イラクから東南アジアへ、SNSが拡散する「過激思想」

シリアやイラクで台頭するスンニ派過激派組織は、ソーシャルメディア(SNS)を活用して、外国人の勧誘活動を進めている。東南アジアやオーストラリアの治安当局者は、中東での戦闘に触発され、新たな世代の過激派が育つのではないかと警戒を強めている。
Reuters

「クアラルンプール/バンコク 26日 ロイター」 - シリアやイラクで台頭するスンニ派過激派組織は、ソーシャルメディア(SNS)を活用して、外国人の勧誘活動を進めている。東南アジアやオーストラリアの治安当局者は、中東での戦闘に触発され、新たな世代の過激派が育つのではないかと警戒を強めている。

ここに、過激派が作成した1本の映像がある。そこには、スキーマスクやスカーフで顔を覆い、銃を構えた4人の男たちが、リラックスした様子で壁にもたれる姿が映し出されている。撮影している人物によれば、彼らは戦闘に参加するためシリアにやってきたインドネシア人たちだという。

続いてカメラは1人ずつを映し出し、それぞれ母国でどんな職業についていたか紹介する。1人目は元軍人、次はビジネスマン、その次は大学生、そして最後に映ったのは自動小銃AK47によりかかった10代前半の少年だった。

「インドネシアの兄弟たちよ、恐れてはいけない。恐怖とは悪魔の誘惑なのだ」。ユーチューブに掲載されたこのビデオの撮影者は、こう訴えた。

1990年代、インドネシアやマレーシア、フィリピンからは数百人のイスラム教徒がアフガニスタンに渡り、アルカイダの軍事訓練を受けた。その後彼らは、そこで得た軍事技術と思想を自国へ持ち帰った。2002年に202人の犠牲者を出したバリ島のナイトクラブ爆破事件も、そうした人物らによる犯行とみられている。

内戦状態が続くシリアには、マレーシアから30人以上、インドネシアからは56人が戦闘のために渡った。安全保障問題の専門家は、実際の数はこれよりも多いとみている。

豪政府は、およそ150人のオーストラリア人がイラクやシリアでの戦闘に加わるため中東に渡ったとみており、そのうち一部は組織の主導的役割を担っているという。

冒頭のビデオに登場した人物らも含め、こうした外国人の多くは、イラク北部から西部に進攻しているスンニ派の過激組織「イラクとレバントのイスラム国(ISIL、ISISと呼ばれる場合もある)」に参加したと考えられている。ISILはイラク第2の都市モスルや、ヨルダンとの国境の町などの重要拠点を相次いで掌握した。

マレーシアの副内務相はロイターの取材に対し、同国でも懸念が高まっていると述べた。今年4月以降、同国の警察は、ISILと関係があるとみられる過激派の構成員少なくとも16人を逮捕した。その一部は、同国北部のジャングルで軍事訓練を受けていたという。

オーストラリアのビショップ外相は23日、安全上の理由から過去数カ月間に「相当数の」旅券を失効させたこと明らかにするとともに、さらなる対策を進める考えを示した。同外相は「過激な思想に染まった人物がテロリストとして訓練を受けて帰国し、国の安全に脅威を及ぼす恐れがある」と議会で証言した。

米安全保障戦略コンサルティング会社のソウファングループによると、シリアで活動する外国人戦闘員の出身国として最も多いのがサウジアラビア、チュニジア、モロッコ、ロシアで、その数は推定1万1000人に上る。

一方、オーストラリア、マレーシア、インドネシアの3カ国から渡ったと公式に確認されているのは、現在のところ236人にとどまっている。

<最後の戦い>

世界最大のイスラム教国であるインドネシアは、長年、東アジアにおけるイスラム過激派の中心地だった。バリ島爆破事件を起こしたジェマ・イスラミア(JI)など、さまざまなグループが生まれてきた。

インドネシアのシンクタンクは、今年1月に発表した報告書の中で、シリアの問題が同国の過激派をかつてないほど活発化させていると指摘。その背景として、シリアとその周辺地域において「最後の戦い」が始まるという教えが広がっているためだとしている。

インドネシア過激派のウェブサイト「アル・ムスタクバル」の編集長は、ISILが快進撃を続けていることは明らかで、イラクの都市を次々と陥落させており、「やがてバグダッドも陥落する。これは神の意志だ」と述べた。

JIの精神的指導者であるアブ・バカル・バシル容疑者や、影響力のある宗教学者であるアマン・アブドゥラーマン氏は、最近になって自らの支持者に対し、ISILを支援するよう呼びかけている。実際、ISILを支持する大規模な集会が数回行われている。

インドネシアでは当局の取り締まりにより、ここ数年は過激派が弱体化していた。しかし、シリアやイラクでの戦闘が国内の過激派に新たな息吹を吹き込むのではないかと、治安当局者は警戒を強めている。

アルカイダが活発だった1990年代と大きく異なる点は、SNSが大きな役割を果たしている点だ。過激派のメンバーはフェイスブックやユーチューブ、ツイッターなどを使ってメッセージを送ったり、「殉教者」を称えるのに利用している。

「アル・ムスタクバル」の編集長によると、ISILの人気上昇にSNSが果たした役割は大きいという。

シリアで戦闘に参加しているというマレーシア人のMohd Lotfi Ariffinは、自身や他の過激派メンバーの映像などをフェイスブックに投稿しており、そのフォロワーは1万9000人を数える。

フォロワーだと名乗る21歳のマレーシア人は実際、Lotfiに触発されてシリアでの戦闘に参加することを決心した。この男性は、自らのフェイスブックに投稿した映像の中で「最初はLotfi先生と(SNSを通して)交流を続けていた」と話す。

「先生は、私にとってこの旅がどれほど必要なものであるかを教えてくれた」。そう語る男性の横には、Lotfi本人と他のマレーシア人構成員の姿があった。

(Stuart Grudgings記者、Aubrey Belford記者 翻訳:新倉由久 編集:宮井伸明)

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