【北朝鮮】拉致は「人道に対する罪」国連が認定 金正恩氏訴追の可能性を示唆する書簡も

国連の北朝鮮人権調査委員会は、北朝鮮政府による処刑、飢餓、拉致などをはじめとする人権侵害を「人道に対する罪」と認定する最終報告書を2月17日に発表した。責任者訴追のために国際刑事裁判所(ICC)への付託を提案するとともに、金正恩第一書記を訴追する可能性を示唆するなど、これまでにない厳しい姿勢を見せた。しかし、北朝鮮にどのような影響を及ぼすは定かではない。
時事通信社

国連の北朝鮮人権調査委員会は、北朝鮮政府による拉致問題をはじめとする人権侵害を「人道に対する罪」と認定する最終報告書を2月17日に発表した。

深刻な人権侵害を行っている責任者を訴追するために国際刑事裁判所(ICC)への付託を提案するとともに、金正恩第1書記を訴追する可能性を示唆するなど、これまでにない厳しい姿勢を見せた。この報告書が今後北朝鮮にどのような影響を及ぼすか、注目されている。

■「20世紀の強制収容所を彷彿とさせる」

発表された報告書は372ページにおよび、300人を超える被害者や目撃者への聞き取り調査などによって編纂された。

北朝鮮による拉致・誘拐、殺人、奴隷化、拷問、性的暴行、公開処刑、人種や宗教による差別などの人権侵害行為を列挙し、「現代社会において、これほどまでに甚大で大規模な人権侵害が行われている国は他とない」と北朝鮮を非難した。

また、報告書には政治犯を収監する強制収容所における非人道的な行為についても詳細に記されており、「家族が処刑されるのを見させられた」「(飢餓のために)ネズミやヘビを捕まえては、栄養失調の赤子に食べさせた」など、過酷な環境を描写している。これらの証言に対して、報告書を発表した北朝鮮人権調査委員会は「20世紀の強制収容所を彷彿とさせる」と述べた。

さらに、北朝鮮におけるこうした深刻な事態は「国際社会のこれまでの対応に疑問を投げかける」とし、「北朝鮮政府が人権侵害を続ける限り、国際社会が北朝鮮の市民を人道に対する犯罪から守る責任を負わなければならない」と警鐘を鳴らした。

■金正恩氏に書簡「あなたも訴追される可能性がある」

報告書の末尾には、カービー委員長から北朝鮮の金正恩第1書記に直接送られたという書簡も収められている。

記者会見する北朝鮮人権問題に関する国際調査委員会のマイケル・カービー委員長=2月17日 ジュネーブ

書簡の中でカービー氏は、人権侵害を行っている責任者を訴追する必要性があると指摘し、ICCに判断を委ねるよう提案した。その際、金正恩第1総書記が「個人的な刑事責任」を負う可能性があることも示唆した。

しかし、北朝鮮は国際刑事裁判所に締約していないため、訴追には国連安全保障理事会による付託が必要となる。その場合、中国が拒否権を行使して訴追を阻止すると見られており、これに対してカービー氏は次のように発言した。

「国際社会は(訴追へ)行動を起こすべきだ。隣に人間の根本的尊厳を踏みにじる国があり、そのままにしておくことは中国の国益にとって良くないと中国が判断することを願う」


朝日新聞デジタル「国連、北朝鮮の「人道に対する罪」認定 処刑・拉致など」より 2014年2月18日 2:15)

■日本の主張強化か 北朝鮮の孤立進行か

北朝鮮の人権侵害を強く非難するこの報告書の発表が今後の北朝鮮の動向にどのような影響を与えるかについては、現在意見が分かれている。

MSN産経ニュースは、「拉致問題などを訴えてきた日本の主張の正当性を一段と強化することになる」と述べ、報告書が拉致問題の解決につながると報じた。

独立・中立の委員会が下した結論は「客観的」(外交筋)なものとして大きな意義を持つ。拉致問題などを訴えてきた日本の主張の正当性を一段と強化することになり、国際世論の喚起につなげられる。


日本は国際社会による北朝鮮への調査・監視体制の継続を強く要望している。国連総会には北朝鮮の人権問題に関する特別報告者が置かれているが、それだけでは十分とはいえない。今回の報告書を土台に、問題解決に近づくための体制作りを模索する方針だ。


(MSN産経ニュース「北の『非人道性』周知 国連調査委報告書 拉致解決後押し」より 2014年2月17日 23:13)

これに対してロイターは、北朝鮮政府からロイターのジュネーブ代表部を通じて送られてきた声明を引用し、 北朝鮮の強い反発を報じた。

北朝鮮は報告書について、米国や欧州連合(EU)、日本に支援されている抵抗勢力がでっち上げた資料に基づいていると批判し、「全く受け入れられない」との立場を示した。


北朝鮮はジュネーブ代表部を通じてロイターに送った声明で、同報告書が「社会主義体制の妨害を狙った政治的策略の手段」だと非難。報告書で指摘されている人権侵害は「存在しない」とした。


そのうえで、「われわれは『人権保護』の名の下での体制転換へのいかなる試みにも圧力にも引き続き断固とした対応を取る」と表明した。


(ロイター「UPDATE 1-北朝鮮の人権侵害批判、国際刑事裁付託を勧告=国連報告書」2014年2月18日 4:18)

ロイターは、北朝鮮のこうした反応がさらなる孤立化につながり、「非核化に向けた韓国や西側諸国の取り組みを困難にする可能性がある」と懸念を示した。

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