「気候変動で困るのは子供の世代」 地球環境基金トップに聞く

地球環境の保全活動などに取り組む国際機「地球環境ファシリティ(GEF)」のCEO、石井菜穂子さんがハフポスト日本版のインタビューに応じた。
GEF

地球温暖化が進んで島国が沈んでしまうかもしれない――。地球環境の保全活動などに取り組む国際機関「地球環境ファシリティ(GEF)」の最高経営責任者(CEO)、石井菜穂子さんが10月、一時帰国した際にハフポスト日本版のインタビューに応じた。石井さんは「気候変動問題で一番困るのは、我々よりも子供の世代」と訴えた。

石井さんは2012年、財務省出身の女性官僚として初の国際機関トップとなった。世界銀行や国際通貨基金(IMF)などの勤務を通じて、途上国支援などの開発や地球環境分野といった国際的な経験が評価された。GEFは世界銀行、国連環境計画(UNEP)、国連開発計画(UNDP)の3者が開発途上国に地球環境保全対策の資金を供給する目的で1991年5月につくった支援機関。本部はワシントンで職員は約100人。日本は第2位の資金拠出国。

――まず始めに、地球環境ファシリティ(GEF)はどういう組織ですか。

インタビューに応じる石井菜穂子さん=東京都千代田区

途上国に地球環境を守るという義務を果たしてもらうにはお金が必要です。そのお金を供給するためにできたのがGEFです。1992年にブラジルのリオデジャネイロで地球サミットがあり、地球環境問題は、世界が一緒になって取り組まないといけない問題だと盛り上がりました。カバーする分野は地球の生態系に影響のあるような環境問題です。気候変動、生物多様性、砂漠化、国際河川の問題もあります。

――設立して22年経ちました。実績や効果を教えて下さい。

例えば太陽光発電があります。途上国に定着させるには様々な難しい面もありました。けれども、エジプトやモロッコなどいくつかの国で、GEFのお金と、世銀や民間からの投資が一緒になって太陽光発電を進めたことによって、一つの確立した技術になってきました。ただし、今の地球環境問題というのは全部がリンクしているところもあり、個別の技術やプロジェクトの積み重ねではやり切れないところもあります。だからもう少しシステム全体を変えなければならず、そのためには個別プロジェクトのアプローチでいいのかという課題があります。

――気候変動問題はとりわけ重要ですね。

地球環境問題というのは気候変動に象徴されています。産業革命以来の人類が石炭や石油を使って物を大量生産するようになった過去二百何十年の経済活動が、この地球の生態系に、それまではなかった大きな影響を与えています。いまのままでは持続可能な生態系サービスを提供できなくなるところにまで来てしまいました。

気候変動問題は、1、2年先の問題ではなく、もっと先延ばしができるのではと人々が思ってしまいます。今みんなで何をするか決められないところが一番難しい問題です。これが国の話だと、警察や消防、教育、保健とか、公共財は国の責任で必要な分だけ税金を取ってお金を供給するという仕組みになります。しかし地球の問題になると、責任があると思われる国と、被害者になっている国とが一緒じゃないわけです。誰の責任かというと、過去二百何十年の先進国の活動ということにもなります。

――国連気候変動枠組み条約交渉の課題を教えて下さい。

今、一番の被害者はサブサハラ・アフリカや島嶼国です。問題を引き起こしてきたことに関係のない国の人々なので、この責任関係が政治的にも複雑です。今の条約交渉の最大の問題は、「あなた方が二百何十年好き勝手に開発した結果なのに、どうして私たちが被害を受けなくちゃならないのか」ということ。「補償してもらって当然だ」という途上国の主張と、「これはみんなでやらなくてはいけない問題だ」と言っている先進国の間で、なかなか交渉がまとまらない現実があります。

気候変動枠組み条約で合意に至るには、加盟国、つまり200もの国全体の合意がいります。かつ、気候変動問題は、国を超えているだけじゃなくて時空をも超えていて、一番困るのは、我々よりも子供の世代なんです。国を超えて、時を超えて、結果と責任がうまくマッチしてこない。マッチさせる必要があるという意味で、政治的にも経済的にも難しい問題を解決するために作られたのがGEFです。

――今年9月にはニューヨークで国連気候変動サミットがありました。

目立ったのは、都市の市長さんたちの勢いです。2年前のリオ+20(国連持続可能な開発会議)でも、中央政府よりは、都市やNGOの活動がものすごく目立っていました。

ところで都市化については人口増、都市化、それから中産階級増が地球環境を悪くしている三つの要因とよく言われます。問題の中心にある都市にどういうような都市設計をしてもらうかというのは今後の大問題です。これからは中央政府だけじゃなく、都市と一緒に仕事をしましょうというイニシアチブを持ち出しています。

「水銀に関する水俣条約」を話し合う会議に参加した石井さん=GEF提供

――GEFの活動に、日本はどのように関与していますか

例えば都市化の問題や、あるいは環境技術の途上国への移転の問題があります。それから海洋イニシアチブなど、国際舞台で日本が活躍していける分野は多いのです。

日本がアクターになってもらえるようなプラットフォームづくりをもっとやりたいと思っています。例えば持続可能都市イニシアチブ。実は横浜や北九州など日本の都市は世界でとても人気がある。特に北九州は、かつては鉄鋼の町だったのが環境にとても優しい町になったとして、あちこちで大変注目されています。そういう分野でもっと日本の知見を活用させてもらえるといいですね。

ただし、持続的な都市開発となると、日本の管理の仕方って個別プロジェクトや個別のテクノロジー中心であったりするので、総合力で勝負するにはまだ距離があります。これからは総合力の勝負になってくるので、どうやって日本の隠れた資産のようなものを引っ張り出していけるか、私も知恵を絞っていきたいと思っています。

――水銀の使用を国際的に規制する「水銀に関する水俣条約」が2013年に採択され、GEFは条約の実施のための資金を途上国に支援することを定めています。これ以外に日本との絡みの取り組みはどういったものがありますか

日本は、生物多様性分野でも活躍しています。「里山イニシアチブ」という概念は大変人気があり、ます。ここから先は手を付けてはいけないとか、ここまでは開発していいといった線を引くのではなく、日本の里山のように生態系と人間の活動が微妙に融合しているような概念が、今後の持続的開発にとっては重要だということです。

日本が大事にしてきた自然と人間の関わりの概念は、たぶん今後、特にアフリカとかあちこちで使われると思います。このほか、日本の持っている環境技術や省エネ技術をどのように途上国に移転していけるのか、GEFはもっとお手伝いができると思います。

――これまで一番印象に残っている現場はどちらですか。

インドネシアのサンゴ礁回復事業=GEF提供

最近で一番面白かったのは、島嶼国のサミットが行われた(南太平洋の)サモアです。島嶼国とは、カリブ海と南太平洋と、あとはインド洋、アフリカの島国で、全部で50ぐらいあります。自分たちが気候変動に及ぼした被害はゼロだけれども、最も被害を急速に受けている人々です。島国の多くは、もし被害がこのまま続けば、一世代後には沈んでしまうんです。

環境と開発は一体だと言っても、日本など先進国だとなかなか分からないところがある。しかし彼らにしてみると、それは本当に自分の問題です。彼らにとっての生態系とは、あの山の上からこの川、水脈を通って、里を通って先の海に行くっていうように全く一体化していて、自分たちの生活圏内に全部一つあるような感じになります。

生態系を一体と捉えた開発アプローチをするのは、畑を作るときにここじゃ駄目でもっと別の土地にしなくてはとか、ここの森林は保護しなくてはとか、海を守るためには川の上流の人に何をやってもらうのかと考えることです。しかも首相からコミュニティのリーダーまで一丸となってやっています。

――地球環境問題を考える際の原点があるということですね。

そういう生態系の本来考えるべき問題が全部凝縮しているようなところがあります。GEFも、そういった島国関係のプロジェクトをたくさん持っています。自分たちが支援しているプロジェクトに効果があるということ、あるいはもっと効果を得るためには何をしなくてはならないかということを実感できる機会ってそんなにないんです。

そして、どんなプロジェクトも最後は現場の人にどう使ってもらえるかが大切です。ローカルコミュニティの人々が、この支援を使って実際に農耕するところを変えましたとか、生産性が上がりましたとかと聞くと、もっときちんとやっていこうと思わずにはいられません。

………

石井 菜穂子(いしい・なおこ) 1959年生まれ。1981年に大蔵省(現財務省)入省。キャリアの約半分を世銀や国際通貨基金(IMF)など財務省の外部で勤務。財務省副財務官を経て2012年8月から現職。著書に「政策協調の経済学」(サントリー学芸賞)など。博士(国際協力学)。

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