PRESENTED BY 日清食品

日清食品の「出前一丁」がチャーハンに。そこには運命的な出会いがあった

2月2日に発売された「出前一丁 出前坊やのまかないチャーハン」。なぜ、麺メーカーである日清食品から米料理の「チャーハン」が開発されたのだろうか?

チャーハン。それは中国から伝えられ、明治から大正時代にかけて中華料理店の普及とともに日本全土に広がったという。この米料理は、いつしか家庭でも愛される定番メニューとなった。残ったご飯が、ごま油と卵、醤油などの味付けによって全く異なる変化をとげる様を、誰もが一度は目の当たりにしたことがあるだろう。

しかし、近年は電子レンジで温めて食べる冷凍タイプも増えてきた。この流れは、残ったご飯を美味しく食べるためにアレンジするだけでなく、単純にチャーハンの味が支持されているからとも言える。

2月2日、日清のごはんシリーズから新商品「出前一丁 出前坊やのまかないチャーハン」が発売された。日清といえば「出前一丁」はもちろん「カップヌードル」など、世界規模で麺を展開する企業である。なぜ、米料理の代表格であるチャーハンを麺メーカーが開発することになったのだろうか?

社内は競合他社だらけ

日清食品ホールディングスは、「ブランドカンパニー制度」を採用している。これは、各ブランドをひとつの会社のように分断し、互いに競争しあう構造をもたらす。各ブランドにおける「ブランドマネージャー」は「社長」のような位置づけだという。食品を主に取り扱う「日清食品」の中には、たくさんの「会社」が混在しているのだ。それも同業の。

左:上原秀介さん、三宅隆介さん

「出前一丁 出前坊やのまかないチャーハン」は、「出前一丁」と「ごはん」のブランドタッグによって誕生した。いわば2社の合同開発と言っても良い。そこで今回は、日清食品ホールディングスのマーケティング部第3グループ(出前一丁チーム)ブランドマネージャー・三宅隆介さんと、第6グループ(ごはんチーム)ブランドマネージャー・上原秀介さんに話を伺った。

「出前一丁」ブランドには、ある家族の物語があった

――どうして今回日清食品から「チャーハン」が誕生したのでしょうか?

三宅隆介さん(以下三宅):実は、2月12日は出前一丁が初めて発売された、ブランドの誕生日なんです。ごはんチームの方から「誕生日に何かアニバーサリー企画をやるの?」と聞かれたのですが、まだ決定はしておらず、僕たちも模索中だったんです。その旨を伝えたところ「ごはんチームとタッグを組んで新しい商品を出さないか」と提案を受けたのが、きっかけですね。

――ブランド同士の取り組みということは、衝突も起きそうですね。社内といえども競合ではあると思うので。

三宅:お互いねらいの相違があって…と言いたいところですが、ぶつかり合いはありませんでした(笑)。とてもスムーズに開発できたと思います。

上原秀介さん(以下上原):それぞれのブランドが「他社に取られるくらいなら、自社内で奪い合え」という気概でやっているので、それぞれの主張は譲れないところは少なからず生じると思います。けれども、すんなり話が進みましたね。

僕たちのチームには「ごはんシリーズをもっと盛り上げたい」という思いがあります。今回の提案では、「出前一丁」のブランドさえ貸してもらえれば絶対にいいものが作れる自信があったし、ブランドの誕生日を盛り上げられると思ったんです。Win-Winの関係が上手く築けたのが良かったと思います。

三宅:出前一丁には、弊社の他のブランドと違って綿密なストーリー設定があります。パッケージのモチーフにもなっている「出前坊や」がいて、彼の家族が営む「出前屋」という店があって……。出前一丁ブランドで出す商品は、この世界観を踏襲したものでなければ意味がありません。

ごはんチームから打診があった際に“まかない”というキーワードを聞いて、出前屋のストーリーにピッタリとはまっていると思ったんです。「肝っ玉母さんが、お腹を空かせた出前坊やのために作るまかないチャーハン」って、すごくイメージが膨らみますよね。そこには、母親が子どものために作る愛情がたっぷりと入っているんです。

上原:愛情はもちろんのこと、“まかない”という言葉には「プロが食べる食事」という意味もあります。従業員が食べる食事だからこそ、より高いクオリティを求められる。“まかない”という言葉を使うからには、「出前屋の表メニューよりも高いクオリティを」と意識して開発に力を入れていました。

「ごはんシリーズ」では、「カップヌードルごはん」などを手がけてきました。今までは、味付けにフライ麺を粉にしたものをいれるなど、既存製品の味に近づけたものが多かったのですが、今回は全く別物。オリジナルな「出前家のチャーハン」の味を追求しました。

――チャーハン自体のクオリティをあげた…ということですね。ちなみに、味にはどういったこだわりがあるのでしょうか?

三宅:「出前一丁」の価値であり、オンリーワンの美味しさの核は、秘伝の「ごまラー油」です。この風味を再現することが、「出前一丁」という名前を使う上では不可欠になります。なので、ごまラー油の味がしっかり出ていて、なおかつちゃんと活きているかどうかは、試食の段階でかなり言及させてもらっていました。

上原:風味を損なわせないために、ごまラー油は最後にかける仕様にしています。昔、自分がラーメン屋でアルバイトをしていた経験をヒントにしました。そこではチャーハンを作るときに、ごま油を最後の仕上げに垂らしていたんです。この「ひと手間」で味が断然違ってくるんですよね。これだな、と(笑)。

ごはんシリーズの商品は基本的に水をいれて加熱するので、最初からごまラー油を含ませてしまうと風味が揮発してしまうんです。そこで、最後に垂らす「手間」を敢えて加えることにしました。チャーハン自体の味も美味しくなるし、何より発売当時から「ごまラー油を最後にいれる」ことをアイデンティティとしてきた「出前一丁」らしさも表現できると思いました。

食べる直前に別包装の「ごまラー油」をかける

三宅:開発前から絶対美味しくなると確信していましたね(笑)。出前屋というストーリーの中で“まかない”は必然性がある要素だし、ごまラー油とチャーハンの組み合わせも間違いないだろうなと。「出前一丁」ブランドが大事にしていることを十分に汲み取ってもらえたので、スムーズに開発が進んだのだと思います。

上原:「まかないチャーハン」という言葉を使いたいという出発点から、出前一丁の商品を作る……と考えたときに、ストーリーを踏襲するのは必然でしたね。物語があったおかげで商品のイメージもより明確になって、クオリティがぐっと高まったと感じています。

ロングセラーだからこそ越えなければいけない壁

――単に既存製品の「ごはん化」ではなく、新しい商品を生み出すのは、なかなかチャレンジングですよね。

三宅:ブランドマネージャーの最大の課題は「ブランドの価値を保ちつつ、上げていくこと」です。出前一丁は今年で47周年になるので、これまでにブランド価値向上のための施策ってありとあらゆることをやってきています。そのやり尽くされた中で「もう一声」のアイデアを生み出すには、本当に頭を悩ませていますね。だからこそ、今回のような「新しい挑戦」も、積極的に仕掛けていかなければならないんです。

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長く愛されているブランドだからこそ、甘んじることなく常に“新しい挑戦”を追求し続ける「出前一丁」。そんな姿勢と想いが「ごはんチーム」とピッタリと重なってできたのが「出前坊やのまかないチャーハン」だ。そこには、学生時代のアルバイト経験が生かされ、また同時に出前屋というひとつの家族の物語があった。

米を主食とし、飲食店はもちろん家庭でもチャーハンを愛する日本。この場所で、自身のブランドを背負う2人のブランドマネージャーの思惑が偶然にも一致してこの商品が誕生したのは、運命でありまた必然なのだろう。

(取材・執筆:西山武志 撮影:梅津佑一朗)