武雄市図書館「経済効果は広告換算だけで20億円」 プチリッチ層流入をねらうCCCの町づくりとは?

TSUTAYAで知られる「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」(CCC)を指定管理者としてオープンした佐賀県の武雄市図書館など、地域における図書館運営をテーマにしたシンポジウム「株式会社の図書館運営が地域を変える」が3月13日、東京・永田町で開かれた。
猪谷千香

TSUTAYAで知られる「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」(CCC)を指定管理者としてオープンした佐賀県の武雄市図書館など、地域における図書館運営をテーマにしたシンポジウム「経済政策フォーラム 株式会社の図書館運営が地域を変える」が3月13日、東京・永田町で開かれた。シンポジウムでは、CCC執行役員の高橋聡さんが4月でオープンから1年を迎える武雄市図書館について講演。「武雄市の町が変わりつつある。図書館による経済効果は、広告換算だけで20億円になる」と語った。

■図書館に近い宿泊施設や飲食店の売り上げ増

シンポジウムは、内閣府経済社会総合研究所が今後も国や地方自治体の財政は厳しい状況が続くと予想されることから、公共施設の業務効率化が不可欠になっているとして開催、今回は「地方自治体の裁量性が高くコミュニティスペースの核として位置づけられている図書館の管理運営」に焦点をあてた。

その事例として紹介されたのが、武雄市図書館だった。武雄市図書館は利用者カードにTカードを導入したり、スターバックスを併設したりと、これまでの公立図書館のイメージを覆す図書館として注目を集めている。

高橋さんは基調講演で、「僕ら(CCC)と武雄市は、図書館はあくまでもきっかけにすぎないと思っています。図書館は町づくりいうことでやっている。市民の生活をより豊かにする図書館というコンセプト、市民のライフスタイルを豊かにするという志でスタートしている。新しい公共施設ができるといいと思ってやっていた」と話した。

高橋さんによると、4月のオープンから半年間で51万9000人が来館、1日平均では平日で1300〜1500人、週末や連休で3000〜5000人、昨年のGWは7000人が訪れたという。武雄市の人口約5万人の10倍にあたる来館者が半年間で訪れたことになる。

武雄市図書館はオープン前日にマスメディア向けの内覧会を実施するなど、積極的なメディア戦略を打ち出してきた。そうした経済効果について、高橋さんは「街は変わりつつある。近くにある宿泊施設は稼働率が2倍になったと聞いています。近所の飲食店も売り上げが1.2倍に上がっている。広告代理店に調べてもらったところ、武雄市図書館の広告換算だけで20億円の経済効果があった。町の経済の活性化がその上に乗っかってくるだろうと言われています」とした。

■図書館を起爆剤に「プチリッチ」の流入ねらう

なぜ、CCCは武雄市図書館を作ったのか。「市民のためだけを考えて追求した結果がこの図書館の背景」と高橋さんは説明した。

「指定管理者では運営業務が注目されますが、一番重要なのはオープン前。武雄市で徹底的にマーティングをしました。増やしてほしいジャンルは雑誌。増えてほしいサービスは圧倒的にカフェだった。僕らはスターバックスとブック形式の店舗を全国25カ所でやっていますが、武雄市図書館のスタバの売上はオープン時の4月、全国6位になりました。みなとみらい(横浜市)と横並びしていた。

市民アンケートをきちんと取ってやれば、人口5万人でも他の都市に勝てるということです。藤沢市(神奈川県)や函館市(北海道)、多賀城市(宮城県)でも、どんな施設がほしいか市民にアンケートを取りましたが、カフェや書店が上位に上がってきます。行政施設は今後、カフェを中心に考えたほうがいい」

武雄市図書館の今後について、高橋さんは「図書館は町づくり」と強調。「行政のお金を増やすには、2つしかない。税収アップか交付金アップ。税収を上げるには、人口増加か企業誘致です。どうせCCCは武雄市でやるなら、このふたつとも実現しようと思っています」と語った。

「武雄市の平均年収291万円。武雄市で富裕層は少ないが、僕らは図書館を通じてその下のプチリッチという人たちの人口流入をねらいたい。65歳以上のプレミアエイジのプチリッチが今、どこに行っているかというとマレーシア。でも、武雄市だったら、日本語が通じるし、病院も温泉もあるし、物価や家賃も安い。だったら、武雄市にロングステイ、なんだったら永住したらどうですか?と思っています。図書館をその起爆剤にしたい。そこに経済活動が生まれ、企業が入って雇用が生まれ、人口が増える。武雄市の人口が1〜2%でも増えればいいなあと思っています」

■今後の武雄市図書館はどうなる?

基調講演の後に行われたパネルディスカッションの中で、高橋さんは現在の武雄市図書館の課題について、こう指摘した。

「図書館の機能は本を貸し出して、識字率をあげようという原点的なものがあるのですが、大切なもののひとつは、フラットに物事を判断できる力をつけること。その手法を覚えるのがレファレンスです。武雄市図書館は今、それが弱いんです。図書館の機能は、ひとつはコミュニティの場、ひとつは自分の力を養う施設。後者のアプローチが下手だと思っています」

指定管理者として初年度は赤字だったことも明かした。「来館者数50万人で想定していたが、100万人規模できた。対応するために、CCCの社員が応援で入ると赤字になってしまった。読みが甘かった。2、3年経てば、ある程度落ち着いていくと思っている」

指定管理者制度自体については、「民間だから安くなるというのは幻想だし、公務員は仕事しないというのも違います。民間だから良くなるのではなく、組む人が誰かということが重要。図書館が指定管理者にそうかといえば、そうようでそぐわないような。本当のことをいうと、永続性が担保されるから行政でやったほうがいい」と見解を示した。

「でも、武雄市図書館のような立ち上げを行政でできるか。図書館のブランディングは僕らがやった方がよかった。立ち上げてから2、3年たったら、永続性のある自治体がいい。数年後に直営に戻すのもありだと思います」とも語った。

ハフィントンポスト日本版はFacebook ページでも情報発信しています

関連記事

佐賀県武雄市図書館

注目記事