映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』監督、「子供たちの食品の安全を守りたい」

遺伝子組み換え作物(GMO)の実態に迫るドキュメンタリー映画「パパ、遺伝子組み換えってなぁに?」が25日から公開される。ジェレミー・セイファート監督に聞いた。
中野渉

子供が大好きなハンバーガーや街角で売られているアイスクリームなど、家族が毎日口にする食べ物は安全なのだろうか――。そんな疑問を持つ人が増える中、遺伝子組み換え作物(GMO)の実態に迫るアメリカのドキュメンタリー映画「パパ、遺伝子組み換えってなぁに?」が4月25日から渋谷アップリンクなど全国で公開される。

まず、GMOについて説明したい。GOMは、特定の除草剤では枯れなかったり、食べた害虫が死んだりするなど特定の機能を持つ遺伝子を組み込んだ作物のこと。世界の食糧需要をまかなうことを期待される一方で、長期間食べた場合の安全性に不安の声がある。コトバンクによると、日本では、厚生労働省と内閣府の食品安全委員会がジャガイモ、大豆、テンサイ、トウモロコシ、ナタネ、ワタ、アルファルフアパパイアの8作物283種類について食用の安全性を確認している。

さて、作品のあらすじはこうだ。3人の子を持つ父親で、環境活動家でもあるジェレミー・セイファート監督(38)は、種に興味のある長男の影響もあってGMOとそれを使った食品の現状に興味を持つ。アメリカでは表示が義務づけられていないため、遺伝子組み換え(GM)食品の存在はほぼ知られていない。

ジェレミーさんはこういった状況を疑問に思い、家族を連れてGMOの真実を知るため取材に出る。GMO市場を席巻するアメリカの総合化学巨大企業のモンサント本社や、ノルウェーにある種の保管庫「種子銀行」、フランスでGM食品の実験をした教授など、世界各国で体当たり取材を敢行。そして、食産業の実態を徐々に明らかにしていく。

ジェレミー・サイファートさんはこのたび来日し、ハフポスト日本版のインタビューに応じ、「子供たちの食品の安全を守りたい」と話した。

映画「パパ、遺伝子組み換えってなぁに?」のジェレミー・セイファート監督=東京都新宿区

――まず、この作品を作ったきっかけを教えて下さい。

インターネットで見つけた小さい記事がきっかけでした。2010年に大地震の被害を受けたハイチで、1万人の農民がデモをしていました。モンサント社が大地震から半年後に支援物資として送ったトウモロコシなどの作物の種を焼いて抗議していたのです。「命の種」を守るためでした。

巨大多国籍企業を相手にこんな行動を起こすのはどうしてなのかと、知りたくなりました。ハイチには2009年に行ったことがありましたが、貧困をテーマにした映画のカメラマンとして人々が満足に食べられない暮らしをしているのを目の当たりにしました。それなのに、なぜ種を燃やさないといけないのかとても疑問に思い、調べ始めました。

加えて、子供たちの「食の安全」の問題があります。化学薬品を扱う会社が作っている食べ物を子供たちに与えているということは、実は問題のあることではないかと思い始めました。それも大きな動機になりました。

――作品中、モンサント社は取材に応じてくれませんでした。想定の範囲内ですか。

いくらか期待はありました。モンサント社には毎日電話をしてお願いしたのですが……。一方の有機農家はみんな開放的で、作ったモノを見せてくれたり、試食させてくれたりしました。その対比がはっきりしていました。

一人の父親として、子供に食べさせる食品の安全について聞きたいだけなんだという立場だったんですが、ダメでした。他にも、GMO賛成派の教授や賛成派企業の壁は厚かったです。

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』

――アメリカで、GM食品を口にしないで暮らすのは大変ですよね。

外食をしなければ問題ないです。友人を持たなければ、クリスマスに招かれてオードブルなんかを食べる必要もない。そういう姿勢を貫けばGMOのない生活を送れます。

家では、100パーセントGMOでないと分かっているオーガニックフードを食べるようにしています。除草剤や農薬を使っていないものです。農薬はとても体に悪く、試験も十分にされていません。そういったものを避けるようにしています。

アメリカでスーパーなどに買い物に行くと、食べ物に「コンベンショナル」(慣行農業)と表示されていることがあります。つまり、「いままでやってきたことと同じ」という意味で、一瞬、「問題がない」と思えるのです。でも、化学薬品や人工肥料を使っており、GMOの可能性が高いということなんです。

――子供にGM食品を食べさせないとすると、ファミリーレストランやファストフードには連れて行けないですね。

まあ、そうですね。自分だけだといいんですが、あまり過剰にして家族を巻き添えにしないようにとは思っています。子供には、例えばハロウィンでキャンディーをもらってきてもいいと言いました。でも、「パパにそのキャンディーをくれたらおもちゃを買ってあげる」と言って交換して、食べさせないようにしました。

――日本人には、特に作品のどこを見てもらいたいですか。

映画そのものがメッセージです。私たち人類が地球をどう取り扱うのかが問われており、それは私たちの食と深く関わっています。私たちは、食というシステムを形作る大きな力を持っているということです。

――話は少し変わりますが、福島の原発事故への関心はありますか。

もちろんあります。GMOに対する関心と似ています。原発事故は、私たちに現実を突きつけました。テクノロジーがあまりに早く発展すると、私たちが予期していないこと、準備していないことが起こる可能性があるということです。すると人間はついて行けなくなります。そんな状態でテクノロジーを使うべきではないんです。それは、「恥」でもあります。

「自分たちは何でも分かっている、何も問題はない」「すべてを支配している」という態度を取るのはとても危険なことです。人は自然と対立するのではなく、自然の一部であるという考え方を持たないといけません。

…………

■日本はGM食品の輸入大国

作品を配給するアップリンクによると、日本はトウモロコシの世界最大の輸入国で、年間約1600万トンを輸入しており、その約9割がアメリカ産。アメリカで栽培される9割近くのトウモロコシが遺伝子組み換え品種という(2012年アメリカ農務省調べ)。主に加工食品の原料として使われ、表示のない状態で食卓にのぼっている。

日本ではGMOの食品表示が義務づけられているが、環太平洋連携協定(TPP)参入による表示義務の撤廃も懸念されている。

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