グローバル人材を育てる5つのこと 大使館流の「人育て」とは グローバルインターンシップ受入機関に聞く

グローバル人材育成のために、外国語教育以外にも取り組むべき課題はないのだろうか。日本人学生に足りないことは何か。日本人大学生をインターンシップ(就業体験)で受け入れている、在日大使館や観光局の担当者に話を聞いた。
HuffPost

グローバル人材育成がいよいよ始まる。安倍首相は国会の施政方針演説において、グローバル人材の育成に取り組むと述べた。英語による授業を中学生から開始することや、大学卒業認定にTOEFLを活用するなど、英語でのコミュニケーションに重点を置いた教育改革をすすめるという。

しかし、外国語教育以外にも取り組むべき課題はないのだろうか。日本人学生に足りないことは何か。日本人大学生をグローバルインターンシップ(就業体験)で受け入れている、在日大使館や観光局の担当者に話を聞いた。

【1】日々の業務からチーム全体の仕事まで「目標と時間管理を意識させる」

エルサルバドル共和国大使館で日本人インターン生の受け入れを受け入れを担当するのは、秘書のマリア・カステジャノスさん。自身も日本の大学で学んだ経験を持ち、日本に住んで10年ほどになる。インターン生からは「明るくて優しい人ですが、仕事になるとシビアな人」との評判だ。

仕事において大切なことは何か。マリアさんがインターン生たちに必ず伝えることは「仕事の目標と時間管理を意識する」というものだ。

「大きい仕事はもちろん、小さい仕事であっても、目標を持つ。目標があると、自分は何をしなくてはいけないかクリアになります。

また、時間も管理させる。どのようにそれをやるのかを考えてもらう。

目標と時間管理を意識することで、達成感が違ってきます」

マリア・カステジャノスさん「大使館では日本の学生さんと交流する機会があまりないので、エルサルバドルのことを知ってもらう良い機会だと思った」

インターンの期間は約2ヶ月。その間にインターン生に任せる仕事は、郵便の仕分けや名刺情報の入力などの事務作業のほか、イベントのチラシ作成やプレゼンテーション資料作成などクリエイティブな作業、また、電話対応やイベント当日の手伝いなどの対人的なものなど、多岐にわたる。

たった2ヶ月という短い職業体験ではあるが、目標を設定して取り組むことで、より濃い体験に変えることができる。マリアさんは、何時までにこの仕事を終わらせるのかという日々の仕事の目標はもちろん、イベントなどのプロジェクト全体の目標、チームの目標も共有して認識してもらうという。

「チームとしての目標もそうですが、その中で自分はどのような役割を果たすのか、また、自分の仕事がどのようなものであることが望ましいのかをイメージしてもらい、それに近づくようにやってみてくださいと話します」

マリアさんのいう目標設定と時間管理の意識は、外資系企業ではごく当たり前のことだ。というのも、外資系企業(特に欧米企業)には「ジョブ・ディスクリプション(job description:職務記述書)」という仕組みがあるからだ。

ジョブ・ディスクリプションとは、果たすべき役割について各スタッフごとに用意されているもので、その人がやるべき具体的な仕事の内容のほか、必要とされる知識や技術、責任・権限の範囲、予算枠の大きさ、期待される結果などが記されている。このジョブ・ディスクリプションをもとに契約を結び、またこのジョブ・ディスクリプションによって、各人の仕事ぶりが評価されることになる。

日本では「この部門はこういう目的を持って、こういう仕事をしている」ということぐらいは、部署名などで表されたりすることが多いが、外資系ではこれをより細かく明文化して、スタッフごとに用意している。

インターンシップではジョブ・ディスクリプションまでは用意されていない。しかし、マリアさんの話す目標と時間管理の意識はそのその代替になる。

マリアさんは日報など通じて、インターン生の目標とその取り組み結果について、成長した点や改善するべき点をフィードバックし、さらなる進歩を促しているという。この日々の積み重ねが、「自分で考えて仕事に取り組む」という意識づけに繋がっている。

【2】信じて、任せる。そして「チャレンジさせる」

しかし時には、思いがけないアクシデントに遭遇するインターン生もいる。

イベントの手伝いをする原崎瞳さん。偶然もらったチラシでグローバルインターンシップを知り「変わらなくては」と考えてインターンに参加した

エルサルバドル共和国大使館でインターンを経験した原崎瞳さん(大学2年)は、インターン期間中に手伝ったイベントで、突然大勢の人前で話をしなくてはいけない状況に陥る。パソコントラブルにより、用意していたパワーポイント資料が動かなくなってしまったのだ。

パワーポイントを自動的に動かすだけでよかったプレゼンテーションを、マリアさんが英語で話し、それを原崎さんが日本語で話して、観客に伝えなくてはならなくなった。

マリアさんは全く予想外のことだったと、当時のことをそう振り返る。

「読む練習などしていなかった。しかし、予想外なことが起きたときに、冷静に対応できるのか。また、積極的に動けるのか。そんな学生たちの一面をみることができました」

アクシデントが起こったときでもインターン生に任せることができるのは、彼らを信用しているからであるともいえる。

「失敗を怖がらないほうがいいです」と話すのは、クロアチア政府観光局で代表を務めるエドワード・トゥリプコヴィッチ・片山さん。子供でも大人でも失敗する。失敗を受け入れることが、仕事の上達につながるという考えでいれば良いと話す。

「チャレンジしたことによる間違いなのだから、気にしなくていい。どんどんチャレンジすればいいんです」

【3】信頼を築く―「オープン・マインド」

失敗してもいいから、チャレンジすべきとはいっても、失敗は怖いもの。社会経験が少ない学生にとっては、失敗によってもたらされる影響がどれほどのものになるのかを想像することもできず、余計に手を出しにくいというものもあるだろう。

しかし、そこに頼れる上司がいたらどうだろうか。「何かあっても、この人は助けてくれる」という上司への信頼が、部下のチャレンジ精神を鼓舞するのではないだろうか。信頼感がある上司のありかたとして参考にしたいのが、エドワードさんの仕事のスタイル「オープンであること」だ。エドワードさんはインターン生とも、ごく自然体で付き合う。

「僕は基本的に、オープンです。どんな質問にも答えるようにしています。インターンシップに教えなくてはいけない事が書かれた教科書的なものはありませんが、折にふれて、いろいろな話をするようにしています。たまにはクイズも交えたりしてね」

エドワードさんの特徴は、相手に対しても固定観念にしばられず受け容れるという点にあるようだ。決して相手を途中で遮らず、最後まで話を聞く。そして、きちんと受け答えをする。

この、エドワードさんのように、自分について正直に表現するとともに、どんな人にも敬意を払って話を聞く「オープン・マインド」な接しかたをすることが、安心感があるコミュニケーションにつながる。更には、部下にものびのびと仕事をさせることができるようになる。

オープン・マインドな接し方がコミュニケーションに与える影響を理解するためには、「ジョハリの窓」という理論がわかりやすい。

ジョハリの窓とは、自分が知っている自分、他人が知っている自分を、次の4つの窓(カテゴリ)に分類して理解する心理学の分析方法。自分にも他人にも分かっている「開放の窓」の領域を広げることが、より円滑なコミュニケーションを取ることにつながるといわれている。

ジョハリの窓

johari

開放の窓:自分も他人も知っている自分

盲点の窓:自分は気付いていないが、他人が知っている自分

秘密の窓:自分は知っているが、他人は気づいていない(隠している)自分

未知の窓:自分も他人も気付いていない自分

インターン生の石川稔さんとエドワードさん

「開放の窓」を広げるには、自分のことを開示して、「秘密の窓」を狭める方法と、他人が気づいていることをフィードバックしてもらうことで「盲点の窓」を狭める方法がある。オープン・マインドな接し方が、「開放の窓」を広げることになっている点に気がつくだろうか。

クロアチア政府観光局でインターンシップを体験した石川稔さん(大学4年)は、エドワードさんとの仕事を通じて、ポジティブに物事を考え、仕事に取り組むことができるようになったという。人に対してオープンであることが、仕事に対しての消極的な姿勢を変えることに繋がるのだ。

「インターンシップの中でクリスマスイベントを手伝う機会がありましたが、企画して、人に楽しんでもらって、さらにイベントの前よりも、クロアチアについて知ることができるような機会を提供する。人に伝えるという仕事は、こういうことなのかと印象に残りました。もっとやってみたくなりました」

【4】「多様性」の存在を理解させる

しかしエドワードさんは、日本には「グローバルなコミュニケーションをしたい」と強く希望している学生がいる反面、内に閉じこもっている若者も多いと指摘する。これはエドワードさんの感想だけでなく、調査データでも如実に数字に現れている。

産業能率大学が2013年の新入社員に対して行った調査によると、海外での就業希望について、海外では働きたいとは思わないと回答した人が約6割になり、2010年の調査に比べて10%以上ふえたという。

経済産業省がグローバル人材育成のために設置した「グローバル人材育成委員会」の報告書によると、グローバルな人材とは「多様な人々と共に仕事をし、活躍できる」と定義されており、そのような環境においては、「異文化の差」を「良い・悪い」と判断せず、興味・理解を示し、柔軟に対応できるなどの「異文化理解・活用力」が必要になるとしている。

内に閉じこもっていては、これらの異文化理解が進まない。エドワードさんは、日本が豊かであることが、外に目を向けない人を増やすのではないかと話す。

「日本は豊かで、日本にいれば事足りる。海外に目を向ける必要性もなくなってしまったのかもしれません。

しかし今、世の中はグローバルな時代になってきている。この国の規模を見ると、内に閉じこもっていては、今後難しいかもしれません。日本にも多くの外国人がやってきていますね。それなのに閉じていては、今後ますます難しくなると思います」

エドワードさんは、日本の教育にも原因があるのではないかと分析する。

「ヨーロッパの若者と日本の若者を比べたときに、日本の若者は圧倒的に、グローバルな知識が不足していると思います。グローバルな話題について若者同士で議論すると、日本の若者が負けるんですね。

特に世界史の知識が少ない。クロアチアでは、小学校と高校で2回、世界史を学びます。自分の国だけでなく、他の国のことを知ろうとするんですね。日本はどうでしょうか。世界史を学ばなかったという人もいたと聞きます」

文部科学省は2013年12月、グローバル化に対応した教育環境作りを進めるための「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を発表。その際には英語の授業の充実だけでなく、日本のことを海外の方に発信できるように「伝統文化・歴史教育」に触れる機会も増やすとした。しかし、この計画においては、世界史の授業を増やすことについては触れられていない。

【5】行動を促す―「新聞を読むだけではなく、行動を」

エドワードさんはさらに、クロアチアでは高校で1〜2年間、哲学や社会学などを勉強すると紹介。大学に行くまでに自分が何をやりたいのかを、じっくり考えるようになると話している。また、クロアチアでは小さい時から、学校以外にも活動する機会が豊富にあるという。

「クロアチアでは、朝8時頃から授業が始まり、昼過ぎには終わります。その後各自が、遊んだりするだけでなく、地域で活動したりするなど、学校の勉強ではない活動を行います」

自ら活動し、経験をすることの重要性は、エルサルバドル共和国大使館のマリアさんも指摘する。

「いろいろな人から話を聞くだけではなく、自分で足を運んで、自分の目で見て、自分の意見をもつということにチャレンジすればどうだろうか。海外に行くことも、日本の周りに何が起きているのかを見る一つの機会。

新聞を読むだけではなく、実際に見てみると、自分では遠いと思っていたことが、実は自分と近かったり、何かに気がつくこともあると思います。これからやりたいことが見つかるきっかけにもなるのではないでしょうか」

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【※】NPO法人ドットジェイピーの展開するグローバルインターンシップは、日本にある日本に拠点を置く大使館・領事館・商工会議所等の各国公的機関や、国際的な活動を行うNGO等におけるインターンシップ。詳細はこちら

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