労働時間の規制緩和へ 有識者議員「将来は一般労働者も適用を」

政府は、労働時間ではなく成果のみによって報酬が決まる新しい労働時間制度を導入する方針を固めた。柔軟な働き方を求める一部の労働者や国際競争力を付けたい企業側にとってはメリットとなる一方、実際は希望していないのに断れない状況が発生したり、将来的に対象者が一般の労働者までに拡大したりする可能性などが指摘されている。
時事通信社

政府は5月28日、成長戦略の設計と推進を議論している産業競争力会議で、労働時間ではなく成果のみによって報酬が決まる新しい労働時間制度を導入する方針を固めた。高度な専門職に付く人などは、1日原則8時間を上限とするなどの労働時間規制を外すとされるが、具体的に誰が対象となるのかは今後議論されることになる。

制度化されれば、柔軟な働き方を求める労働者や国際競争力を付けたい企業側にとってはメリットとなる一方、実際は希望していないのに断れない状況が発生したり、将来的に対象者が一般の労働者までに拡大したりする可能性などが指摘されている。

■対象はこれから詰める

この日、産業競争力会議では、民間の有識者議員と厚生労働省から、対象者の案について説明がなされた。MSN産経ニュースなどが報じている。

民間議員の長谷川閑史武田薬品工業社長が示した案では、労働時間規制の見直しの対象者は、一定の責任のある業務・職責を有するリーダーなどと定義。金融機関のファンドマネジャーやコンサルタントなどの専門職のほか、経営企画やブランド戦略などを担当する企業の管理職候補の正社員を挙げた。(中略)年収要件などは明記せず、本人の同意が前提としたうえで、一般事務や小売店などの販売職、入社間もない若手職員は見直しの対象外とすると明記した。

一方、厚労省が示した案は労働時間規制の見直しには同意したが、対象者は世界レベルの高度専門職のみに限定すると規定。民間議員が求めている企業の中核部門で働く社員については、すでに導入されている裁量労働制の中で新たな枠組みを構築するとした。ただ、制度の詳細は今後、厚労省の労働政策審議会で議論するとして具体的な言及は避けた。

(MSN産経ニュース「労働規制見直し、対象を議論 厚労省と民間議員が提案 競争力会議」より 2014/05/28 19:21)

長谷川閑史氏が提出した対象の案

■「希望しなければ昇進させない」という状況もあり得る

安倍首相は、対象者について(1)希望しない人には適用しない(2)職務の範囲が明確で高い職業能力を持つ人材に限定(3)働き方の選択によって賃金が減らないように整備する――と言及。一般労働者については「現行の労働時間制度でしっかり頑張ってもらいたい」と述べ、あくまでも労働者の選択肢の一つとして整備するとを強調した。

しかし毎日新聞は、希望せざるを得ない状況も生じるのではないかと指摘している。

産業競争力会議は、労使が合意し、本人が希望した場合に適用するとしていますが、会社から「希望しなければ昇進(しょうしん)させない」と言われたら断れない人も多いでしょう。

(毎日新聞「質問なるほドリ:成果主義型賃金、政府なぜ検討?=回答・佐藤丈一」より 2014/05/29)

■次期経団連会長「将来は一般労働者も適用を」

また、経済界から出席している有識者議員のなかには、「選択肢の一つとして」と断りながらも、対象を一般社員にも広げるべきだとする声もでている。

産業競争力会議の民間の有識者議員で、次の経団連会長に就任する東レ会長の榊原定征氏は記者団に対して「時間でなく成果で給与を決める制度について議論した。民間側としては労働時間に縛られない働き方を選択肢の一つとして加えてほしいと提案した」と述べました。

そのうえで「産業界としては国際競争力を強化するためにも労働時間に縛られない成果で働くという制度の導入を強く求めており、その範囲も研究者や技術者などに広げてほしい。また、将来的には労使の合意のうえで一般の労働者にも適用を広げることも検討してほしい」と述べました。

(NHKニュース『新「労働時間制度」創設へ検討指示』より 2014/05/28 20時40分)

労組などは派遣労働者制度が広がった経緯を引き合いに出し、いずれ対象者が広がると警戒しているという。

厚労省は自らの案を「対象者はごく限定的」と言う。が、1986年の施行当初、13だった派遣労働者の業種は次々拡大され、5業務を除いて原則自由化された。労組側は新制度の対象者もいずれ広がると強く警戒している。

(毎日新聞「労働時間規制:成果賃金制、成長戦略に盛り込みへ 労組は批判強める」より 2014/05/29)

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