟を起こす126人の県民らは、仲井真知事の承認が法律違反であると指摘。承認の取り消しを求めるとされる。琉球新報が報じた。

訴訟は昨年12月27日に仲井真知事が表明した埋め立て承認について、国土の適正、合理的な利用や環境への配慮などを定めた公有水面埋立法の要件を満たしてなく違法だとして、県を相手に取り消しを求める。提訴と同時に、承認の効力停止を求める申し立てをする。原告には辺野古、久志などの近隣住民が6人、その他の名護市民が19人、他地域の県民が101人参加している。今後さらに原告を募って追加提訴も検討している。

(琉球新報「埋立承認取り消し15日に提訴 効力停止も申し立て」より 2014/01/09)

県民らが指摘する「公有水面埋立法」は、公共に用いられる河川や海などの埋め立てに関する法律で、埋立地の用途が適正かどうかや、環境の保全に十分配慮がされているかなどを、慎重に審査しなくてはならないと定めている。

仲井真知事は承認前、地元自治体などが米軍基地内の環境調査を可能にする協定環境監視委員会を設けることなどを国に求めた上で埋め立て承認するとしていた。12月27日の会見では、承認に至った理由として、現段階で取り得ると考えられる環境保全の措置などが講じられていると述べている。

しかし、米軍基地へ立ち入り環境調査ができるかどうかは、これから日米両政府で対応することになるため、きちんとした調査が可能となるのかどうかは、まだわからない状態だ。

また、日本政府が奄美・琉球地方を世界自然遺産として登録することを考えていることも、環境保全を考えるポイントになる。奄美・琉球地域には、この地域だけに残された特定の固有種(遺存固有種)が分布しているが、世界遺産の対象となる地域には沖縄の北部も含めるとされているため、辺野古埋め立てによる影響も懸念される。

辺野古埋め立てについては、沖縄県の環境生活部が「自然環境保全についての懸念が払しょくできない」と資料を出していることもあり、世界遺産登録のために地域を調査する国際自然保護連合(IUCN)が、埋め立てをどう捉えるかということを、沖縄タイムスは指摘している。

やんばるの山と辺野古沿岸域は近距離にあり、同一のエリアといっていい。外来種が侵入すれば、生態系への影響は計り知れない。

自然遺産登録の手続きとしてIUCNによる現地調査がある。IUCNは過去にノグチゲラ、ヤンバルクイナと生息地の保全、辺野古のジュゴン保護を求める勧告を出している。基地建設のための公有水面埋め立てを調査団がどう判断するだろうか。

(沖縄タイムス「社説[自然遺産候補地]生態系の保全は万全か」より 2013/12/30 05:51)

このような状況もあり、辺野古埋め立てが、公有水面埋立法にそったものか、疑問の声も出ていた。

「埋め立てて基地を造ることが、公有水面埋立法でいう『国土利用上適切かつ合理的』に当たるのか。大いに疑問だ」。元世界自然保護基金(WWF)ジャパンの花輪伸一さんは憤った。辺野古沖は県の環境指針で厳正に保護する「ランク1」に指定されている。「承認ありきで自ら作った環境指針を否定する。何のための指針か」と嘆いた。

(沖縄タイムス『埋め立て承認:環境保護団体「支離滅裂」』より 2013/12/29 09:10)

なお、世界自然遺産に登録されてから2013年12月11日でちょうど20年を迎えた屋久島では、この20年で世界からの観光客が増え、若者住民が増えるなどの変化があったことが報じられている。

この20年間で、年間1万人程度だった縄文杉登山道への入山者数は約8倍に増加。島に入った人の数もピークの2007年には40万人を超した。宿泊施設やガイド業の需要が高まり、一次産業が中心だった同島の経済構造は大きく変化。若者の移住者が増えたことで、それまで右肩下がりだった人口はほとんど減らず、約1万4000人でとどまっている。

(時事ドットコム『「未来向け自然守る」=世界遺産登録20年-鹿児島・屋久島』より 2013/12/10 19:47)

名護市の名桜大学に通う県外出身の大学生の一人は、辺野古の問題について次のように話す。

鹿児島県出身の脇島田(わきしまだ)有伽さん(21)=3年=は、那覇空港に向かう飛行機の窓から見た海の青さが忘れられない。「『普天間は危ないから』と辺野古に移設しても、悲しい思いをする人は必ず出てくる」「おばあちゃんになったとき、孫たちに『沖縄の海は昔、とてもきれいだったんだよ』と言いたくない」と話す。

(琉球新報『「ジュゴンの海になぜ」 県外出身名桜大生、辺野古で知る過酷さ』より 2013/12/23)

現在30〜40歳の世代は20年後、50〜60歳になる。そのときに沖縄に世界自然遺産があるべきなのか、それとも米軍基地があるべきなのか。辺野古埋め立て承認をめぐる訴訟の行方が注目される。

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