集団的自衛権、限定的行使容認へ 安倍首相は憲法解釈変更に意欲「アメリカによる平和が日本人の常識」

安倍晋三首相は5月15日の記者会見で、集団的自衛権の行使容認について、限定的な行使容認を視野に、与党協議を進めると述べた。与党協議では具体的な事例をあげて調整を進め、憲法解釈の変更が必要であるとなった場合には閣議決定を行い、国会に諮るとしている。
時事通信社

安倍晋三首相は5月15日に記者会見を開き、集団的自衛権の限定的な行使容認を視野に、与党協議を進めていくと述べた。安倍首相は「アメリカとの関係によって日本の平和が保たれている」として行使容認に意欲を示しており、行使容認に慎重な公明党との協議を進め、憲法解釈の変更が必要と判断されれば閣議決定を経て国会に諮る方針だ。

■限定的に行使容認の方向で検討へ

記者会見は、同じ日に安倍首相自らが設置した有識者会議(安保法制懇)からの報告書提出を受け、国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合を経て開催されたもの。

報告書では「我が国の平和と安全を維持し、地域・国際社会の平和と安定を実現していく上で、従来の憲法解釈では十分対応できない状況に立ち至っている」として、集団的自衛権の行使を容認すべきだと提言がなされた。

安倍首相は会見で、報告書の「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるというとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許される」という考え方について、内閣法制局の意見も踏まえて研究を進め、また、同時に与党協議を始めると述べた。

そのうえで、現在の政府の憲法解釈を変更すべきだとした場合、改正すべき立法措置について閣議決定を行い、国会に諮るとした。

■「アメリカによる平和が日本人の常識」

安倍首相は1960年に日米安全保障条約が改定されて集団的自衛権を明確に定めた事例に触れて、次のように述べた。

「今回も検討によって他国の戦争に巻き込まれるといった批判があります。こうした批判は1960年安保改正の際、盛んに言われました。この日米安保の改正によって、『日本は戦争に巻き込まれる』と、さんざん主張された。

しかし50年経って、どうでしょうか。この改正によってむしろ日本の抑止力は高まり、アジア・太平洋地域において、アメリカのプレゼンスによって、今、平和がより確固たるものになるというのは、今や日本人の常識になっているではありませんか。

まさに、私達が進めていこうとすることは、抑止力を高めること。そして、日本人の命を守るためにやるべきことは、やらなければならないという観点から、検討していかなければならない。

(「安倍首相の記者会見」より 2014/05/15)

■芦田修正論は否定

一方、「個別的又は集団的を問わず、自衛のための武力の行使や、国連の集団安全保障の措置への参加といった、国際法上合法な活動について、憲法上の制約はない」とする、いわゆる芦田修正論については、これまでの政府の憲法解釈とは論理的整合性が取れないとして、政府としては採用できず、今後検討を行わないとした。

■具体的に検討が行われる事例とは

会見で安倍首相は、集団的自衛権にかかわる事例として、2枚のパネルを使って説明した。

1枚目は「邦人輸送中のアメリカ輸送艦の防衛」に関するパネル。紛争地から逃れる日本人を救助したアメリカ艦船が、日本近海で攻撃されたときに、日本の自衛隊はどのように対応するかというもの。2枚目は「駆けつけ警護」に関するパネル。海外に駐留している自衛隊が、武器を使って民間人などを助けるもの。

安倍首相は「日本が攻撃を受けていない場合では、日本人が乗っているアメリカの船を、日本の自衛隊は守ることができない。医療活動に従事する人や、近くでPKO活動についている人が突然武装集団に襲われたとしても、この地で活動している日本の自衛隊は、彼らを救うことができない」という、現在の政府による憲法解釈を説明した。

安倍首相はさらに、国連のPKO活動に参加する他の国の部隊が攻撃を受け、自衛隊に救援を要請した場合でも助けることはできないと解説。「もし逆であれば、彼らは救援に訪れる。しかし、私たちはそれを断らなければならない。見捨てなければならない。おそらく、世界は驚くことだろう」と述べた。

安保法制懇ではこの他に、機雷の除去に関する対応や、日本の領海で潜没航行する外国潜水艦に対する対応など、6つの具体例について検討が行われた。全て安倍首相により検討が指示されたものだ。

安倍首相ははこれまで、海外諸国に対しても事例を示して説明してきたとしており、今後の協議でも引き続き検討が行われるとみられる。

■記者会見、一問一答要旨

以下、記者団との一問一答要旨を掲載する。

――政府が憲法解釈を変えることは、立憲主義の否定ではないか。

政治家が立憲主義にのっとって政治を行うことは当然です。

私たち政治家は、現在も駆けつけ警護などができないという現状から、目を背けていていいのかということを、皆さんにも考えていただきたい。人々が「生存していく権利」を、私たち政府は守っていく責任がある。その責任を放棄しろと憲法が要請しているとは、私には考えられない。いかなる状態においても私は国民の命を守っていく責任がある。このような考えから研究を進める。

皆さんや、お子さんや、お孫さんがこうした状態に巻き込まれるかもしれない。そのことを考えていただきたい。議論は国民の皆様一人一人にかかわる現実的な問題。

――将来、自衛隊が他国の戦争に参加する可能性があるが。

現在においても、他国の攻撃を避けるためにアメリカの船に乗って避難している子供たちや、お母さんや、多くの日本人を助けることも守ることもできない。その能力はあるのに、それでいいのかということを私は問うている。

自衛隊が武力の行使を目的として、他国での戦闘に参加するようなことはこれからもない。憲法が掲げる平和主義は、これからも守りぬく。

巻き込まれるという受け身の発想ではなく、国民の命を守るために何を成すべきかという能動的な責任がある。

抑止力が高まることによって、より戦争に巻き込まれることはなくなると考える。

――安保法制懇の人事は、偏りがあったのではないか。

安保法制懇については、こうした課題について正面から考えてきた皆さんにお集まりいただいた。正面から取り組んできたみなさん、どうしたら日本人の命を救えるか考えてきた皆さんに集まっていただいた。報告書でも、国民の命と暮らしを守るために何を成すべきかというまさに専門的かつ現実的なご意見を頂いた。

――衆議院を解散し、国民に是非を問う考えはないのか。

衆院選・参院選で私の街頭の演説を聞いていた方々はご承知のことだと思うが、私は、国民の生命、財産、領土、領海は、断固として守り抜いていくと申し上げてきた。いかなる事態にあっても、私はその責任を果たしていかなければならないと申し上げてきた。この検討は、こうした国民との約束を実行に移していくものであると確信している。

――想定外のことが起きた場合の対応は。

安全保障を考える場合、あらかじめ将来のことを想定することは容易なことではない。しかしこれまでは、想定したこと以外のことは起こらないという議論が行われてきた。今私が挙げた例から、目を背け続け今日に至った。

内閣総理大臣である私はいかなる事態にあっても国民の命を守る責任がある。想定外は許されない。国民の命と暮らしを守るため、現実に起こりうるあらゆる事態に対し、切れ目ない対応を可能とするために、万全の備えをしていくことが大切だと思う。

――南シナ海における日本の役割はどう変わるか。

我が国の平和国家としての歩みは、今後も変わることはない。我が国は一貫して、紛争の平和的解決を重視してきた。法の支配、航海の自由、上空飛行の自由が尊重されなければならない。力による現状変更は一切認められない。私たちが検討するのは、まさにこのように、日本の地に危険があるにも関わらず、何もできなくていいのかということだ。

また、こうした解釈変更の検討により、軍事費が増大するのではないか、軍備が拡大するのではないかという指摘もあるが、それは的外れで、中規模で5年間の総額を既に閣議決定しており、変更されることはない。

――見直しについて、諸外国からはどのような反応があるか。

2013年、私はASEAN10カ国を訪問し、具体的な実例を示して説明した。すべての国々から理解と支持を得られたと思う。そして2014年、欧州を訪れたが、各国から支持を頂いた。

NATO演説においては、集団的自衛権の解釈変更を含め、集団安全保障における責任等について説明をしたが、各国から高い支持を頂いた。ある国の代表の方は、日本の命を守るために、世界の平和を確固たるものにするために、憲法9条の解釈の変更を検討していることは素晴らしいと、日本は大きな変化を遂げたと支持を頂いた。

これからも諸外国にご報告しながら、国際協調を重視し、積極的に貢献をしていきたい

――スケジュールについては。

期限は決めていない。

今後内閣法制局の意見も踏まえて、政府としての検討を進めるとともに、与党協議に入りたい。与党協議の結果に基づき、憲法解釈の変更が必要と判断されれば、改正すべき法制の基本的方向を閣議決定する。

今後は国会においても議論を進め、国民の皆様の理解を得る努力を継続する。十分な検討を行い準備ができ次第、必要な法案を国会に諮る。抽象論や観念論ではなく、具体的な事例に沿って議論を行う。

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・2014/05/15 23:10 誤字を修正し、一問一答を追加。

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