政府の規制改革会議メンバーである大田弘子・政策研究大学院大学教授(元経済財政担当相)はロイターのインタビューに応じ、昨年6月の成長戦略が「即効性重視」だったのに対し、今年6月にまとめる第2弾は「阻害要因除去」型による民間投資・産業の新陳代謝を促す内容に傾斜すべきと指摘。
法人実効税率引き下げ、岩盤規制などの規制改革、転業・廃業支援が重要課題になるとの考えを示した。インタビューは20日に行った。
<第2弾成長戦略で「成長期待」につなげるかがカギ>
2014年の日本経済を展望して、大田氏は「約5兆円の経済対策効果が夏には徐々に出てくる。それでつなぎながら、6月の成長戦略で構造改革に踏み込んだメッセージを明確に出し、成長期待につなげることができるかがポイントだ。20年間の停滞を抜け出すだけの構造問題への取り組みができるかがカギになる」と述べた。そのうえで「法人実効税率引き下げ、規制改革、転業・廃業支援が重要なポイントになる」と語った。
<法人実効税率引き下げでは、大胆に租特見直しを>
このうち法人税改革に関しては、安倍首相指示で大きく前進したと評価した。一方、今後の議論では「単に税率を下げるだけでなく、課税ベース拡大が大事だ。租税特別措置には一部の産業に有利なものが根雪のように残っている。個別の産業に有利なものは大胆に見直していくべきで、法人税体系そのものを変えていく必要がある」と語った。
さらに「今、日本企業は本気で国内投資を増やすかどうか迷っている段階だ。高齢化が進む中で、(海外からの)対日直接投資を増やしていかなければならないタイミングでもある」として、産業政策として早期の決断を促した。
<岩盤規制、最優先課題で取り組み>
第2の柱に挙げた混合診療などの「岩盤規制」については「最優先課題で取り組む」とし、6月のとりまとめに向け議論を進めているとした。
大田氏は「今考えるべきは、これまでのやり方の修正でなんとかやっていけるのか、あるべき姿に向けて思い切って変えるか、どちらを選択するかだ。この認識によって政策が大きく変わる。私は今までの修正ではもう、もたないと思っている」とも語り、従来の制度の修正を超えた抜本改革の必要性を強調した。
21日の規制改革会議では、混合診療について、一定の基準のもとで患者と医師が選んだ治療について、個別に保険診療との併用を認める新制度を提言している。
<生産性上昇に向け、転業・廃業支援策>
消費増税後の消費の回復を左右する賃上げについて、2014年経済のリスク要因として挙げ「単に賃上げ要請では上がらない。生産性を上げるしかない」として、中小企業に対する転業・廃業支援策を重要な政策課題の3番目に上げた。
サービス産業で働く従業員は全体の7割を占めるが、平均賃金が低い業種が多く、そのために消費も増えず、地域経済も振るわない。
大田氏はここにメスを入れる必要があるとし、政府内で検討されている新たな私的整理の指針づくりに注目した。早期に会社清算に取り組める仕組みが検討されており、カギを握るのは、業績の悪化した企業の不良債権処理に踏み切るかどうか、地方銀行や信用金庫など金融機関の対応とみられている。
<5年の中期財政再建プログラム策定を>
内閣府が20日に発表した中長期の経済財政試算では、2015年度の基礎的財政赤字半減目標は達成するが、20年度の黒字化には届かず、厳しい財政状況が浮き彫りになった。
政府の財政健全化の取り組みに関し、大田氏は「5年程度の中期の財政再建プログラムを明確にすべき」と提言した。政権として財政運営能力を明確に示さなければアベノミクス全体が崩れると警告し、財政健全化目標達成のために必要な歳出と歳入の差額(要対応額)に対して「増税・歳出削減、(成長に伴う)税収増」の組み合わせの議論を始めるべきだと語った。
同時に、政策的経費の3分の1を占める社会保障関係費を見直すために、社会保障制度改革の必要性を訴えた。年金支給開始年齢の引き上げや年金課税など課題は山積しているが、年金改革は福田内閣の社会保障国民会議からほとんど進展しておらず「仕切り直しが必要」と指摘。「社会保障制度改革に踏み込まない限り、財政再建はない」との見通しを示した。
(インタビュアー:吉川裕子、編集:田巻一彦)
[東京 22日 ロイター]
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