イスラム国「北大生らが行くのは無理だと思った」 同行取材をしようとした常岡浩介氏に聞く 自宅には家宅捜索

中東の過激派組織「イスラム国」に男子学生(26)が戦闘員として加わろうとしたとされる私戦予備・陰謀事件。学生に同行しようとしたジャーナリスト常岡浩介氏にインタビューした。
MOSUL, IRAQ - JULY 5 : An image grab taken from a video released on July 5, 2014 by Al-Furqan Media shows alleged Islamic State of Iraq and the Levant (ISIL) leader Abu Bakr al-Baghdadi preaching during Friday prayer at a mosque in Mosul.(Photo by Al-Furqan Media/Anadolu Agency/Getty Images)
MOSUL, IRAQ - JULY 5 : An image grab taken from a video released on July 5, 2014 by Al-Furqan Media shows alleged Islamic State of Iraq and the Levant (ISIL) leader Abu Bakr al-Baghdadi preaching during Friday prayer at a mosque in Mosul.(Photo by Al-Furqan Media/Anadolu Agency/Getty Images)
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中東の過激派組織「イスラム国」に北海道大の男子学生(26)が戦闘員として加わろうとしたとされる私戦予備・陰謀事件で、北大生らはフリージャーナリスト常岡浩介氏(45)に同行してシリアのイスラム国支配地域に入ろうとしていた。常岡さんはハフポスト日本版のインタビューに「彼らがイスラム国に行くのは無理だと思った」と話した。

事件では、北大生とともに、千葉県のアルバイト男性(23)が8月、シリアに渡ろうと予定していた。常岡氏によると、イスラム法学が専門の元同志社大学教授の中田考氏(54)から「シリアに戦いに行きたい人がいる。取材してほしい」と頼まれ、8月初めに学生と会ったという。イスラム国の支配地域に3度訪れたという常岡氏に、地域の状況についても聞いた。

――北大生とはどういった経緯で知り合ったのですか。

ジャーナリストの常岡浩介氏=東京都千代田区

元同志社大教授の中田考先生から紹介され、7月31日に池袋でイスラム国に参加したいという2人の男性らと会いました。その次が8月5日。8月11日出発の航空券を買って、中田先生の家の近くのファミリーレストランで会いました。

その際にビデオカメラで取材をしました。僕はてっきり、この2人は中田先生の信奉者か、教え子なのかと思い込んでいたら、全然違った。イスラム国そのものに関心あるのかと聞くと、「関心はない、別にどこでもいい」と言う。こちらはかなり拍子抜けをして、何に関心があるのか尋ねると、アルバイト男性はいわゆる軍事オタクで「僕は趣味のために行く。ずっと軍事に関心があって、戦争を体験したい。死ぬ気なんかありません。気が済んだら帰ります」と言う。甘いと思いました。

もう一人の北海道大学生の方は、「日本のフィクションは大嫌いだ」と言い始めて、「別のフィクションに自分を放り込んでみたい」と語りました。「中2病」(中学2年生頃の思春期に見られる背伸びしがちな言動を自虐するネット用語)だと感じました。僕が「シリアの戦争は現実で、あなたは人殺しをするかもしれないでしょう」と言ったら、「その場面になったときに、果たして自分は躊躇するかということに関心がある」と答えました。僕は、この人たちがイスラム国に行くのは無理だと思いました。

――8月5日に接触して、それからどうしたのですか。

シリアへの出発予定日の8月11日早朝、中田先生から電話あり、アルバイト男性について「お母さんから自宅から出してもらえず、行けなくなりました」と言う。僕は「やっぱり」と思いました。お母さんにバレても、本気ならば実行するでしょう。誰だって、いまのシリアに行くといったら親に反対されるに決まっています。

――北大生の方は、どうなりましたか。

北大生は、フライトの3時間ぐらい前になって僕に電話をしてきて、「パスポートを盗まれて行けなくなりました」と言ってきました。それで、すぐに航空券をキャンセルしました。

その数日後、彼は「申し訳ありませんでした」と電話をしてきて、「警察に届けました」と言いました。僕はびっくりしました。彼の説明では、8月10日の出発前夜に友達が壮行会を開いてくれて10人ぐらい集まったが、その中の彼のイスラム国行きに反対している人がパスポートを隠したか、持ちだしたと言うのです。友達同士のトラブルを警察に届けたとはどういうことなのかと思いました。結局、そこから警察の捜査にもつながったのでしょう。

その後、一切連絡がなくなったので、「やっぱりやめたんだな」と思っていました。そしたら10月4日になって中田先生から連絡があり、北大生と一緒に今夜、僕の家を訪れたいと言ってきました。シリア行きの打ち合わせをしたいと。中田先生には、僕がシリアに10月7日に出発することを伝えていました。それで、北大生はこれと同じ10月7日の切符を買ったと言うのです。別の便でしたが、自分で買ったということは、今度こそ行くのかなと思ったのです。しかし、出発前日にガサ入れ(警視庁の家宅捜索)されて行けなくなりました。

北大生には、イスラム国に入って、万が一にも人殺しをするのはよくないと言いました。放置していると何かの間違いで入ってしまうということもあると思い、同行取材しようと思いました。彼がイスラム国に入ったら、それ自体が大変なニュースになりますし。

――常岡さんにも、家宅捜索が入りましたよね。

10月6日にシリア行きの荷造りをしていたら、突然、警視庁公安部の警察官が家宅捜索令状を持ってやってきました。令状に罪名が「私戦予備・陰謀」と書いてあるので驚きました。関係先として常岡浩介の自宅を捜索し、コンピューターや旅券、航空券などを押収する、ということが書いてありました。

家宅捜索で押収されたものの目録がこれです。全部で62点。パスポートはその場で取り上げてメモした後に返してきました。ほかは取材機材。ビデオカメラとデジカメ、パソコン3台、ハードディスク3台。携帯とスマートフォンを合わせて7台も持って行きました。

家宅捜索をされたことを不服として準抗告をしました。何人かの弁護士と話をしましたが、「私戦予備・陰謀」なんて罪が成立するわけがないと、みんなが口を揃えて言います。万が一起訴されても有罪になるわけはないと思っています。

――警察はどうして捜査に踏み切ったのでしょうか。

9月24日に国連安全保障理事会が各国に具体的な措置を求める決議を採択しました。安倍政権も、既存の法律を使って、その努力をしなければいけなくなった。でも、法律そのものは全く今回の事件に適用されようがなく、僕は、架空の罪をでっち上げたと非難するべきだと思っています。

SANLIURFA, TURKEY - OCTOBER 22: (TURKEY-OUT) Smoke and dust rise over Syrian town of Kobani after an airstrike, as seen from the Mursitpinar crossing on the Turkish-Syrian border in the southeastern town of Suruc in Sanliurfa province October 22, 2014. The Syrian town of Kobani was yet again hit by fierce fighting between Islamic State and Syrian Kurdish forces. Turkey has agreed to allow Iraqi Kurdish fighters to travel through its territory in order to provide reinforcements for the Syrian Kurdish force. The U.S. has conducted airstrikes on Islamic State positions within the town and dropped supplies and weapons for its defenders. (Photo by Gokhan Sahin/Getty Images)

――常岡さんとイスラム国との関係を教えて下さい。

かつてチェチェンを取材したときに知り合ったチェチェン独立派の幹部の1人で、今はヨーロッパに亡命している人が、昨年、10年ぶりに連絡をしてきて、「実は俺の長男が今シリアで戦っている。よかったら紹介する」と言ってきました。そこで、去年の秋に、その長男を訪ねていったら、たまたま「イラク・シャーム・イスラム国(ISIS)」(=現在のイスラム国)の司令官と出会いました。彼がすごく日本に関心を持っていて、「日本にイスラム教徒はいるのか」と聞いてくるので、中田先生を紹介しました。中田先生はアラビア語も上手ですし。中田先生は今年3月、司令官に会いに行きました。

――これまで何回イスラム国の支配地域に入ったのですか。

3回です。去年の秋と今年1月、そして今年9月です。1月は、武器なんかがかなり古くてショボかったです。それが9月には、戦車は見ましたし、ハンビーというアメリカ軍が使っている装甲車もありました。対空機関砲みたいなものもありましたし、武器は充分な感じでした。イラクの(北部)モスルを攻略した時に、イラク軍の基地を丸ごと奪い取ったのでしょう。

――世界各国から若者が参加してきていますよね。魅力は何でしょうか。

欧米の人は、例え自国で失業していようが社会保障はイスラム国の給料よりもいいはずで、参加しているのは「中2病」か軍事マニアが多いように思います。ただ、ヨーロッパへの移民から参加している人たちは僕に「どうしても民主主義と言うのものに納得がいかない」と言いました。移民排斥運動が影響していると思いますが、イスラム教徒であって、移民であって、アラブであるというのは、どこででも少数派であり主流ではないのと感じるのでしょう。少数派尊重とは言うけれど、それは言葉だけでシステム化されていない。そんな気持ちでイスラム国に参加する人もいます。

――日本人は、イスラム国に対して怖い印象を持っています。欧米人の首をはねたりしています。日本人はどんな風に捉えたらいいと思いますか?

(シリア国内で8月にイスラム国に拘束されたとみられる)湯川遥菜氏は、(シリア反体制派の武装組織)イスラム戦線と一緒に行動していた際、武器を持っていて、イスラム国側に捕まりました。普通そういうケースはその場で処刑されると思うのですが、現在まで処刑されていません。それは多分、イスラム国側が政治的アピールをしたいのだと思います。

――世界全体にとっても、イスラム国は脅威になっています。

もともとイスラム国は、欧米への攻撃にほとんど関心を示していないのが特徴のテロ組織とされていました。同じイスラム世界のシーア派など異宗派を敵視し、攻撃することに熱心です。自分の国を造るのが彼らの目的で、革命を起こそうとかシリアの民衆を救おうとか、そういうことには関心がないのです。

もともとはアメリカを攻撃する意思がほとんどないグループなので、もしアメリカがそのまま放っておいたらそれほど危険な組織ではなかったかもしれないと僕は思っています。しかし、8月に(クルド系の少数派)ヤジディ教徒の虐殺が起こり、アメリカは空爆を始めました。空爆を受けて、アメリカに反撃、復讐すると言うようになりました。そして見せしめの処刑です。もちろん、イスラム国はイラクの油田を狙ったり、クルド人地域を狙ったりするなどアメリカの権益を侵そうとしていますから、アメリカにとってマイナスになる点は相当あります。

――今後はどう展開していくと思いますか。

正面切った戦闘では、イスラム国は決して強くないのです。素人が多いし、作戦はめちゃくちゃです。モスルを攻略するときも、正面で戦ったと言うよりは、裏から手を回して、ほとんど戦わずにイラク軍は逃げ去ったという感じでした。イラクの戦いでは、イラク軍の異常な弱さが指摘されていました。

ただし、イスラム国は、中枢は(指導者のアブバクル・)バグダディ容疑者がカリフ(イスラム共同体の最高指導者)を名乗っていて、その周辺は(旧政権与党でスンニ派主導の)バース党の残党だそうです。バース党の残党は民主運動に期待していなくて、民衆に自由を与える気もない。多分、バース党の残党とバグダディはかつてのサダム・フセイン政権のやり直ししか考えていないようです。

彼らはカリフ制再興という理想を持っていますが、実際、今のイスラム国は全然そんな感じではない。税金が安くて非常に小さな政府のため、国家による個人への干渉が少なくなる結果、自由な社会が実現できるというのが1つの理念なのですが、現実は、反対派を捕まえてどんどん処刑をしている。理念で集まってくる人たちは、恐らく実態との遊離に次第に気がついて来るのではないかと僕は思っています。そうすると、内部分裂が起こることもあると思います。

………

常岡浩介(つねおか・こうすけ) 1969年長崎県島原市生まれ。早稲田大学人間科学部卒業。1994年よりNBC長崎放送報道部記者に。1998年よりフリーランス。「ロシア 語られない戦争」(アスキー新書、2008年)で、平和・協同ジャーナリス ト基金奨励賞を受賞。2010年4月より5ヶ月間、アフガニスタンで武装勢力に拘束される。

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