終わりの見えない中国の汚職捜査

中国政府の汚職撲滅運動の影響で、大型の公共事業の認可を遅らせたり、早期退職を願い出る者も出ている。
Reuters

習近平国家主席が昨年打ち出した汚職撲滅の方針が多くの中国政府高官に恐怖心を植え付けた結果、彼らはトラブルに巻き込まるようなことは一切回避するようになり、大型の公共事業の認可を遅らせたり、早期退職を願い出る者も出ている。

捜査の対象となった一握りの国有企業幹部は自殺にまで追い込まれた。

一般大衆は普段、こうした取り締まりを疑い深い目で見ており、今回の汚職撲滅キャンペーンは大成功だった。しかし、官僚や政府関係者によると予期せぬ結果も招いた。経済改革を推進し、政府機構の運営を担うと見込まれていた高官らが、余計な注目を集めることを恐れるあまり消極的になっているというのだ。

彼らが恐れる理由の1つは、習主席の1年半にわたるキャンペーンの勢いが一向に弱まる兆しがないためだ。中国共産党は先週、軍制服組の最高幹部だった共産党中央軍事委員会の前副主席が、収賄に関与したとして軍法会議にかけることを決めた。

もう一つの理由は、政府調達、エネルギーや建設部門、また土地使用権や鉱業権の付与などをめぐる汚職が中国社会に蔓延しており、多くの政府高官が次は自分たちに捜査の手が及ぶ可能性があることを知っているからだ。

習主席が2002年─07年まで党委員会書記を務めた東部沿海部の浙江省の政府高官は「反汚職運動は経済的に大きなインパクトがある。地方政府の高官はもはや投資プロジェクトを開始しようとせず、おとなしくしている。人々は他の政府キャンペーンと同様に短期的なもので終わると考えていた」と話した。

<恐れと不安>

汚職撲滅運動が一部の政府高官の生産性低下の唯一の理由ではないのは明らかだ。

中国では政策の実施そのものが問題となることが多く、地方政府の影響力低下や歳入減につながる政策も反対に直面しがちだ。政府の介入度合いを低下させる中で重要な役割を市場の力に委ねる方針を習主席が打ち出して以降、これが主要な争点となっている。

汚職撲滅が経済に打撃を与えたことを示すデータはないが、 華創証券の推計によると、ぜいたく禁止運動の影響で昨年の経済成長率は0.4%ポイント押し下げられた。

共産党の汚職監視機関は3月、昨年の政府高官の接待費は前年比で53%減、海外出張費は39%減だったと発表した。ぜいたく禁止運動に対し、高級酒や高級時計、高級車メーカーのほか、一流ホテルチェーンが不安を強めている。

北京のある公務員は最近、資産の詳細だけではなく、海外に居住していないかどうかを確認するために子どもや近親者の住所を書類に記入するよう求められた。

習主席のキャンペーンは配偶者や子が海外在住の「裸官」と呼ばれる公務員を標的にしている。これらの政府高官は人脈を利用して違法に資産を移転する場合があるからだ。

この公務員は「恐怖と不安の雰囲気に包まれている。誰も目立つことはしたがらない。このため役所周辺では現在、ほとんど物事が進んでいない」と話した。

国営新華社通信が6月30日に報じたところによると、州政府と省庁レベルまたはそれ以上の約30人の高官が汚職関連の捜査を受けている。

一部の関係者はこれが委縮効果を招いており、注目されないように早期退職を考えている高官もいるという。

華創証券のNiu Bokunエコノミストは「トラブルに巻き込まれず逮捕されるな、というのが彼らのメンタリティーだ」と述べた。

汚職撲滅運動が勢いを増す中で、捜査対象となった政府の上級幹部は相次いで自殺に追い込まれている。

中国青年報が4月伝えたところでは、54人の高官が昨年1月から今年4月までに「不自然な死因」で死亡し、このうち40%以上は自殺だった。このうち8人はビルの飛び降りだったとしている。

中国では通常、国有企業の幹部は政府高官と呼ばれる。1月には鉄道省に対する贈賄の疑いで捜査中だった中国中鉄の白中仁総裁が墜落死。5月には同じく贈賄の疑いで取り調べを受けていた三精製薬の劉占浜元会長も同様に死亡した。

人民日報は6月、1面の解説記事で地方政府高官の沈滞状況と彼らが「脚光を浴びるのを避けようとする」現状を糾弾した。

華宝信託のNie Wenエコノミストは「汚職撲滅運動が強まる中で地方政府の高官は成り行きを見守る手法をとっており、景気に大きな影響が及んでいる」と指摘した。[北京 9日 ロイター]

(Kevin Yao and Ben Blanchard記者)

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