【エボラ出血熱】拡大の背景には製薬業界の放置も WHOは未承認薬を容認

過去最悪の規模となったエボラ出血熱の感染と闘う世界保健機関(WHO)の専門家たちは、年末までに治験薬の供給量が増え、ワクチン開発も進展することを期待している。
Reuters

[ロンドン 12日 ロイター] - 過去最悪の規模となったエボラ出血熱の感染と闘う世界保健機関(WHO)の専門家たちは、年末までに治験薬の供給量が増え、ワクチン開発も進展することを期待している。

現在のエボラ熱流行は、標準的な感染予防措置で終息する可能性もあるため、ワクチン開発は間に合わないかもしれない。ただ、今後起こり得る流行への備えにはなる。

WHOの専門家委員会は12日、エボラ感染が拡大する西アフリカで、開発段階の治療薬やワクチンを使用することの是非について議論した結果、使用は倫理的との認識で一致した。今後の課題となるのは、すでに1000人以上が命を落としている流行に効果をもたらすのに十分な量の治療薬を供給できるかどうかだ。

WHOのマリーポール・キーニー事務局長補は記者団に対し、米国人2人に投与された米マップ・バイオファーマシューティカルの未承認薬「Zマップ」について、劇的な効果があり、即効性に優れていたようだと述べた。

だが、Zマップは不足しているのが現状だ。また、スペインの保健省は、同治療薬を投与されたもう1人の感染者である75歳のスペイン人神父が死亡したと明らかにした。

他の治療薬も開発の初期段階にある。カナダのテクミラ・ファーマシューティカルズ

しかしながら、それらの治療薬が実際に効いたとしても、西アフリカでの流行を止めるのに必要な量は供給できないだろう。

今後も需要に供給が追いつかない状況は続くとみられるが、WHOは、年が明けるまでには供給量が増加するという楽観的な見方を崩していない。

WHOはまた、患者に接する医療関係者や研究者など、最も感染のリスクにさらされている人たちに使うワクチン開発の早期進展を期待している。キーニー事務局長補によると、向こう数週間以内に2種類のワクチンが臨床試験に入る予定で、年内には緊急時の使用を検討するのに十分な初期段階のデータが得られる可能性があるという。

キーニー氏は「人間への安全性に関して、年末までに予備的ではあるが、十分な情報が得られるだろう。早く結果の出る治験の方法がある」と語った。

初期の臨床試験では、英グラクソ・スミスクライン

<市場の失敗>

新しい治療薬やワクチンの試験は、安全性を確認するために通常は長い年月を要する。だが、エボラ出血熱の場合はそのハードルがかなり下げられることになり、これを懸念する専門家もいる。

米ジョージタウン大学の小児科学教授で、同大学病院臨床バイオエシックスセンターのセンター長を務めるケビン・ドノバン氏は、「今のところ、こうした治療薬は少数のサルで試験されただけ」だとし、「長期的にはもちろんのこと、短期的にもどのような副作用があるか分からない。われわれはその結果をエボラ患者に負わせることになる」と指摘した。

未承認の治療薬使用を支持する決定は、致死率の高いエボラ出血熱の特異性と、貧困国で発見された熱帯病を放置してきた製薬業界の「ツケ」を埋める研究の必要性を反映している。

WHOのキーニー事務局長補は「エボラ出血熱の治療薬がないという事実は、市場の失敗を示している」と指摘。「数カ国の政府がこうした治療薬やワクチンの開発に投資してこなかったら、われわれは路頭に迷っていただろう」と述べた。

約40年前にアフリカ中部の奥地でエボラウイルスが初めて見つかってから、流行は数年ごとに発生している。にもかかわらず、エボラ出血熱がバイオテロの脅威の1つとみなされ、研究者が真剣に捉え始めたのは、わずか10年ほど前のことだ。

(Ben Hirschler記者 翻訳:伊藤典子 編集:宮井伸明)

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