ジャーナリスト・鳥越俊太郎さんに長野智子ハフィントンポスト日本版編集主幹が本音で聞いた「ネットと報道」「都知事選」「安倍政権」【前編】

ジャーナリスト・鳥越俊太郎さんに、報道番組「ザ・スクープ」(テレビ朝日系)のキャスターを共に務めていたハフィントンポスト日本版・長野智子編集主幹が本音のインタビュー。「オーマイニュース」を始め、インターネットと報道の関係について聞く。

ジャーナリスト・鳥越俊太郎さんに、報道番組「ザ・スクープ」(テレビ朝日系)のキャスターを共に務めていたハフィントンポスト日本版・長野智子編集主幹が本音のインタビュー。鳥越さんが初代編集長を務めた韓国発の市民参加型ネットメディア「オーマイニュース」を始め、インターネットと報道の関係や、2月に行われた東京都知事選の分析、安倍政権の現状について聞いた。

■山梨県の豪雪被害をテレビは報道しなかった?

長野編集主幹(以下、長野):最近、新たなネットメディアである「ハフィントンポスト日本版」に編集主幹として関わるようになって特に感じるのですが、日本の大手メディアはネットに対する考え方が遅れていませんか? 想像以上にメディアの環境は変わっていて、でも未だにテレビや新聞は自分たちが中心だし、力を持っていると思っています。例えば、アメリカではすごい勢いでメディアの状況は変わっていますよね。それに比べて、日本はまだ変わっていない。どうしてでしょうか?

鳥越さん(以下、鳥越):国民がそういう選び方をしています。新聞、テレビは見なくていい、ネットでいいということになれば、新聞、テレビは廃れて淘汰されます。しかし、そうはなっていない。ネットをやっているのは一部の若い人たちで、まだメジャーではない。その状況が変わらない限り、メディアの状況は変わらないと思います。

長野:2月14日から16日にかけて、関東甲信地方で記録的な大雪が降りました。私は16日に「報道ステーションSUNDAY」の放送があったのですが、その日の朝にTwitterを見ていたら、「山梨県が豪雪で孤立しているのに、テレビは報道しないでソチオリンピックばっかりやっている」と言われている。

それで、テレビ朝日の報道センターで確認したら、記者が現地にたどり着けていない状況がわかりました。取材できずに、まったく被害がつかめていなかった。でも、テレビは自分たちが現地で被災された方たちの話を聞き、カメラを回さなければなかなか報道はできません。一方で、TwitterなどのSNSで山梨県に閉じ込められた方たちがどんどん発信していました。

結局、確認できた範囲でしか報道できなかったのですが、ネットでは「オリンピックの放映権が高くて、映像を流さないと損するから災害報道をしないんだ」と言われてしまいました。でも、私がテレビの現場にいて感じたことは、SNSが速すぎて、テレビの報道が追いついて行っていない感じでした。

ただ、一方で鳥越さんがおっしゃったみたいに、テレビや新聞が情報源の読者もまだいっぱいいらっしゃる。逆を言えば、テレビや新聞は確かに遅いのですが、記者が必ずその場に行って確認したものを報じることの良さがあります。ひょっとしたら、SNSだとそのあたりのクレディビリティ(信頼性)が低いかもしれない。そんな端境期にあるのかもしれません。

鳥越:ネットの情報の発信力をテレビや新聞がどう取り込んでいくのかは、ずっと言われています。どういう情報があるかをネットで調べる程度のことはやっていますが、実際にうまくネットの情報力を新聞やテレビに生かせているとは思いませんね。恐らくネットユーザーとテレビや新聞を見ている人の間には世代的なギャップがある。ネットをやっているのは基本的に若い人です。若い人の話はネットでどんどん発信されているけど、それだけでは新聞テレビは成り立たない。

あと何年か経って、アメリカのようにネットが大きな力を持ってきて、新聞が潰れたりするのかどうか、僕にはちょっとわからないです。日本はそうはならないんじゃないか。新聞、テレビの王座はなかなか揺るがない。他の国と違って、キー局は全国規模で一応あらゆるニュースをキャッチして伝えているという信頼感が、受け手である国民の側にある。なんだかんだ文句はいうけれども、最終的にはテレビを見たり、新聞を広げたりするわけです。そういう大多数である国民の情報の受け取り方からすると、まだ日本はネット時代ではない。

■市民参加型メディア「オーマイニュース」が目指したもの

長野:鳥越さんはネットニュースサイトの先駆けである「オーマイニュース」の初代編集長を務めていらっしゃいました。2006年に創刊され、2009年に終幕となりましたが、今振り返ってみてどうですか?

鳥越:僕らが「オーマイニュース」で目指していたのは、新聞やテレビと肩を並べるだけの内容とスピードを兼ね備えたネットメディアでした。そのために訓練されたプロの記者を雇うのではなくて、市民記者をできるだけ募って、普通のおじさんやおばさんがネットを使って自分たちのまわりからニュースを拾って伝えるイメージですね。そういう人たちのニュースを編集部員がセレクトして掲載する。月に一回は編集長賞を出して、「こういうニュースがいいんだ」ということをみんなに知らせていました。

ただ、「私はこう思う」というオピニオンの場になってしまうと、それこそ罵り合いになる。「オーマイニュース」の市民記者は実名で記事を書いていたのは、そのためです。匿名でオピニオンページにすれば、それこそ匿名掲示板の「2ちゃんねる」になってしまう。

長野:今のニュースサイトのベースになっている考え方ですよね。大手メディアが手の届かないようなところにもニュースがたくさんあって、それをまず市民から発信していく。それが権力の中枢に届けば素晴らしいメディアになるという発想ですよね。

鳥越:ニュースは記者が探して捕まえるものだけではなくて、市民のそばで発生しているものです。たとえば、子供が誘拐されたとする。その現場に記者がたどりつくのは時間がかかるけれども、たまたま現場近くにいたり、被害者の隣家の人や親戚の人がいて、たまたまネットニュースを知っていて、すぐに市民記者になって状況はこうですよと発信してくれたら、あらゆる新聞やテレビよりも速くニュースが流れる。そういうのが理想型なんですよ。

長野:本当にニュースサイトの理想型ですよね。時代が少し早かったのかな(笑)。

鳥越:市民記者を5000人ぐらい集めたかったのだけれど、思ったように人が集まらなかったですね。

長野:韓国の体制が日本に合わなかったのでしょうか?

鳥越:そうですね。日本と韓国の最大の違いは、日本では新聞やテレビの報道が批判はされていますが、やはり一定の信頼度はある。国民から不信感を抱かれているという状況ではないので、とりあえずみんな新聞やテレビを見ます。でも、韓国は「政権交代の度に大統領寄りのことしか書いていないじゃないか」という新聞不信があって、ネットが力を持ってある一定の影響力を行使できた。その韓国モデルを日本へそのまま持って来たところに無理があった。僕は最初からある程度、気づいていたんですが、やれるだけはやってみようと思いました。

長野:それでも難しかったわけですね。

鳥越:日本のネットは、匿名でみんなが言いたいことを言う、表社会には出てこない裏社会です。表社会は依然として新聞テレビが支配していて、表と裏がはっきり分かれている。裏社会では、一生懸命に表社会のことを叩いたり批判したりしているのだけれど、表社会にいる人達は見ていない。

ただ、若い人たちを中心にして、一定の意見の交流や影響力がネットにはある状況。そういう中で育ってきた人たちが将来、社会の中心になってきた時にどうするかという問題はあります。でも、今はまだテレビ、新聞で育った人たちが社会の中心にいるので、ネットの力はまだそれほどないですね。この間の東京都知事選でも、家入一真さんがネットを駆使した選挙活動でがんばったけれど、あまり票は伸びませんでした。

それから、ビジネスモデルとして成立しなかったということですよね。収入をきちんと考えてなかった。僕も途中から「お金が回らないよな、どうするんだこれ」って。ビジネスモデルという点でいうと、基本的には課金制度にするか、広告収入を得るか、収入の道を確立しないことにはネットのニュースも基本的に成立しない。そこがなかなか難しいです。

■報道番組「ザ・スクープ」は「虎の尾を踏んだ」

長野:鳥越さんとはテレビ朝日系の「ザ・スクープ」でずっとご一緒してきました。この番組は13年間続いた検証報道番組でしたが、2002年にレギュラー放送は終了しました、現在では年5回ほどのスペシャル番組として放送されています。「ザ・スクープ」では検察や警察の裏金問題や桶川ストーカー殺人事件などを報道しました。鳥越さん自身はこの番組をどう総括されていますか?

鳥越:終わってから思うと、「虎の尾を踏んだんだな」と。入って行けないところに入ってしまった。そういう力が働いているんだろうなと思いました。僕は2001年春に桶川事件で日本記者クラブ賞をもらいましたが、その後の放送打ち切りでした。

長野:テレビでそういう報道はもうタブーなんでしょうか?

鳥越:うーん。タブーではないと思いますが、やろうと思えばやれますが、やれる番組がないですよね。今、長野さんはできますか?

長野:やりたいと思っていますが、現実問題として、だめだとはいわれないけど、なかなか実現しない。よほどの証拠のカードを揃えないと………

鳥越:最初は脇が甘くても、とにかくやってみようというのができない。

長野:「ザ・スクープ」では、それでも問題提起を放送することによって、内部告発がきていた。そういう循環ができていました。今、それは本当に難しいと思います。

鳥越:ああいう検証番組、ドキュメンタリー番組を残しておけば、とは思います。お金はかかるけれども。

長野:視聴率の問題ですよね。「ザ・スクープ」は年に何回も賞を取っている。だけど、その放送が視聴率を取ったかといえば、実はそうでもない。素晴らしい番組を放送していると思っても、視聴率が低いと「結果が出ない」「予算がかかる」「じゃあだめだ」と判断されてしまう。ただ、視聴者の視聴体力もなくなっている気がします。報道番組を90分間、集中して見てもらえない。そのへんのジレンマは感じていらっしゃいますか?

鳥越:それはたとえば、東京都知事選で投票率が46・14%しかないということと、裏でつながっているんですよ。ちゃんとものを真面目に考える国民がそれほど多くないということです。自分たちの身の回りの私生活の方に重点を置いている人が多い。広い世界を見て、自分たちの社会を考えるという視点を持たないと、「ザ・スクープ」みたいな報道番組をずっと見続けるのは難しい。

「検察はそんな悪いことをしているの? でも自分たちには関係ないし」ということになる。だから、非常に身の回り主義、身の回りでものを考える国民が増えた。だから、都知事選なんて関係にないよという都民が多かった。雪が降ったこともありますが、降らなくてもそんなに投票率は上がらなかったと思います。

【後編】に続く。

(構成:猪谷千香)

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