イラクの過激派組織、指導者は第2のビンラディンか 「邪魔者は殺せ」

イラク第2の都市モスルを掌握し、首都バグダッドに向けて攻勢を強めるイスラム教スンニ派過激派組織「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」。同組織を率いるアブ・バクル・アル・バグダディ容疑者が今、過激派の間で支持を集めている。
Reuters

[ベイルート 11日 ロイター] - イラク第2の都市モスルを掌握し、首都バグダッドに向けて攻勢を強めるイスラム教スンニ派過激派組織「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」。同組織を率いるアブ・バクル・アル・バグダディ容疑者が今、過激派の間で支持を集めている。

同容疑者が率いるISILは、シリア東部とイラク西部にまたがる広大な地域を手中に収め、このエリアは中東で活動するスンニ派過激派にとって国境をまたぐ避難所となっている。

これまで表舞台に出ることを避けてきたため、絶大な力を持つにもかかわらず、その人物像はほとんど明らかになっていない。米政府は、同容疑者の拘束につながる情報提供に対して、1000万ドル(約10億2000万円)の懸賞金をかけている。

ISILのみならず対立組織の構成員までもが、バグダディ容疑者について、シリアの混乱と米軍撤退後のイラク中央政府の弱体化をうまく利用し、自らの拠点を築き上げた戦略家として称賛する。

また、イスラム国家樹立という自らの野望実現のためなら、障害となる人々を徹底的に排除する冷酷さと、かつての仲間にさえ反旗を翻すことをいとわない人物像が明らかになってきた。

ISILと宗教観を広く共にする過激派さえ、ひとたび敵と見なされれば攻撃を受け、徹底的に打ち負かされる。ISILに捉えられれば、活動家だけでなく非戦闘員までもが、射殺されるか首を切り落として殺害される。そうした殺害の場面は動画に残され、他の組織にISILへの恐怖と嫌悪感を抱かせてきた。

シリアで活動する外国出身の構成員は、バグダディ容疑者の目的は極めて明快だと語る。「イスラムを除くすべての宗教が、それぞれの国家を持っている。端的に言えば、イスラム教もイスラム法に則った国家を樹立するべきというのが、バグダディ師の考えだ。」

<シリアで拡大>

米政府の手配書によると、バグダディ容疑者は1971年、イラクのサマラで生まれた。過激派のウェブサイトによると、同容疑者はバグダッド大学でイスラム学を学び、学位を取得。アルカイダ系組織の構成員として戦闘に加わった後、2010年にアルカイダ系組織「イラク・イスラム国」の指導者に就いた。

翌年、シリアでアサド大統領に対する民衆蜂起が起こると、バグダディ容疑者はアルカイダの足場を築こうと側近をシリアへ送り込んだ。シリアに送られた側近のアブ・モハンマド・アル・ゴラニ容疑者は、アル・ヌスラ戦線を設立。自動車爆弾攻撃を繰り返し、その名はたちどころに知られるようになった。また、アル・ヌスラ戦線は、アサド大統領に対抗する複数の勢力の中で、もっとも実戦的な組織だという評価も得た。

しかし、シリアで力をつけたゴラニ容疑者は、バグダディ容疑者が自らの指揮下にある部隊に合流するよう命じたが、これを拒否。これに対して、バグダディ容疑者はアル・ヌスラ戦線への攻撃を開始した。両者の戦いを収めようと、アルカイダの指導者であるザワヒリ容疑者が仲介を試みるが失敗に終わり、その結果、バグダディ容疑者とザワヒリ容疑者は袂を分かつことになった。

バグダディ容疑者の支持者にとって、これは驚きに値しなかった。なぜならバグダディ容疑者は戦場で戦う闘士だが、ザワヒリ容疑者は戦場から離れた存在で、アルカイダの指導者といっても名目だけの存在にすぎないと見られていたからだ。

ISIL構成員によると、2011年にアルカイダの指導者だったオサマ・ビンラディン容疑者がパキスタン国内で米軍の作戦により殺害された時、後継者のザワヒリ容疑者に忠誠を誓わなかったのはバグダディ容疑者だけだったという。「バグダディ師はオサマ師にイスラム国家樹立を指示されていた。それはオサマ師が殺害される前からの計画だった」。

ISILは、イスラム国家の樹立こそが預言者ムハンマドのもとでイスラム教の栄光を復興させることができると考えている。一方、イスラム国家ができて過激派が一カ所に集まれば、西側の攻撃を受けやすくなるというのがザワヒリ容疑者の考えだという。

これに対しバグダディ容疑者の部下は、同容疑者が敵に対する「秘策」を数多く用意していると反論する。「彼は適切な時が来るまで、秘密を隠し通すことができる」と、別のISIL支持者は語った。

<強大な兵力と財力を手中に>

シリアはアル・ヌスラ戦線に託せというザワヒリ容疑者の呼びかけを無視して、2012年から13年にかけて、バグダディ容疑者はシリア北部と東部で戦闘を開始した。アサド大統領の軍隊と戦うこともあったが、それ以上に他の反政府武装勢力と頻繁に交戦した。

シリアの民間人に対するISILの容赦のない扱いは、多くの敵を作ることとなった。アル・ヌスラ戦線などの武装勢力は、昨年末までにシリア東部の砂漠地帯を流れるユーフラテス川まで、ISILの勢力を後退させた。

ところが、ISILは弱体化するどころか、さらに勢力を増した。シリア北部のラッカを手中に収め、厳格なイスラム法をしいた。

さらに隣接するデリゾール県では、他の反政府武装勢力に6週間に及ぶ攻撃を行い、イラクとの国境から100キロ離れたユーフラテス川北岸の町と油田を支配。一連の戦闘で兵士600人が死亡した。

反政府勢力によると、この油田で生産された石油はブラックマーケットで売られ、数百万ドルもの資金を生んだという。さらにイラク国内で仲間を集め、モスルを掌握した際に軍の装備品も手に入れたことから、バグダディ容疑者の兵力や財力は、もはや侮れないものとなった。

ISIL構成員は、それこそがバグダディ容疑者が望む、独立した資金や人材、武器、エネルギー供給にいたるまでの流れを担保する自給自足の軍隊を作る鍵だと語る。

<アルカイダはもはや存在しない>

バグダディ容疑者が明らかに強くなっていく様子は、10年以上も逃亡生活を続けながら戦場の活動家たちに影響力を行使しようとするザワヒリ容疑者とは対照的だ。

対立勢力の構成員でさえ、バグダディ容疑者が主導的立場にあり、その影響力はシリアやイラクだけにとどまらないと語る。「バグダディはイスラム戦士たちの間で多くの支持を得ている。彼らはバグダディについて、聖戦を戦う人物だと見ている」と語るのは、対立するアル・ヌスラ戦線の構成員だ。この人物によると、バグダディ容疑者はアフガニスタンやパキスタンでも支持を獲得しつつあるという。

支持者らにとって、バグダディ容疑者は、ビンラディン容疑者が夢見たイスラム国家樹立を実現しようとする新世代の過激派を代表する人物だと映るようだ。「バグダディ師とオサマ師は似ていると思う。2人とも常に先を見ていて、イスラム国家の樹立を求めている」と、あるシリア人のISIL構成員は話す。

ISILはもはやアルカイダに代わる存在となったという者さえいる。「アルカイダという団体はもはや存在しない。(アラビア語で「基地」を意味する)アルカイダはイスラム国家樹立のための基地だった。もはや我々は(シリアとイラクの一部を収め)イスラム国家を持ったのだから、ザワヒリはバグダディ師に忠誠を誓うべきだ」と別のISIL構成員は語った。

<邪魔者は殺せ>

バグダディ容疑者は外国人に対して、自らの組織の門戸を開いた。とりわけ欧米人を積極的に仲間に引き入れ、軍事訓練を施した。外国人の構成員はシリアの戦闘で有用なだけでなく、いずれ帰国して中東以外の地域で攻撃を実行する新たな構成員を集めるのに役立つのだ。

こうした構成員は恐怖心を抱かず、また相手に対して無慈悲になるよう訓練されている。活動家らの話によると、バグダディ容疑者の部下は爆発物を巻きつけたベストを着用して歩いているという。

ISILの残虐性を示すものとして、インターネット上で投稿された動画が挙げられる。この中にはISIL構成員が数人を処刑する様子が映し出されているが、その際、殺害された人物のうちの2人がイスラム教の信仰告白であるシャハーダを唱える最中に処刑されている。

この点について多くの聖職者が、シャハーダを唱えている間にその人物を殺害することは禁じられていると指摘する。だがISILのルールはこうだ。宗教、宗派にかかわらず、邪魔者は殺せ。

バグダディ容疑者がどれだけの脅威か尋ねると、支持者の一人はこう答えた。「世界がバグダディ師を恐れていないのなら、愚かなことだ。やがて自分の身にどんな破滅が降り注ぐのか、気付きもしないのだから。」

(Mariam Karouny記者 翻訳:新倉由久 編集:橋本俊樹)

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