日本が強める南シナ海への軍事関与、中国けん制の狙い

第2次世界大戦の敗戦による撤退から70年、日本が再び南シナ海への関与を強めようとしている。
Reuters

[東京 16日 ロイター] - 第2次世界大戦の敗戦による撤退から70年、日本が再び南シナ海への関与を強めようとしている。中国の軍事力が急速に拡大し、米国の影響力が相対的に低下する中、自衛隊が活動範囲を広げてこの海域の力の均衡が崩れるのを防ぐ狙いだ。

フィリピンやベトナムをはじめ、中国と領有権問題を抱える周辺諸国との共同訓練を本格化するほか、警戒監視能力の向上につながる防衛装備品を供与、いずれは自衛隊が哨戒活動をすることまで視野に入れている。

<訪問部隊地位協定も視野>

1月下旬、都内で開かれた中谷元防衛相とガズミン国防相の会談で、フィリピン側は日本に中古の「P3C」の供与を打診した。P3Cは「潜水艦キラー」と呼ばれる海上自衛隊の哨戒機。探知装置や高度な情報通信機能などを備え、海に囲まれた日本の安全保障の主力装備だ。

フィリピンは南沙、中沙諸島で領有権をめぐって中国と争っているものの、国内のイスラム過激派や共産勢力鎮圧を主任務にしてきた同国の軍隊は、海洋の防衛力が不足している。能力向上につながるあらゆるノウハウと装備を日本に求めている。

関係者によると、高い運用能力が必要なP3Cの供与は合意にいたらなかった。しかし、両大臣は防衛協力を強化することで一致し、覚書に署名した。災害時などに航空機から救援物資を投下する技術を自衛隊がフィリピン軍に教えることや、海上で他国艦船との突発的な衝突を回避する共同訓練を実施することなどを決めた。

中谷防衛相は会談後、「覚書を(締結)したことで、さらなる新しい段階に入った」と語った。

関係者によると、ほかにも日本とフィリピンの間では、共同訓練などで自衛隊が現地を訪れる際、手続きを簡略化する訪問部隊地位協定を結ぶことが議題に上っている。南沙諸島に近いパラワン島のフィリピン軍港の周辺を、日本が整備する案も浮上している。

親日のアキノ大統領の任期が終わる来年6月までに、できるかぎりフィリピンとの関係を強化しておきたいのが日本政府の考えだと、複数の関係者は話す。

フィリピン側は日本のこうした動きを歓迎している。同国国防省の広報官、レスティトゥト・パディヤ大佐は「日本とフィリピンが一緒に助け合って海域の海上交通路(シーレーン)を守るのは自然な流れ」と語る。

<南シナ海で防空識別圏の悪夢>

日本は尖閣諸島(中国名:釣魚島)をめぐって、東シナ海で中国と緊張状態にあるが、南シナ海では領有権問題の当事国ではない。にもかかわらず、東南アジア諸国への接近を図るのは、南シナ海が重要なシーレーンだからだ。

南シナ海は世界の漁獲量の1割を占める有数の漁場であるとともに、年間5兆ドル規模の貨物が行き交う貿易ルート上の要衝でもあり、その多くが日本に出入りしている。

一方、中国は南シナ海の暗礁を埋め立て、人工の島を建設しつつある。関係者の間では、いずれレーダー網が構築され、中国の艦船や軍用機が駐留し、実効力を伴なった防空識別圏(ADIZ)が設定されるとの懸念が広がっている。

「ADIZが設定されれば、壊滅的な事態になる。海と空での活動が著しく制限される」と、日本の政府関係者は指摘する。

<米の安保政策と歩調>

日本が東南アジア諸国への関与を強めようとする動きは、米国の安全保障政策の変化とも符合する。軍事費の削減と対テロ戦争疲れによる厭戦(えんせん)気分が広がる米国は、アジアに戦力を傾斜配分する方針を掲げているが、中東や東欧など他の地域も依然として問題が山積みで、中国の急速な軍備増強に対応し切れないのが実情だ。

そのため、米国は従来のように一国でにらみをきかせるのではなく、同盟国と負担を共有しようとしている。「明文化された覚書があるわけではないが、南シナ海では米国と日本、オーストラリアが一緒になって、東南アジア諸国の能力構築を支援する。これが3カ国の基本的な安全保障政策だ」と、日本の政府関係者は説明する。

米国はさらに一歩踏み込んで、自衛隊による南シナ海の哨戒活動も期待している。米海軍第7艦隊のロバート・トーマス司令官は今年1月、ロイターとのインタビューで「将来的に自衛隊が南シナ海で活動することは理にかなっている」と発言。この報道に対し、中谷防衛相は「南シナ海の情勢が、わが国の安全保障に与える影響が拡大・深化をする中で、我が国としてどのように対応すべきかは、今後の課題だ」と述べた。

<武器輸出の緩和と集団的自衛権>

日本はフィリピン以外にも、西沙、南沙諸島をめぐって中国と争うベトナムの治安機関に中古船6隻を供与することを決めている。ベトナムの潜水艦の運用を支援するため、潜水病治療の研修も行っている。

さらに日本の政府関係者が飛び回り、マレーシアやシンガポール、インドネシアなどと装備品の輸出や共同開発に向けて協議している。

昨年4月に武器の輸出規制を緩和したことで、日本は防衛装備品の供与を通じた他国との関係強化が可能になった。集団的自衛権の行使が可能になれば、これまでのように人道支援や災害救援だけでなく、軍事作戦を想定した共同訓練もできるようになる。

「日本が関与していく流れは、ますます強まりつつある」と、 シンガポールの東南アジア研究所の研究員、イアン・ストレイ氏は言う。「中国が懸念を示したとしても、日本が後戻りすることはないだろう」──。

(久保信博、ティム・ケリー、グレッグ・トロード、マニェル・モガト 編集:田巻一彦)

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