イスラム国と戦うキリスト教徒の欧米人 「義勇兵」に参加、「イラクに骨を埋める覚悟もある」

[ドホーク(イラク) 15日 ロイター] - イラクとシリアには過去2年、海外から数千人に上る「戦闘員」が流れ込んだ。その多くは過激派組織「イスラム国」に参加するためだが、一方で、キリスト教の「義勇兵」として両国に入る欧米人も少なからずいる。 彼らは、自国政府がイスラム国との戦闘に及び腰であることに不満を募らせ、無実の市民が苦しめられていることに義憤を感じている。最近イラクに戻った元米陸軍兵士
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イラクとシリアには過去2年、海外から数千人に上る「戦闘員」が流れ込んだ。その多くは過激派組織「イスラム国」に参加するためだが、一方で、キリスト教の「義勇兵」として両国に入る欧米人も少なからずいる。

彼らは、自国政府がイスラム国との戦闘に及び腰であることに不満を募らせ、無実の市民が苦しめられていることに義憤を感じている。最近イラクに戻った元米陸軍兵士ブレットさん(28)もその1人だ。

背中に「大天使聖ミカエル」のタトゥーを入れたブレットさんは、2006年に駐留米軍の一員としてイラクに派遣されていた。

当時大切にしていたポケットサイズの聖書は今も肌身離さずに持っているが、約10年前の状況に比べると「全然違う。今は人のため、信仰のために戦っている。そして敵ははるかに大きく残忍だ」と語った。

欧米からの義勇兵が参加するのは、イラク北部ニナワ州で編成された民兵組織「Dwekh Nawsha」。同組織の名前は、アッシリア人キリスト教徒が今も使う古代アラム語で自己犠牲を意味する。

ニナワ州の州都は、昨年6月にイスラム国が制圧したイラク第2の都市モスル。Dwekh Nawshaと関係のあるアッシリア系政治団体の事務所の壁には、モスルの周囲に扇状に広がるキリスト教徒居住区が印されている。

その多くは現在、イスラム国の支配下にある。そこではキリスト教徒に人頭税が課され、イスラム教への改宗を拒否すれば処刑が待っている。多くの住民は家を捨て逃れた。

Dwekh Nawshaはニナワ州のキリスト教徒居住区を保護するため、クルド自治政府の治安部隊「ペシュメルガ」と共同戦線を張っている。

前出の元米陸軍兵士ブレットさんは「ニナワ州で教会が鐘を鳴らせる町は少ししかない。他のすべての町で鐘の音はやんでいる。それは許しがたい」と語った。

他の外国人志願兵と同様、ブレットさんも家族に危害が及ぶのを心配して姓を明かさずに行動している。

<残虐行為をやめさせる>

志願兵の1人、英国出身のティムさん(38)は、昨年に建設会社を閉業し、家を売った資金でイラク行きの航空券2枚を購入した。1枚は自分のため、もう1枚はインターネット上で知り合った米国人ソフトウエアエンジニアのためだった。

ドバイ空港で落ち合った2人は、クルド人自治区東部のスレイマニヤに飛び、そこからタクシーを使って先週ドホークに入った。

「変化をもたらすため、願わくば残虐行為をやめさせるために来た。自分はイングランド出身のごく普通の男だ」とティムさんは語る。

米国人ソフトウエアエンジニアのスコットさん(44)は、1990年代に米陸軍に所属していたが、最近はノースカロライナ州でコンピューター画面をにらむ生活を送っていたという。

スコットさんは、イスラム国の戦闘員がイラクで少数派ヤジディ教徒を迫害する映像に衝撃を受け、イスラム国が侵攻したシリア北部のクルド人都市コバニ(アインアルアラブ)の苦境も頭から離れなくなったと話す。コバニでは最近、米軍による空爆の支援を受けたクルド人民兵組織「人民防衛隊(YPG)」が、イスラム国を撃退した。

当初スコットさんは、外国人志願兵を集めていたYPGへの参加を考えていたが、YPGと武装組織「クルド労働者党(PKK)」との関係に疑いが深まり、中東へ向かう4日前に方針を変えたという。

スコットさんら外国人志願兵が懸念するのは、欧米政府がテロ組織と認定するPKKと関係すれば、帰国がかなわなくなるかもしれないこと。また、PKKの左翼的思想に対する嫌悪感も隠さない。

Dwekh Nawshaで唯一の外国人女性は、YPGでの女性の役割には感銘を受けたものの、キリスト教民兵組織の「伝統的な」価値観の方がより身近に感じたと説明。イスラム過激派は多くの対立の根源になっており、封じ込めなくてはならないと力を込める。

ロイターの取材に応じた外国人志願兵たちは、イラクに骨を埋める覚悟もあると口をそろえる。

自身の命が犠牲になる可能性について聞いてみると、ブレットさんはこう答えた。

「誰もが必ず死ぬ。自分が一番好きな聖書の一節にはこう書かれている。死に至るまで忠実なれ、さらば生命の冠を与えん」

[ドホーク(イラク) 15日 ロイター]

(原文:Isabel Coles、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)

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