【大館・北秋田芸術祭2014】犬と熊と人が生きる里山に寄り添うアートイベント開催へ

忠犬ハチ公のふるさとである秋田県大館市と、豊かな生態系の中でクマと人間が共生してきた秋田県北秋田市を舞台に、2014年10月から11月にかけ、広域アートイベント「大館・北秋田芸術祭2014 里に犬、山に熊。」が開催される
©Martin Ollman

忠犬ハチ公のふるさとである秋田県大館市と、豊かな生態系の中でクマと人間が共生してきた秋田県北秋田市を舞台に、2014年10月から11月にかけ、広域アートイベント「大館・北秋田芸術祭2014 里に犬、山に熊。」が開催される。

芸術祭では、劇作家の平田オリザさんが北秋田市のローカル鉄道の車内で演劇を上演するほか、アーティストの日比野克彦さんが地域の人々と共同で作品を制作。また、栗林良彰さん、遠藤一郎さん、鴻池朋子さん、鈴木理策さん、パトリシア・ピッチニーニさん、藤浩志さんらのアーティストの参加が決定している。アーティストたちは、それぞれの地域で人と共に生きてきた犬や熊のように、アートがその地に寄り添い暮らすことを表現したプロジェクトを展開するという。

秋田犬「のの」

■コンセプトは「地域因子×作家」

舞台となる大館市は、忠犬ハチ公の故郷として知られ、大館曲げわっぱや比内地鶏、きりたんぽなどの特産品が有名だ。一方、北秋田市は県立自然公園に指定されている森吉山麓を中心にブナの原生林や多数の瀑布など豊かな自然をほこり、マタギ文化発祥の地でもある。芸術祭では、こうした地域が持つ特有の資源を「地域因子」と呼び、作家がそれにはたらきかけて作品を制作する「地域因子×作家」をコンセプトにしている。

「秋田県大館市は僕の生まれ故郷で18歳まで住んでいました」と話すのは、芸術祭の統括ディクレターで作家の中村政人さん。5月14日に都内で開かれた記者会見でこう語った。

「東京に出た後、帰るたびに町が寂しくなることが引っかかっていました。大館には『正札竹村デパート』という百貨店があったのですが、2001年に閉店してしまった。高度成長期の中で西洋の文化に触れ、いろいろなものが生まれ、デパートに行くと未来に出会えるという感覚があって、大館の人たちにとってそれが、正札デパートだった」

故郷のために何かできることはないかと、中村さんが2007年に仲間と始めたのが、アートプロジェクト「ゼロダテ」という活動だった。最初は商店街の掃除から始め、さまざまなアートプロジェクトを現地で手がけてきた。「町の人は何もできないのではなく、きっかけがあれば思いを述べたいのですが、なかなか形にできない。僕らはそれを引き出すようなことをしてきました」

その積み重ねの上にあるのが、今回の芸術祭だ。中村さんは、正札デパートをリノベーションしてコミュニティの拠点をつくるという計画を立てているが、芸術祭で中村さんは正札デパートを利用したインスタレーションに挑む。

■平田オリザさんがローカル線で演劇

芸術祭では他の作家も「地域因子」に挑戦する。親族が大館市出身という平田オリザさんは、自称「最もに大館に詳しい劇作家」と会見で自己紹介した。平田さんは秋田縦貫内陸鉄道の車内で演劇を上演する。

「観客は4、50人という大変、ぜいたくなお芝居。『秋田内陸安房列車』という作品です。外のすばらしい風景をセリフに折り込みながらお芝居を観ていただきます」と説明。このほか、ロボットと人間が共演するアンドロイド演劇を上演するという。

何度も秋田を訪れているという日比野克彦さんは、徳島県上勝で手がけたプロジェクト「射手座造船所」から続く作品として、北秋田市の廃校で「魚座造船所」を制作する。地元の人たちとともに完成させたプロジェクトでもあり、「徳島の人たちに、魚座造船所ができると話したら、弟ができたみたいな感じで喜んでくれた。徳島の人たちも秋田にやってくると思います」と日比野さん。作品を通じ、地域を超えた交流が実現しそうだ。

また、栗原良彰さんが挑むのは、大館市の中心街である大町商店街。かつてはにぎわっていたが現在では大半の商店がシャッターを閉めてしまっている。「ハチ公通り」の名前を持つ商店街に大きな秋田犬のインスタレーションを展開、商店街のにぎわいを再考するという。栗原さんは、「遠くからでも見えるような、でっかい秋田犬を作ろうかなと思っています。その秋田犬を中心にお祭りもやりたい。ぜひ見に来てもらって、お祭りをやっていたら参加してください」と話した。

■「広報戦略室長、秋田犬のの」が人気

東日本大震災以降、私たちの未来観は、どこでどんな暮らしをすべきなのか揺れ続けている。その答えを探すためにも、里と山に心を開き、小さくてもかけがえのない自分たちの『新しいひろば』をつくり始めていく。

中村さんが芸術祭の開催に向けて寄せる言葉だ。「地域因子×アーティストを大事にしたい。歴史的、観光的にすでに成熟し成功しているものだけではなく、アーティストの作品によって地域にまだ眠っている資源や種のようなものに発芽を促し、伝えることが大事だと思っています」と中村さんは話している。

また今回、作家たちとともに会見に参加して人気を集めていたのが、生後4カ月になる秋田犬「のの」。中村さんが大館で展開するアートNPO「ゼロダテ」で飼われているが、今回の芸術祭では「広報戦略室長」として活躍、メディアの取材などを受けている。地元では、「会いにいける秋田犬」として、市民にかわいがられ、多くの観光客を迎えているという。

この秋、秋田犬の暮らす里とクマが生きる山を抱く地域に出かけてアートを体験してみては?

大館・北秋田芸術祭2014「里に犬、山に熊。」

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