貿易赤字、2014年度も10兆円台の可能性 その理由とは?

過去最大の13兆円台の貿易赤字を記録した2013年度に続き、14年度も10兆円台の赤字が続くとの見通しが浮上している。これまでの設備投資委縮や労働力人口減少で国内供給力が細り、需給ギャップもプラス転換しつつある今、国内景気回復が輸入増加につながりやすいという新たな構造要因が生まれているためだ。巨額貿易赤字を前提とすれば、経常黒字額もせいぜい5兆円台前後に縮小するとの見通しも広がっている。
Reuters

過去最大の13兆円台の貿易赤字を記録した2013年度に続き、14年度も10兆円台の赤字が続くとの見通しが浮上している。これまでの設備投資委縮や労働力人口減少で国内供給力が細り、需給ギャップもプラス転換しつつある今、国内景気回復が輸入増加につながりやすいという新たな構造要因が生まれているためだ。巨額貿易赤字を前提とすれば、経常黒字額もせいぜい5兆円台前後に縮小するとの見通しも広がっている。

<劇的な赤字改善は見込み薄>

今年1─3月の貿易赤字はある意味で、景気拡大に伴う前向きの赤字でもあった。消費増税前の駆け込み需要が盛り上がり、輸入が急増。一部企業では輸出余力も低下するほどだった。

3月の輸入増加品目をみても、自動車や家具、衣類の押し上げが目立ち、一見して駆け込み消費だとわかる財の輸入が増えている。環境税の引き上げ前のエネルギー輸入の増加も輸入を押し上げた。

4月以降は駆け込み需要向けの輸入がなくなり、海外景気の回復とともに輸出も増加し、ある程度貿易赤字は縮小するというのがエコノミストのコンセンサスとなっている。

だが、今回の駆け込み需要の様子を見て、どの程度赤字縮小が進むのか、懐疑的な見方も高まっている。「輸出が劇的に加速することも期待できず、輸入も景気が回復に向かう7─9月ごろに、また増加するだろう」(ニッセイ基礎研究所・経済調査室長、斉藤太郎氏)との見方を典型に、巨額赤字が構造化しているとの認識が、エコノミストなど専門家の間で広がっている。

<明らかになる輸出入の構造問題>

複数のエコノミストによると、原発停止によるエネルギー増加や、円安による輸入価格の上昇といった要因だけが、貿易赤字を定着させているわけではない。

これまでも、1)輸出は製造業での海外シフトにより緩やかにしか加速しない、2)輸入も円安の進行で金額ベースで膨らみやすく、貿易赤字の縮小は緩慢だ──と、説明されてきた。

ただ、海外経済の回復と円安による価格競争力の向上で、輸出はいずれしっかりと回復に向かうというのが、政府や日銀の今年度のシナリオだった。

しかし、現実は想像以上に厳しい状況にあることがデータがそろうにつれ、明らかになっているようだ。

2013年中の貿易数量は、円ドル相場が70─80円台で推移していた12年よりむしろ減少してしまった。

RBS証券・チーフエコノミストの西岡純子氏は、確かに円安で競争力が回復してきた企業が多いのも事実だが、電機を中心に世界のライバル企業にまだ、水を空けられていることが影響しているとみている。

加えて円安による輸出数量増効果を上回るスピード感で、海外シフトが進行していると推定される。

内閣府の調査では、製造業の海外生産比率は11年度から12年度にかけて1年間で3%超上昇し、2割を超えた。それまでの拡大スピードから急加速している。

さらに駆け込み消費の局面では、国内需要の拡大は輸入の増加をもたらし、輸出余力さえなくなるといった新たな現象が生まれたことも注目される。

消費者が輸入品の購入に走った点や、半導体や携帯電話など企業自身が国内生産から撤退した製品の輸入も大幅に増加した。「消費や生産の現場で、輸入浸透度が急速に高まっている」と西岡氏は指摘する。

背景には、設備投資の委縮や労働力人口の減少で、長らく続いてきた国内供給能力が需要を上回る「需給ギャップのマイナス」が解消され、プラスに転換しつつあることも影響している。

「アベノミクスは、急激に需要を膨らませることには成功したが、即座に供給強化を実現することはできなかった」(第一生命経済研究所・主席エコノミストの熊野英生氏)ため、景気が拡大し国内需要が膨らんで、国内供給を上回り、輸入が増えたというわけだ。

エコノミストの間では、このままでいくと、14年度の見通しについて、10兆円台と高水準の赤字が続くとの見方が浮上している。

<経常黒字は年間5兆円前後に縮小へ>

貿易赤字の状況を踏まえ、低水準の経常黒字が続くという予想が広がっている。13年度の経常黒字は、12年度の4.2兆円から大幅に縮小し「8000億円程度」(斎藤氏)となる可能性がある。

斎藤氏は、14年度もせいぜい5兆円程度と予想。東日本大震災前までのピーク時20兆円超の規模と比較すれば、4分の1程度に激減するとみている。

ここで懸念されるのは、巨額な財政赤字と経常赤字の関係を一部の海外勢が注目し、日本国債の価格急落リスクがささやかれている点だ。

西岡氏は「経常収支というフローで赤字になったとしても、それでいきなり財政赤字問題への懸念が勃発するということにはならない」とし、直ちに日本国債の価格急落にはつながらないとみている。

その理由として西岡氏は「日本の公的債務と貯蓄が、グロスでひっくり返るにはまだずっと先の話だろう。その間に政府はしっかりと財政再建に取り組むことが求められる」と指摘する。

ただ、もう一方で日銀の推し進める「異次元緩和」の効果が発揮され、消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)が、市場の予想よりも早めに2%へと到達する可能性があるという現実が存在する。

そのときは、国債価格下落(長期金利上昇)の圧力が、市場にずっしりとかかることになる。その時まで政府が財政再建の可能性を高めておかないと、長期金利の急上昇というトリガーを引きかねない。

こうした情勢の下で、貿易赤字の膨張傾向は、単に円安材料だという以上の意味が付加している。

[東京 21日 ロイター]

(中川泉 編集:田巻一彦)

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