お酒を飲みながら深夜まで読書を楽しめる「森の図書室」 クラウドファンディングで日本新記録

東京・渋谷に蔵書1万冊、深夜まで開いている「森の図書室」が7月1日に正式オープンした。クラウドファンディングで国内で史上最多の支援者を集めた図書室は、どんな場所なのだろうか?
猪谷千香

東京・渋谷に蔵書1万冊、深夜まで開いている図書室が7月1日に正式オープンした。その名も、「森の図書室」。ネットで資金を募るクラウドファンディングで日本新記録の支援者数を達成、公共図書館でも従来のブックカフェでもない新しい街の図書室に今、注目が集まっている。「自分があったらいいなと思う場所を作りました」と話すのは、「森の図書室」のオーナー兼「図書委員長」の森俊介さん。一体、どのような場所なのか、オープン直前に訪ねてみた。

■「渋谷に夜の図書室をつくりたい」

渋谷駅から徒歩7分、道玄坂を登ったところに「森の図書室」はある。壁一面にしつらえられた本棚。その前にはカウンターとイスがあり、お酒も楽しめる。コースターには書評が印刷され、細部にまでデザインにこだわりを感じるおしゃれな空間だ。本のジャンルは、絵本からビジネス書、小説、写真集までさまざま。寄贈された本以外は森さんが選書している。本棚には現在5千冊ほど配架されているが、今後は1万冊にまで増える予定だ。

この「森の図書室」は有料会員制(年会費は1万円)で、会員は無料で本を借りることができる。本の管理は、Facebookのアカウントとスマートフォンを「図書カード」として使用するサービス「リブライズ」を使う。近隣の渋谷区立図書館は午後9時に閉館するが、ここは午前1時まで開いている。その上、飲食もできる図書室は日中多忙な利用者にとって魅力的だ。

森さんは、どうしてこの図書室を開こうと思ったのだろうか?

年間100冊以上もの本を読むという森さんの心に残っているのが、中学時代に読んだある本だ。田舎で私設図書館をつくったおじいさんの話で、「図書館や図書室は、パブリックなものというイメージでしたが、個人でもできてしまうんだと思いました。将来、本に囲まれて過ごせればいいなと憧れました」と振り返る。

森さんは2年前に会社を辞め、「渋谷に夜の図書室をつくること」を考え始めた。渋谷の街を選んだ理由をこう語る。「ひとつは、社会人になってから、4年間ぐらい渋谷に住んでいました。渋谷が好きで土地勘もあった。もうひとつは、こういう図書室を作り、いろいろな人に読書を届けたいと思った時に、恵比寿や有楽町、銀座など他の街に来る人たちのカラーが似ている気がしたこと。でも、渋谷は多様な人たちが集まる。日本の文化の発信地で、シンボル的な街でもあります」

■史上最多の1737人が支援、1カ月で953万円を達成

オープンに先駆け、森さんはクラウドファンディングのサイト「CAMPFIRE」で4月25日、「渋谷に夜の図書室を! @道玄坂に本と人がつながる場所を作ります」というプロジェクトを立ち上げた。目標金額は10万円。「資金集めというよりは、多くの人にこの図書室のことを知ってほしいと思って使いました」

反響は、森さんの予想をはるかに上回っていた。翌日には目標額を達成。約1カ月後の5月30日までに、支援者は日本のクラウドファンディング史上最多の1737人となり、支援額は最終的に953万円にのぼった。支援者には、海外や地方など「森の図書室」を日常的に使えないような遠方の人もいた。反響の大きさを森さんはどう受け止めたのだろうか。

「これだけの人数の方が集まったということを重く受けとめています。僕は、こういうことをやりたいと人に話すことが苦手で、これまで言ったことがあまりなかった。クラウドファンディングで『図書室やりたい』といったら、頭がおかしいんじゃないかと思われても不思議じゃないとも考えてもいました。でも、面識のない人たちから応援してもらえた。不安もありますが、やりたいことを誰かに応援してもらえることが、すごくうれしいです」

■友人と本を貸し借りした楽しさで読書できる空間

6月には、クラウドファンディングで支援してくれた人たちを対象に「森の図書室」をオープン。オープニングイベントには17歳の高校生から83歳の女性まで、老若男女多くの人たちが駆けつけた。一番奥の棚には、会員となった人たちが寄贈した本が並ぶ棚がある。「友達の家みたいな空間にしたいですね」という森さんの言葉通り、誰かがおすすめした本を手にとってみる楽しみがここにある。

「僕自身、この本棚を見ていて楽しいです。いろんな本をいろんな人に読んでいってもらえたら素敵だと思います。友人と本を貸し借りしたことって誰しもあったと思いますが、そんな感覚で楽しめれば。面白そうな本がたまたま見つかって、気軽に読書を楽しんでいただける。そんな図書室にしたいです」

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