金正恩氏の健康状態、臆測広がる 北朝鮮、権力掌握を疑問視する声も

北朝鮮の最高指導者、金正恩(キムジョンウン)第1書記の動静が北朝鮮の国営メディアで報道されなくなって1カ月以上が過ぎた。海外メディアは健康問題や統治能力への影響を懸念している。
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北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の動静が北朝鮮の国営メディアで報道されなくなって1カ月以上が過ぎた。10月10日の朝鮮労働党創建69周年の記念行事にも姿を現さなかった。

海外メディアは健康問題や統治能力への影響を懸念している。現時点での情報を整理した。

10月10日付の朝鮮中央通信は、朝鮮労働党の創建69周年に際して、党幹部らが、金日成主席、金正日総書記の遺体が安置されている錦繡山太陽宮殿を訪問したと報じたが、金正恩氏については「花かごを供えた」とだけ伝えられた

北朝鮮の最高指導者になった2012年以降は2年連続で同宮殿をこの日に訪れている。

北朝鮮の国会に相当する9月25日の最高人民会議も、出席したとは報じられず、最高権力の空白が様々な臆測を読んでいる。

■痛風か?足に負傷

金正恩氏は2014年7月以降、足を引きずって歩く様子が繰り返し北朝鮮メディアで放映され、9月25日に朝鮮中央テレビが放映した記録映画では「不自由な体」というナレーションがあった

アメリカのForeign Policy紙は「噂では、彼は痛風を患っている」とし、ジョン・ホプキンズ大学アメリカ朝鮮研究所のカーティス・メルビン研究員の「公式に発表された情報によれば、彼は多くの時間を元山(ウォンサン、北朝鮮東部)と江東(カンドン、平壌郊外)の家族の別荘で過ごしている」というコメントを紹介した

ロイターは「肥満が原因で足に負傷」と報じている。

8月終わりか9月初めごろに軍事演習を視察した際、肥満が原因で足に全治3カ月のけがを負った。だが、引き続き同国を完全掌握している。

北朝鮮・中国両政府に近い関係筋が9日明らかにした。(金正恩氏は党記念行事に姿見せず、足首負傷で歩行困難の情報も【北朝鮮】より 2014/10/11 12:19)

一方で韓国の柳吉在(リュ・ギルジェ)統一相は10月5日に韓国で出演したテレビ番組で、4日にアジア大会閉会式出席を名目に電撃的に訪韓した金養建(キム・ヤンゴン)・朝鮮労働党統一戦線部長に金正恩氏の健康問題を質問したところ「何の問題もない」と答えたことを明らかにした

■「妹が代行」情報も

先のロイターは、金正恩氏が北朝鮮を引き続き完全に掌握しているとして、「クーデターや金正恩氏死亡のうわさはナンセンスだ」との関係筋の話を伝えている。

筆者も9月15日から23日まで北朝鮮を取材で訪問した。動静が伝えられなかった期間だが、金正恩氏を称えるテレビ番組や新聞記事は引き続き流れていたし、国民の様子なども特に異変を感じることはなかった。

その一方、CNNは、闘病中の金正恩氏にかわって、妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が代行の地位に就いたとの説が浮上したと伝えた

アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)朝鮮半島担当部長でジョージタウン大学教授のビクター・チャ氏は、以下のようなコラムで、長期的に金正恩氏の統率力低下は避けられないとの見方を示している。

彼は高度肥満症だ。実際に会ってみると、写真で見た時よりもさらに深刻な肥満だ。葉たばこに過飲をする彼は、ほかの薬物にまで手を出しているのかもしれない。彼には心臓・腎臓疾患という家族歴もある。このような背景で1つの国を治めるところから来る相当なストレスまで追加されれば、若い指導者が彼のおじいさんのように50年近く統治するという展望は説得力が弱い。

金正恩の代わりに誰が国を治めるかは不明確だ。金氏一族の元老は消えた。張成沢は処刑されたし、叔母である金敬姫(キム・ギョンヒ)は姿が見えなくなって久しい。妹であるキム・ヨジョンが過渡的なリーダーシップを行使しているという報道があるが、張成沢・金敬姫水準で一族と党と軍に影響力を行使する人物はない。だから「何の異常もない」ということはできないのだ。

【コラム】北朝鮮には何の異常もないのか(2) | Joongang Ilbo | 中央日報より 2014/10/10 09:52)

■金正日氏もたびたび行方くらます

軍部隊や地方の事業の現地指導、音楽会の鑑賞など、最高指導者の動静が常に党機関紙「労働新聞」のトップを飾る北朝鮮では、その動静報道が途切れること自体が臆測を呼ぶ。

金正恩第1書記の父の故・金正日総書記の時代に、動静報道が30日以上途切れた回数を新聞報道などで拾ってみると、2003年に約40日以上途切れたことが3回あったほか、2006年7~8月に約40日、2008年8~10月に約60日間の空白期間があった。

このうち2003年2月から4月までの約50日間は、北朝鮮がNPT(核不拡散条約)脱退宣言をして核兵器開発に踏み切るなど、「第2次核危機」が勃発した時期。期間中には、ブッシュ大統領(当時)から北朝鮮とともに「悪の枢軸」と名指しされたイラクに対し、アメリカが圧力を強めて侵攻に踏み切った。2006年は動静報道が途切れた翌日に長距離弾道ミサイル「テポドン2」の発射実験を断行し、国連や日本などの経済制裁につながった。いずれもアメリカなど国際社会の出方を分析し、対応方法を考えるため地方視察などは控えていた可能性があった。

一方、2008年の「空白期間」は、金総書記の健康悪化説が取りざたされた。2009年初頭に配信された映像の金総書記は以前よりやつれ、中国共産党代表団に右手を隠して応対するなど、脳神経系統の病気の可能性が指摘された。

金正恩氏が最高指導者に就任して以来、動静報道に30日以上の空白が生じるのは初めて。10月12日付の労働新聞の1面トップは、農業の科学技術導入による近代化を訴えたり、各地で農産物の収穫が進んでいることを伝える記事だった。金正恩氏の動向は依然、伝えられていない。

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