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クルマの安全技術とエアバッグの進化

警察庁のまとめによると、2013年の日本国内の交通事故死亡者数は4,373人。その数は13年連続で減少しており、1年間の死亡者数が1万人を超え、「交通戦争」と揶揄された高度成長期(ピークは1970年の16,765人)と比べると、1/3以下の数字となっている。
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警察庁のまとめによると、2013年の日本国内の交通事故死亡者数は4,373人。その数は13年連続で減少しており、1年間の死亡者数が1万人を超え、「交通戦争」と揶揄された高度成長期(ピークは1970年の16,765人)と比べると、1/3以下の数字となっている。

交通事故死亡者数減少の主たる要因は、乗員保護装置であるシートベルトや、エアバッグといった乗員保護補助装置の技術革新と普及にあることは間違いないだろう。実際1970年代後半以降、交通事故の犠牲者は「運転中の乗員」が多数を占めていたが、プリテンショナー(衝突時締付け)機能付きシートベルトやエアバッグの普及、あるいは衝撃吸収ボディの開発といったメーカー側の安全装備への取り組みや、行政によるシートベルト着用義務化などの指導もあり、2008年以降、「乗員」の死者数は「歩行者」を下回る結果となっている。

現在、乗員保護装置のスタンダードとして最も普及している「3点式シートベルト」は、1959年、ボルボによって開発されたテクノロジーだ。ボルボは特許を取得するものの、人命に直結する技術ということもあり、この技術を全メーカーに対して無償公開することで、今日の安全の礎が築かれることとなった。

その「3点式シートベルト」に続いて、乗員保護補助装置として重要な役割を果たしているのがエアバッグであることに異論はないだろう。しかしこのエアバッグの誕生に、ひとりの日本人技術者が大きく関わっていたことを知る人は、あまりいないのではないだろうか。その名は小堀保三郎氏。特定非営利活動法人 日本自動車殿堂によると、1963年に小堀氏の考案した「衝突時乗員保護のシステム」は、衝撃加速度検出装置、弾性防御袋(エアバッグ)、気化ガス発生装置などで構成されており、現在のエアバッグの原理とほぼ同様のものだったという。

小堀氏は14カ国で特許を取得するが、火薬の爆発によりバッグを膨らませるという奇抜なアイデアは、特に日本の産業界や省庁からは(消防法に抵触するという点も含め)嘲笑を浴び、本格的に開発されることなく特許の期限は切れてしまう。

その後エアバッグは、1980年にメルセデスベンツがSクラスで実用化したことを皮切りに普及をし始め、日本でも1985年にホンダがレジェンドに採用したことで一気に認知を広めて行くが、その状況を、1975年に亡くなった小堀氏が見ることはなかった。

小堀氏が「発明」したのは、乗員のためのエアバッグばかりではない。彼は、歩行者がバンパーに接触したことを検出し、ボンネットに倒れ込む前に作動する「歩行者エアバッグ」も考案していたのである。しかし小堀氏の夢は実現しなかった。

一方ボルボはV40の設計開発段階でAピラーに頭をぶつけるリスク軽減のため、歩行者エアバッグの開発に着手。2011年「歩行者エアバッグ」を搭載した新型V40を発表した。

ボルボが開発した歩行者エアバッグは、市街地走行を想定した20km/h〜50km/hで作動し、エアバッグの展開により一瞬でフロントガラスを覆い、歩行者が致命傷を負うリスクを軽減する仕組みとなっている。

車両が歩行者と衝突すると、フロントバンパー裏に配置された7つのセンサーによって、バンパーの変形を測定。この情報によって、衝突の対象物や、エアバッグを展開させるべきかどうかを判断するアルゴリズムが瞬時に働くという。エアバッグの展開は、まずボンネットが10cm上がり、エアバッグの膨張のスペースを確保すると同時に、エンジンの硬い部分への直接の衝撃をボンネットの変形で和らげる効果を作り出す。膨張したエアバッグは、約50ミリ秒(1/20秒)以内にフロントガラスのおよそ1/3とAピラーの下半分まで展開し、歩行者の上半身と頭部を保護する設計となっている。実際の事故データを綿密に分析した末の回答が、この構造、この形状なのだという。

前述の通り2008年以降、交通事故における「死亡者」の割合は、「乗員」が「歩行者」を下回っている。この流れを見ると、「安全」を自社のコアバリューとするボルボが、新しいボルボ車において、交通事故による死傷者ゼロを目指す「ビジョン2020」を掲げる上で歩行者エアバッグに目を向けたのは、実に自然なことだったと言えるだろう。

そしてボルボが現在最も注目しているは、「ぶつからない車」だ。同社の衝突回避技術の研究は、前方車両への接近や障害物を感知し、衝突前に自動ブレーキをかけ停止する「シティ・セーフティ」に始まり、検知対象を人に拡大した「ヒューマン・セーフティ」、更には昨年8月末には検知対象を自転車にまで広げる「サイクリスト検知機能」を搭載した新型車を発表。衝突時の乗員保護装置は、もはやこれらの衝突回避技術の補完的機能になりつつあるのかもしれない。

同社はヨーロッパにおいて、衝突回避技術の検知対象を野生の動物にまで広げる技術や、見通しの悪い夜間でも人間を検知できる技術の研究を進めており、更なる衝突回避性能の向上が期待できそうだ。

シートベルトやエアバッグは衝突時に乗員を保護することを目的に作られた装置だが、現在は衝突自体を回避する時代に突入しつつある。小堀氏の時代では想像できないほどに、安全技術は進歩してきているのだ。安全な社会を創る自動車メーカーが増えていくことを1人のドライバーとして期待したい。

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