「マッサン」エリー役のシャーロットさん「日本はこれからもずっと私の人生の一部」

NHK連続テレビ小説「マッサン」でヒロインを演じるシャーロット・ケイト・フォックスさん(29)が11月5日、日本外国特派員協会で講演した。自身の成長を実感したというシャーロットさんは「日本はこれからもずっと私の人生の一部」と語った。
Taichiro Yoshino

NHK連続テレビ小説「マッサン」でヒロインを演じるシャーロット・ケイト・フォックスさん(29)が11月5日、東京の日本外国特派員協会で講演した。アメリカから来日し、異郷で日本語で演じ続けることを通じて自身の成長を実感したというシャーロットさんは「日本はこれからもずっと私の人生の一部」と語った。

制作統括のチーフ・プロデューサー、櫻井賢さんも「無謀とも言える挑戦にシャーロットさんは果敢に挑んで、血の滲むような努力で自分のものにして、エリーを演じきってくれている」とたたえた。

1961年にNHK「朝の連続テレビ小説」が始まって以来、アメリカ人が主役を演じるのは初めて。祖母がスコットランド出身のシャーロットさんは、オーディションで500人以上の中から選ばれた。

主な講演内容と、質疑応答は以下の通り。

制作統括のチーフ・プロデューサー、櫻井賢さん(左)

■「朝ドラにも挑戦が必要だ」

桜井:日本のウイスキーの誕生を支えた波乱万丈の物語です。しかも夫婦は国際結婚。この企画を知ったときは、魅力を感じたけど、実現には相当ハードルが高いだろうと思いました。舞台地も広島、大阪、スコットランド、北海道…ロケ地を見つけるだけでも大変だし、ヒロインは外国人。当時のウイスキー製造過程をどう再現するなど、どう考えても朝ドラでは無理だろうと、そんな思いがありました。だめもとで2013年3月に上司に相談したら、意外にも「いいんじゃないか。実現しよう」と背中を押してくれました。最終的にNHKでゴーサインを頂いたときもその上司は「伝統ある朝ドラだけど、朝ドラにも挑戦が必要だ」と言ってくれた。挑戦の塊のようなドラマです。

放送がようやく1カ月過ぎて、ここに至るまで本当に過酷な撮影でした。毎週15分を6回、合計150回、すべて日本語で演じるという無謀とも言える挑戦にシャーロットさんは果敢に挑んで、血の滲むような努力で自分のものにしてエリーを演じきってくれています。私たちも驚いていて、ものすごい反響が私たちのもとに届いています。

彼女が選ばれたオーディションも朝ドラの一つの伝統。たくさんの候補者の中から選ばれた原石のような若い才能を迎えて10カ月の撮影で、ヒロイン自身が成長することと、ヒロインの成長がシンクロしていくことが朝ドラの醍醐味であり魅力。同じことがもっとすごい形で今行われているのがこのドラマ。シャーロットさんが1年に及ぶ滞在で日本語を覚え、日本のことを知って、故郷の家族と離れて奮闘している姿と、物語のエリーの人生が重なっていくことが物語の大きな魅力となっていくことを確信しているし、実感しています。

まだまだ撮影は続いていますが、このドラマが実現できていることは大変な幸運がありました。私たちはとてもツキに恵まれている。運なしではここにはいたらなかった。その中でもシャーロットさんに出会えたことが宝くじの1等当選に近いラッキーだと私たちは実感して、このドラマの力になっています。ドラマに関わっていただく方々、巻き込むスタッフやキャストにとって、その作品に参加したことが一人一人にとって次の何らかのステップや未来を見つけられる仕事としてやり遂げなければいけないと肝に命じています。まだ途上ですが、このドラマがシャーロットさんにとって大きな未来を切り開くきっかけになってくれることを祈っています。

■「信じられない、でもこれは現実なんだ」

シャーロット:両親がこの光景を見たらとても誇らしく思うでしょう。今日ここまでタクシーで来て、皇居が見えたときに、今までの道のりが思い浮かびました。信じられない、でもこれは現実なんだと。今まで数々の著名な方々が講演しており、今日この場に立てることをとてもとても光栄に思います。お越し下さって本当にありがとうございます。

オーディションの知らせを見たのは1年以上前でした。女性の一生を20代から50代にわたって描くドラマを、日本で撮るという企画に「すごいわ、やってみよう」と思いました。俳優として、特にアメリカでは、ウェイトレスをしたり、ベビーシッターをしたり、とにかくいろんな仕事をしながら舞台に立っていました。確かクリスマスの2日前に「カメラテストのために日本に来てほしい」とメールが来ました。最初は何かの冗談ではないかと思いましたが、両親が寝ているベッドの上に飛び上がって「私、日本に行くわ」と言いました。10日後、私は初めて日本に飛びました。そして恐怖におののきました。今は私はスタジオでの撮影も慣れましたが、まったく日本語が話せなくて、1人でスタジオに入っていくと、今では見慣れた顔が並んでいて、プロデューサーの桜井さんが笑っていました。「誰この人?」と思いました。オーディションでは、言葉をすべて忘れて、とにかく「カット」と言われるまで英語で演じ続けました。

今はずっと、私の人生で最も大変な経験です。毎日毎日、特に最初の頃は、すべてがとにかく過酷でした。最初の頃は朝起きたらすべての言葉を忘れていて、でも喋らなければいけないので、急いで音だけ覚えようとしたこともありました。でも今は、言葉も以前より分かるようになりました。日本語をもっと勉強して、いつか流暢に日本語を話せるようになりたい。そして私はより強い女優、より強い女性、より強い社会人になりました。日本は私にすべてをくれた。私は何てラッキーなんだろうと思います。

桜井さんは私をとても信頼してくれました。私は今、とても驚いています。こんな大変な環境で、こんなすばらしい芸術が出来るなんて本当に信じられない。毎日、モニターを見ていて、これがどうやってドラマになるのとか、このシーンでどうやってお互いを理解するんだろうとか思っているけど、できあがっている。

数日前、NHK大阪に5000人以上の人が、私が喋るのを聞きに来てくれました。ステージに立つと大勢の人が手を振ってくれて、このドラマがこんなに楽しんでもらっていることに圧倒されるようでした。「朝ドラ」の凄さが分かりました。(日本語で)「これからも、本当、頑張ります。ありがとうございます」

【質疑応答】

Q 私の名前もエリーです。日本に来て最も驚いたことは? もしアメリカに帰って、日米関係やアメリカ人に日本文化を教えるというようなことをするつもりはありますか?

シャーロット:よく聞かれますが、まだ7カ月なので思い出せないです。礼儀正しさ、名刺の交換、おじぎ、これらは私にとって新鮮でした。しかし今はそれが日常になっています。細かいことで驚いたのは、東京の女性の服装ですね。とてもきれいに着こなしていて、とても高いヒールの靴で自転車に乗っている。どうすればできるのかしら(笑)。

アメリカに帰ったあとのことは今、何も考えていませんが、何が起こるか分からないけど、日本はこれからも常に、私の人生の一部になるでしょう。ここで学び、すべてを与えてくれた所ですから。

Q エリーはとてもユニークで特別な立場。時代は違いますが、彼女の人生から何か学べるとしたら、何でしょう?

シャーロット:エリーはとても我慢強い。特に今週の放送は。私にとって、ドラマが伝えてくれることは、シンプルなこと。「決してあきらめるな」です。私は、この気持ちは今、悲しいかな、とても失われていると思います。誤解や価値観の違いやモラルの問題で簡単に離婚する。このドラマを見て、あきらめず、逃げ出さないこと、耐えること、愛し続けることに気づいてもらえたらと思います。

Q とても豪華なドラマだと感じるが、どれほどお金をかけているのか。また、公共放送なのにウイスキーの宣伝をしているという批判もあるが?

桜井:予算について明言は避けます。確かに今回はいつもより確実にお金がかかります。だから一度セットを建てたらそのセットを撮りきります。これは、より一層俳優に厳しい条件がつきつけられるということです。大阪の住吉酒造のセットは3週間ですべてのシーンを撮り切りました。広島は2回建てましたが、2回目は9月の3週間で第6週から第15週までのエピソードを撮りきりました。その間には10年以上の年月が経っていて、いろんなことがあった中で演じるという意味では俳優には負担がかかります。そういうことがシャーロットさんのより一層の負担になっている。そこを見事に乗り越えて頂いています。

ニッカもサントリーも美味しくいただいております。この2大企業がスポンサーになってくれればどれだけプロダクションが楽かとも思いますが(笑)、もう歴史だと思うんですね。今から80~90年前の時代、日本のものづくりのひとつのモチーフとしてウイスキーを選びました。

今、どこか時代に閉塞感があります。日本人が元気がない。未来に対して明るい兆しというか、どこか世の中が明るいものを見つけにくい。でも日本人は自動車やテクノロジーなど、時代を切り開いた時代があった。ウイスキーという背景で夫婦の物語を描くことを選びました。結果として日本のウイスキーが世界中で売れてくれると嬉しいですけど。

Q 今、「女性が活躍する社会」の実現が言われているが、そういったことを意識したのか。また、視聴者からの反応を何か反映させたことがあったのか。

桜井:それはなかったかもしれない。この企画を育てる中で発見したことですが、明治や大正の時代背景を背負った時に、実はエリーの目線は現代人の私たちの目線。亭主関白で、多分もっと強烈な時代だったでしょう。その時代にエリーが違うと思うことは今の僕たちが違うと思うし、また彼女が素敵だと見つけるものに、古き良き日本の良さがあると、改めて光をあてることができるのが、このドラマの一つの仕掛けではないかと、(作・脚本の)羽原大介さんと話してきました。

朝ドラは視聴者にビビッドに反応するほど融通がきかないのですが、収録の中でシャーロットさんから確実に学ぶことがあります。それぞれの場面で、外国人のメンタリティーのエリーならどうするんだろう、どう怒るんだろう。いろいろ考えてやってきたけど、シャーロットさんには違和感があったこともあると思います。その中でよりのびのびするシチュエーションを台本に反映させてきた、ということは確かにありました。

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