2015年03月24日 00時52分 JST | 更新 2015年03月25日 01時36分 JST

ゲーム会社からアパレルまで。「コラボ県」佐賀が生み出すプロジェクトに見る地方創生の新しいかたち

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東京・南青山。根津美術館にBlueNoteが軒を連ね、華やさと上品さを兼ね備えた街並みがある。そんな場所にFACTORY SAGAはある。光が優しく差し込むオフィスには、これまで手がけた数々の商品が並ぶ。

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そう、ここは佐賀県のPRオフィスなのだ。他の都道府県は、有楽町や銀座などにアンテナショップをおくスタイルが主流だろう。しかし、FACTORY SAGAには物販スペースがない。世界的に著名なイラストレーター、アンディー・ウォーホルが手がけたサロンThe Factoryが由来だというこのオフィス。ここでは何が生み出されているのだろう? プロジェクトリーダーを務める金子暖さんにお話を伺った。

さまざまな点を1つの線に繋ぐ場所

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金子暖さん

FACTORY SAGAは佐賀県と企業との「コラボレーション企画」を生み出す場として誕生した。物販をしないPRスペースとは一体どのような存在なのか。

「佐賀の特産品は、たとえば有田焼などのプロダクトは各企業でセールスプロモーションをしていますが、県として総体的な活動はほとんどありませんでした。もちろん佐賀県には、農産物や日本酒など素晴らしいものはたくさんあります。でも、有田焼を買って、日本酒を飲んで...という単品では『佐賀ってこういう県なんだ!』というイメージ向上や、『佐賀に行こう』という具体的なアクションに結びつけるのは難しい。そのため、FACTORY SAGAでは佐賀のイメージをまず知ってもらうためのプロジェクトを生み出しています」

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左上:佐賀県に拠点を置く竹下製菓×BEAMSの雑貨

左下:佐賀の特産食品×グラノーラ専門店GANORIのSAGAGRA(サガグラ)

右:佐賀ご当地サイダー×BEAMSのスワンサイダー(特別デザイン)

「豊かな大地である北海道の○○、古き良き歴史がある京都の○○、などストーリーがあると消費行動に結びつきやすいと思うんです。なので、僕たちはこういうストーリーを作ることをミッションにしています。個々の特産品がバラバラに点在しているところを1つの線に繋げられるような存在。それがFACTORY SAGAです」

FACTORY SAGAのプロモーションには2つのコンセプトがある。プッシュ型であることと、具体的な消費行動に結びつくイメージの構築だ。アンテナショップなどのように集客を「待つ」のではなく、人々の生活シーンの中へ積極的に情報発信し接点を作っていくのだ。それを実現するために採用したのが「コラボレーション」だった。企業・県・作り手が手を取り合って醸しだされる雰囲気が、県外の人の好奇心を刺激するという。

佐賀に「関係ない人」も一緒に楽しめることが大事

生活者との接点のある企業とのコラボレーションによって、佐賀の情報を埋め込んだコンテンツを提供する。これがFACTORY SAGAの役目だという。私たちの日常に溶けこむような形で、佐賀をプロモーションするというのだ。

今までコラボレーションをしてきた企業は、宝島社、BEAMS、スクウェア・エニックス、森永製菓など多岐にわたり、そのたびに話題を集めてきた。しかしステークホルダーが多いということは、佐賀独自の純度が薄くなること意味する。反発はなかったのだろうか?

「佐賀の人口は約83万人。1つの県の中でだけで盛り上がっていても、東京をはじめとした県外の方に佐賀の良さってなかなか伝わりません。限界がある、と言いましょうか。多分僕とかの世代が佐賀と聞いて思い浮かぶのは、有田焼か12年前にヒットした「はなわ」さんの『S・A・G・Aさが~』が代表的です。でもそれってすごく普通のことなんです。自分に関係ないことは興味がわかないのと同じで、どこかの地方だけで完結するような物事に関心を持つことは珍しい。一方、自分が好きなモノとコラボレーションした商品だと、途端に手に取りたくなります。僕たちは佐賀県、全国にいる生活者の方、そして生活者の人と接点を持つ企業やブランドという3つの架け橋でありたいと思っています」

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「FACTORY SAGAのミッションは佐賀県の良さをいろんな方に知ってもらい、県自体が活気づくことなので、広がりを持つことはとても大事だと思います。それに作り手の方も、自分が生み出したものを多くの人に知ってもらいたいという気持ちがあると思うんです。ただ、知らない人ばかりの県外にいきなり進出するのは敷居が高い。そのためか、外部の方たちとコラボレーションすることに対しての抵抗はほとんどありませんでした」

コラボレーションは今までにない地方創生のアウトプットだった

FACTORY SAGAのオフィス自体もコラボレーションによって誕生した。一緒に手がけたのはリノベーションで有名な「東京R不動産」を運営する「Open A」だ。もともと代表を務める馬場正尊さんが佐賀県出身ということもあって実現したものだが、実はその背景にはFACTORY SAGAが目指す地方創生のビジョンと重なる部分があったという。

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オフィスの中央には巨大なテーブルが。ここにさまざまな物産品を並べるとワクワクする何かが生まれるそうだ。

それは、リノベーションの意義である「今ある価値を最大限ブラッシュアップして新しい価値を創る」点だ。これは、コラボレーションによって新しい角度で佐賀県の魅力を発信する姿勢ととても似ている。取り壊した先にある新しさではなく、創意工夫によって既存のものに新たな命を吹き込むのだ。だからこそ、地元の方々からの支持も厚いのだろう。

「FACTORY SAGAは気軽に足を運んでもらえるようにしました。県内の方が東京出張の際にふらりと立ち寄って、自分が作っているものを紹介してくれるんですね。いただいたプロダクトを、僕たちは違う角度で紹介しようと考える。ここは、何か新しいことが生まれるのではないかと期待してもらっている気がします。ワクワクするような。南青山という立地を選んだのも、 "新しいカルチャーが生まれる"力がありそうな街だ、と思ったからなんです」

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左上:佐賀県×スクウェア・エニックスのロマンシング佐賀で生まれた限定有田焼

左下:FACTORY SAGAのコラボ商品のほか特産品も並ぶ

右:有楽町に展開したセレクトショップ「STAND SAGA」で販売されていたグッズ

しかし一方で、アンテナショップのようなわかりやすい手法ではなかったため、プロジェクトがローンチされるまで緻密なマーケティング調査を要した。結果、採用されたのがメインターゲットを30代の女性にすることだった。流行に敏感でSNS等の口コミも活発、それでいて自分のこだわりを持っている層だからだ。また、「形式」の定まっていないプロモーション方法は別の強みもあるという。

「コラボレーションは形がないのが一番いいことだと思っています。県内の課題やニーズを、マーケットに合わせていかようにも変えられる。伝えたいことがしっかりメッセージになるならば、商品というモノでもいいし、イベントでもいいんです。それに形がないからこそ、色んな角度の人やコンテンツを巻き込める。その化学反応がワクワクの源泉なのだと思います」

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「ロマンシング佐賀」 出発式の様子(3月21日)

たとえば、スクウェア・エニックスの「ロマンシング サガ」とタッグを組んだ「ロマンシング佐賀」は、もともと2014年に発売から25周年を迎えた「サガ」シリーズのアニバーサリー企画でもあった。六本木ヒルズ内に特設ラウンジを設け、限定有田焼やコラボフードが発売され大きな話題となった。今年はこの企画が、県内への誘客や販促支援に繋げる新しい目的で、佐賀に「凱旋」することになったのだ。3月21日より佐賀県内を走るJR唐津線と筑肥線(佐賀駅〜西唐津駅、西唐津駅〜伊万里駅)で「ロマンシング佐賀」のラッピング電車が走っている。東京の人も巻き込んで、地元にも繋がる。これこそまさにFACTORY SAGAのミッションであり、地方創生の理想型だろう。

「懐かしいから帰郷する」ではなく「面白そうだから行ってみたい」へ

今までにないアプローチ方法を展開するFACTORY SAGAは、これまでの地域振興事業とは一線を画する。おそらく地方産業のプロモーションというと郷愁に訴えかけるものがほとんどだろう。確かに過去を懐かしむ気持ちは、どこか温かみを帯び、拠り所として機能してくれるかもしれない。しかし同時にそれはある可能性を隠してしまうとも言える。

「僕は地域ブランディングを仕事としているのですが、1つ思うことがあるんです。それは懐かしさだけが魅力になってはいけないということ。郷愁はとても美しいですが、少し意地悪な言い方をすると、昔のまま変わらずに発展しないで欲しいとも言えるかもしれません。初恋の人みたいな感じで。そうすると、本当は各地域にたくさん面白いコンテンツがあるのに、衰退していってしまうことがある。でも、現在進行形で新しいものが生まれて、なおかつ自分の日常に関わりがあるものだったら純粋に興味がわきますよね」

では、現在と未来を見ているFACTORY SAGAは一体どこに向かうのだろうか? 金子さんからは意外な答えが返ってきた。

「ゆくゆくはFACTORY SAGAのような取り組みはなくなってもいいと思っています。僕たちのプロジェクトをきっかけに、自分たちでも外部の方々とコラボレーションできるんだと気づいて欲しいなと。地域の企業が、自らパートナーとなる企業を見つけ、地域の新たな魅力を作り出し/磨き上げ、新たな方々に魅力を届けることができれば、佐賀県全体がもっと活気づくと思うんです。たくさん情報発信すると、外部の人もきっと興味を持ってくれる。行ったことがない地方には、都会にはない魅力がいっぱいなんです。こうやって自然発生的に循環が生まれた時、僕たちの任務が成功したと言える気がします」

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