ダライ・ラマ14世「勇気と自信で困難乗り越えて」 東日本大震災の被災者に訴える

チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(78)は4月7日、仙台市で開かれた東日本大震災の復興を願う集会で講演し、被災者らに「勇気と自信を持って困難を乗り越えていってほしい」と訴え、世界中の人々が再生を後押しすると力を込めた。
中野渉

チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(78)は4月7日、仙台市で開かれた東日本大震災の復興を願う集会で講演し、被災者らに「勇気と自信を持って困難を乗り越えていってほしい」と訴え、世界中の人々が再生を後押しすると力を込めた。

東日本大震災神道祈りの会」と題されたこの集会は、神道関係者らでつくる委員会が開いた。大震災での心の復興支援を目的としたもので、心のケアを必要とされたり仮設住宅生活を余儀なくされたりしている東北各地の被災者ら約1500人が会場に招かれた。宗教の垣根を越えた取り組みとなった。

■被災された方々を心から慰めたい

(講演の要旨)

2011年に起きた大地震、地震によって引き起こされた津波、そして放射能による様々な問題がある。私は、とても大きな苦しみを味わった人々を慰めるためにこの場に招待された。みなさまのお目にかかれることを本当にうれしく思っている。

本日は、大切なものを失った時にどうやって英知と自信を得たらいいのか、その方法を話すことになっている。

人々は、様々な苦しみや困難に直面し、落胆する。すると、そこから抜け出す希望を見つけることができなくなってしまう。そんな時は、自分に自信をもつことが大切だ。自分を信じて「自分は乗り越えられる」と思うことが、抜け出すための唯一の手段だ。

被災された方々を、心から慰めたいという気持ちを持っている。

2年前に石巻を訪問した。被災された人々と話をして、涙があふれてきたことを覚えている。その時に被災者に話したのは、落胆して心配ばかりしていると、みなさま方のためにならないということだった。勇気を振り絞って、自分の力で乗り越えていくと思わないといけないと話した。

私は様々な国々を訪問した。そこで、いつも伝えていることがある。

日本とドイツの人々は、第二次世界大戦で苦しみ、国の崩壊を体験してきた。しかし、戦後の焼け野原の灰の中から、新たに素晴らしい近代国家を再建した実績がある。日本は経済的にも、そして民主主義を取り入れた政治的にも、大変強くて近代的な国家をつくりあげた。素晴らしいことだ。このように偉大な業績を残したことは、国民ひとりひとりが自信と強い決意を持って、楽観的に前向きに捉えてきたからだ。

家を無くしたり、家族や友人を亡くしたりするなど本当に困難な状況に直面したとしても、悲劇に直面したとしても、強い意志や勇気や自信を持って前向きに生きるならば、人生を建設的に生きて行くことができると思う。

もちろん、そういった悲劇はとても悲しいことだ。しかし、昼も夜も悲しいことばかり考えて心配ばかりしている状況では、亡くなって天国にいった人々の気持ちも悲しいものになってしまうのではないか。

■インドで54年の難民生活 決して諦めず

もう一つ、みなさま方と分かち合いたいと思う話をさせていただく。それは私自身の人生についてだ。

私は14歳のときに自由を失った。24歳の時に祖国を失った。それから約54年間、インドで難民としての生活を送ってきた。そんな状況でも、たくさんのことを一生懸命やってきた。私は決して諦めなかった。常に希望を持って、固い決意と自信をもって、頑張るという姿勢を崩すことはなかった。

地球には70億の人々が住んでいる。みんなが私たちの兄弟姉妹だ。もし私たちが困難な状況に直面したりすれば、たくさんの人が助けの手を差し伸べてくれる。

被災した日本の人々も、互いに協力し合い、今日までやってこられたのだと思う。

地球上に住む70億の人々が、一つの大きな家族の一員なんだと考えるなら、決して孤独感に陥る必要はない。

チベット人も、そのように今まで頑張って来た。

チベットの人々は、インドに難民として亡命した。最初はまるでジャングルのような場所を与えられ、そこに居住区を立ち上げた。へんぴで、木を切り開いていかないといけない場所だった。暑くてたまらなかった。しかし、チベット人は、昼は休んで寝て、夜に涼しくなったら働いたりして過ごした。

私が初めて日本を訪れたのは1967年。日本にはすでに近代的な科学技術があり、素晴らしく発達していた。一方で、立派な伝統文化が存在している。私はその時、物質的な面と伝統的な素晴らしさを結び合わせることができれば、日本はとても多くのことを成し遂げていくことができるのではと話した。

日本は、年配の人々に心からの尊敬を表す。素晴らしい親子関係を持っている。お互い対する敬意や愛情、思いやりがある。それらはとても大切なことだ。

基調講演するダライ・ラマ14世=仙台市

■一生懸命対処すれば道が開ける

(参加者との質疑応答)

--東日本大震災から3年が過ぎた。私はボランティアとして活動しているが、いまだにケアしきれない人がたくさんいる。状況が改善されず、受け止めるのはつらい状況になってきた。どんな態度や心構えでいればいいのか。

もし何らかの手段があるなら、思い悩む理由がない。もし手段が無いとしても、思い悩む必要はない。一生懸命に対処すれば、道が開けていくのではないか。

いずれ人生の後半に差しかかかったときに、自分が清らかな気持ちで尽くしたならば、自分の人生を意義あるものと感じるに違いない。

--法王(ダライ・ラマ)は、優しさと楽天的であること、寛容であることが大切だとおっしゃった。しかし、つらいことや困難が出てきたとき、頭で理解できていても感情が勝ることある。どうやって乗り越えたらいいのか。

まず、ゆったりした気持ちが必要。そして、心がかたくなになっているときにはその心に慣れ親しんでいくというプロセスが欠かせない。仏教では、まず教えを聞く。次に自分で考える。3番目に瞑想する。考え方を心になじませていくという課程が必要だ。

--法王は、優しさは強さとおっしゃったが、人は弱いものだ。強さが優しさを生むのだろうが、心のトレーニング方法は何か。

仏教としては、知恵が大切だとされる。心の強さを持たない時には、どのような過失が生じるのか、どういう欠点があるのか、どういう御利益があるのかなど、考えてみる。心の力を育むための手段を考えていくことが大切だ。

※ダライ・ラマは4月17日に東京・虎ノ門のホテルオークラ東京で講演する。詳細はダライ・ラマ法王日本代表部事務所へ。

【ダライ・ラマ14世】

第14代のチベット仏教の最高指導者であり、チベット亡命政府の元首長。法名はテンジン・ギャツォ。1935年7月6日、チベット北部の農家に生まれる。2歳の時、33年に死去したダライ・ラマ13世の転生者と認定され、40年にダライ・ラマ14世として即位した。59年、統治権を主張する中国政府とチベット民衆との間に起こった動乱の激化により、インドのダラムサラへ脱出。同地にチベットの亡命政府を樹立し、チベット難民組織の頂点に立った。2011年に政治的指導者の地位は退いたが、その威信は今も続いている。亡命後から現在に至るまで、国連を通じてチベット問題の平和的解決を訴えると共に、日本を含む世界各地を訪問し、仏教の教えを説く法話や世界平和実現に向けての講演を行っている。こうした活動が評価され、1989年にノーベル平和賞を受賞した。

(コトバンク「ダライ・ラマ14世 とは」より 2012/08/29)

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