音楽番組に変化が バラエティ要素が強まりテーマ重視の傾向へ

アーティストにとって重要なプロモーションメディアでもある音楽番組。デジタル放送への移行とともに進む多チャンネル化や、スマートフォンやタブレットなどのデバイスの多様化など、視聴環境が急速に変化するなか、音楽番組も、どのように視聴者にリーチしていくのか、模索が続く。そうしたなか、4月期では、これまで以上にアーティストにフォーカスし、バラエティ要素も加えた“脱・音楽番組”の傾向が強く見られた。
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トレンドは『“脱”音楽番組』 テーマ重視の傾向強まる

アーティストにとって重要なプロモーションメディアでもある音楽番組。デジタル放送への移行とともに進む多チャンネル化や、スマートフォンやタブレットなどのデバイスの多様化など、視聴環境が急速に変化するなか、音楽番組も、どのように視聴者にリーチしていくのか、模索が続く。そうしたなか、4月期では、これまで以上にアーティストにフォーカスし、バラエティ要素も加えた“脱・音楽番組”の傾向が強く見られた。

視聴者が求める音楽番組という視点から、昨今の音楽番組の傾向をまとめると、主に(1)ストーリー・背景にフォーカス、(2)注目が高まるBS・独立局の番組、(3)アーティストによる司会の3点が挙げられるだろう。

こうした傾向は依然として続くものの、これまで以上に、楽曲の歌唱から、アーティストの個性、または番組の企画性に重きを置く傾向が強まっている。各局の音楽番組の担当プロデューサーたちの狙いから見えてくるポイントは、「その番組でしか見ることのできない、アーティストの姿、パフォーマンスを提供する」こと。例えば、CX系の音楽番組で見られる、アーティスト同士のコラボレーションによるパフォーマンスはその好例だろう。

また、4月期よりスタートした、TBS系『UTAGE!』では、「結婚式で歌ってほしい歌」、「あなたにとっての応援ソング」といったテーマでリクエストを募り、リクエスト上位になった楽曲をゲストアーティストがカバーする内容となっている。さらに、同じく新番組の『オトタビ』(NTV系)では、スタジオでのトークや演奏の収録も行わず、ほぼ街歩きのみで構成し、アーティストの素顔に迫っている。

音楽番組のプロデューサー陣など、制作現場からは「スタジオでパフォーマンスを見せるだけでは興味を引けない」といった声も聞かれる。例えば『オトタビ』も既存の音楽番組がやっていることを一つずつ排除していった結果、街歩きという結論に至ったという。こうした「脱・音楽番組」の傾向は、他局でも見られ、お笑い芸人とのコラボレーションや、番組から派生したイベントに注力するケースも目立つ。

■バラエティ色が強まったリニューアル&新番組

お笑い芸人とのコラボレーションや、番組から派生したイベントに注力するケースも目立つ。23時以降では、より早い時間帯への変更、放送枠の拡大など、積極的な改編が行われている。

TBSでは、中居正広、リリー・フランキーがMCを務めた『Sound Room』の後番組として、同じく中居がMCを担当する『UTAGE!』が4月より放送をスタートした。同番組では、毎週テーマに沿った「UTAGE ランキング」を発表し、番組オリジナルのプロ歌手集団「UTAGE アーティスト」(相川七瀬、今井絵理子、KABA.ちゃん、川畑要(CHEMISTRY)、島袋寛子、寺田恵子(SHOW-YA)など)とともに、週替わりのゲストがランクインした90年、00年代のヒット曲等を歌唱するのが見どころとなる。スタジオではゲストと中居によるトークも展開される。

注目されるリニューアルとしては、これまで対談+スタジオセッションという構成だった『僕らの音楽』が、大幅に内容を変更し、多い時は10名を超えるゲストが並び、「GIRLS’ROCK」などの音楽ジャンルや、「秋元康」「小室哲哉」「郷ひろみ」といったアーティスト・クリエイター等のテーマに沿ったクロストークを披露しながら、そのテーマに関わる楽曲をパフォーマンスしていく。近年、バラエティ番組で見られるような、“雛壇トーク”の要素が加味され、よりバラエティ色が強まった印象だ。

放送枠では『MUSIC JAPAN』(NHK)が日曜24:10~24:50に移動。放送時間も25分から40分に拡大した。『プレミアMelodix!』(TX系)も30分早まり、25時からのスタートとなっている。

■多様化の一途をたどる企画に対しアーティストの個性をいかに見せていくか

プロデューサー陣にアンケートを取ったところ、「単純に“曲が良い”というだけでは、なかなか興味を持ってもらえないのが現状」、「アーティストが歌を歌うだけのシンプルな構成では観てもらえない」といった意見も多く、音楽番組を担当するプロデューサーたちからは、視聴者の音楽番組のイメージを打破しようする「脱・音楽番組」の姿勢が強く感じられた。

一方で、音楽番組の制作現場で聞かれたのは、「ライブでフル尺を歌うことこそが最大のプロモーション」というアーティスト側の想いだ。では、制作者側とアーティスト側、双方にメリットのある番組作りとはどのようなものなのか。

例えば『MUSIC JAPAN』では、通常2分サイズで紹介されていた楽曲を、30秒でも1分でも可能な限り、曲尺を増やすことで、視聴者からの支持を集めている。同番組は放送時間も25分から40分に拡大している。一方で、トークなどの企画重視型の番組では、CXやNTVなどのキー局のほか、U局でも『竹山ロックンロール』のように積極的にイベントを実施するケースが増加している。番組では興味を引く企画に集中し、そこにイベントを重ねることで関心を増幅させるというわけだ。

とはいえ、ライブ・エンタテインメントが活況となり、会場のブッキングやアーティストのスケジュールが押さえにくくなっている今、テレビ局が「音楽番組+イベント」を強化していくには、課題も多いと言わざるを得ない。しかし、「番組出演→イベントでの歌唱」という番組とイベントとの連動が、ファンを獲得する導線として有効に機能すれば、アーティストにとっても大きなメリットとなりそうだ。

(ORIGINAL CONFIDENCE 14年6月2日号掲載)

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