女性管理職を増やすよりも大切なことーー「育休世代のジレンマ」中野円佳さんに聞く、これからの働きかた

女性の活躍推進は、どうやって進められるべきなのか。大切にすべき視点は何か。女性活用ジャーナリスト・中野円佳さんに、これからの働きかたについて聞いた。

安倍政権が「2020年までに女性の管理職を30%にする」という目標を掲げてから、女性の活躍推進は大きな関心事となった。一方、働く女性の6割が第1子出産を機に、離職しているのが現状だ。

女性の活躍推進は、どうやって進められるべきなのか。大切にすべき視点は何か。「育休世代」の本音やジレンマを紹介した前編に続き、女性活用ジャーナリスト・中野円佳(なかの・まどか)さんに、これからの働きかたについて聞いた。

■「育休世代」の女性の働きかたとは?

中野さんは1月に行われた規制改革会議に出席、政府に提言を行った。「育休世代」の女性たちの現状を説明した上で、「誰かのケアをしながら働く人が、労働者として2級扱いされる状況が続く限り、会社に人生を捧げる人と、ケアする人たちに二極化する」として、労働時間の上限規制や、評価制度の見直しを提案した。

まず以下に、中野さんが「育休世代」を説明した議事録の一部を紹介する。

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2000年代に就職した世代というのが、今日は具体的な数字を持ってきていないのですが、総合職の女性で企業の採用がようやく本格的に増えてきたのが、この年代です。企業によっては、2割、3割、もっと......というふうに総合職を採用してきたわけですが、その人たちが、今、出産ラッシュとまでは言わないかもしれませんが、出産に踏み切り始めています。

それまでの総合職は、24時間365日対応できるとか、出張や転勤をしながら、定年まで勤めるといった枠組みの中で働く男性が中心だったわけですが、そうではない人たちというのが、一定割合で発生しているというのが今の状況だと思います。

女性総合職自体は、これまでもいたと思いますが、お子さんがいらっしゃらない方だとか、子育てをかなり外注というか、いろいろな方法を駆使して何とかやってこられた方というのが、今、上の方に残っていると思うのですが、そうでない人たち、ある程度、子育てもやりながら働き続ける人が出てくる世代というのが、今の状況です。

■やる気のあった女性ほど、会社を辞める

私の書いた本の中で、サブタイトルが実は「女性活用はなぜ失敗するのか」というネガティブなタイトルになっているのですけれども、この世代がどういう状況になっているかというのを端的に言うと、「入社したときは男性と同等以上に、やる気満々で仕事をしていこうというふうに見えた女性ほど、出産後に結局辞めている」というのが、一つの現象として見られています。

これは何で起こるかと言うと、ある意味、ちょっと当然起こってしまう構造になっていて、教育段階でも就職活動でも、男女平等に競争してきたような人たちで、就職活動でワーク・ライフ・バランスとか働きやすさということは余り関係ないというか、度外視して、むしろハードなやりがいのある仕事を志向してしまう。

そういう人たちは、大体、非常に志向がマッチョと言いますか、専業主夫になってくれるような夫を選ぶことはせず、むしろ自分と同じか、それ以上にハードな夫と結婚していきます。ただ、自立意識みたいなものがあるのか、子育てもしっかりやりたいという意識も根強く、こういう状態になると自分も非常にハードな仕事をしていて、夫もハードな仕事をしていて、でも子育てしたいと言うと、当然というのもあれなのですけれども、両方100パーセントやりたいというのが成り立たなくなり、いっそどちらかを切り捨ててしまうような人たちがいることが、実際に調査の中で明らかになってきました。

■意欲を冷却した人が、ぶら下がりになる

では、どういう人が残っていくかと言うと、どこかの段階でそういった上昇意欲、主に仕事に対する意欲ですけれども、調整したり冷却したりできた人が残っていくと私は分析しています。

自分が男だったら、この仕事を是非したいけれども、子供のことを考えたら働きやすさの方を優先して、やりがいは6割ぐらいで良いです、みたいな形で仕事を選ぶ人だとか、子供を実際に産んだ後に、管理職とかに別に興味もないので、時短勤務でいつまでもやろうと思いますというような人たちが残りやすいと思っています。

これは、昨今いろいろなところでぶら下がりとかお荷物とか批判をされていると思うのですけれども、決して元から彼女たちがすごく意欲が低いというわけではなくて、意欲を調整しないと悔しくてやっていられないみたいな、競争条件がそろっていないところで競争させられることの弊害と私は思っています。

そうすると、非常に単純化して言えば、上昇志向の高い人は、そういうティピカルなオールドカンパニーからは出ていって、ある程度低く調整して「私はこのぐらいで良いです」というふうに抑えられた人の方が企業に残りやすい。

そういう企業の中では、そもそも女性の人数は増えていきませんし、管理職にガンガンなっていこうという人たちも増えません。女性に対する偏見も消えないですし、夫婦の関係としても、女性は例えば時短勤務を取り続けていて、給料ががくっと減っていますという中で、夫が120パーセント稼いでくれて、妻は補助的に働いた方が合理的というふうになって、イクメン化も進まないというか、妻が結局、家事・育児をやるという構造も変わらない。

会社の中では、いわばバリバリ子供を生まずにやっている女性と、ぶら下がり社員みたいな人たちが対立していくような状況も起こっていて、こうして女性活用がうまくいきませんというのが本で伝えていることです。

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この規制改革会議での発言をふまえて、提案の意図や、これからの働きかたについて、中野さんに話を聞いた。

■「ケア責任」のある人が不利にならない社会

——規制改革会議の議事録を読みました。「育休世代」の話について、会議に参加された方の反応はいかがでしたか?

大学院の研究の場など、他のところで話をしたときは、もっといろんな突っ込みがあるので、規制改革会議は意外とみなさん理解してくださったなという感じはありました(笑)。

——育休世代の話をふまえて、「ケアをしながら働く人の基準に合わせた働きかた」を提案されていました。

子育てや介護など「ケア責任のある人を30%にする」という目標は、本を読んだ人にとっても目から鱗だったみたいで、引用される場所ナンバーワンになっています。

ただ、理念としてはいいんですが、実際にこれを数値目標にするのは難しいと思っています。「ケアする人」という定義が難しくて、ケアの責任をどこまで負っているのか、外部サービスに発注している場合はどうなるのか、など数値にするのは現実的ではないんですね。

この話でいいたかったのは、「このままじゃ、ケアする人ゼロの社会になっちゃうんじゃないか」という、今の目標に対する警告です。

実際にケアする人を(管理職に)引き上げるポジティブ・アクションは、難しいかもしれません。でも、そういうことじゃなくて、ケアする人が不利にならない競争のルール、たとえば定時で帰っても、それが評価上の問題にならないような社会にしていくことが大切なのだと思います。

——ケアする人やサポートする人を評価する方法について、どう考えますか?

私は、早く帰ることによって実際に仕事の量が減っているのなら、多少月の給料やボーナスが減ってもいいと思います。むしろ、減ったほうが公平なんじゃないかと思います。

ただ、それによって、本人が将来的な可能性まで摘まれたように感じるとか、上司も含めて「あの人は競争から降りたのね」と思ってしまうのは問題です。人の能力の無駄遣いでもありますし、今後ケアする人の割合を引き上げていくうえで、大きな課題になります。制約があっても、ちゃんと能力がある人を上げていく評価制度があること。その辺が大事なのかなと思います。

■パフォーマンスやポテンシャルを評価する

——「早く帰る場合、多少給料やボーナスを減らす」という考えかたについて、もう少し詳しく教えてください。

今の大半の日本企業は、チームでやっている仕事で、育休でひとり抜けようが誰かが病気で休もうが、その分を他のメンバーがやっても、全く報酬に返ってこないことが多いと思います。残業代は多少増減するかもしれないですけど、仕組みとして、周りが報われない感じになっていますよね。

早く帰る方が、申し訳なさを感じちゃう状況になっています。理想論をいえば、そこはもう少し、お金で解決できる部分なのかなと思うんです。

——周りが報われる仕組み、大切ですね。

これは明らかにパフォーマンスに差が生じている場合の話で、早く帰ってもパフォーマンスが変わらない人もいるでしょうし、時間が80%になった分、量が80%になっただけで、仕事の質レベルは変わらない人もいますよね。長期的に、そういう人たちが展望を描けるような処遇にしていかなくてはいけません。

仮に、労働時間が80%になったことで、パフォーマンスが100から80になったなら、ボーナスが80%になっても、その人のポテンシャルは変わらない。「時間で割れば能力が下がっていない」ということを、ちゃんと伝えられる仕組みや、上司の姿勢のようなものがあれば、心の持ちようは大分変わると思います。

■ポテンシャルを引き出すために、できること

——評価する仕組みも、見直しが必要ですね。

そうですね。評価制度を変えるのは難しいですし、生産性をどう計るのかとった課題もあるのですが、もう少しソフト面でできることがあると思います。

たとえば、上司だったり長期的に見守ってくれる人がいたりして、「あなたのポテンシャルをちゃんとわかっているよ」と伝えるだけでも違います。妊娠・出産前の仕事ぶりを知る人が、「君は今こうだけど、それはこういう事情によるもので、本来はこれくらいのことができる人だと知っている。これからもこれをやってもらおうと思ってる」と声がけをすることはできますよね。

——なるほど。

あとは、仕組みです。例えば、研修とか留学制度でも、幹部候補生向け研修に参加させる人のリストから、子供のいる女性を外していませんか? と。仮に選ばれなかったとしても、「ちゃんと君も候補に入っているよ」と伝えることは大事ですよね。

私も、子育てを理由に、同期が目指せる海外留学の枠から外れているとわかったとしたら、取り残されているというか、「自分はこの会社にいても処遇されないんだ......」と感じると思うので。ちゃんとオポテュニティ(機会)があるといいなと思います。会社にロールモデル的な人がいれば、なおいいと思います。

■女性管理職を増やすよりも大切なこと

——規制改革会議の質疑応答を拝見すると、参加された男性からは、「Yahoo!のマリッサ・メイヤーは、ほとんどの時間を仕事に費やしたから、CEOになれたんだ」みたいな意見もありました。

「長時間働かないと、管理職は務まらない」というのは、必ずしもそうじゃないだろうとは思いました。

会議では、ラインの管理職じゃなくても、専門職的として上がっていければいいんじゃないかという意見もありました。「それはそうですね、ひとつですね」と発言しましたが、今もひとつの方法だなとは思っています。

ただ大切なのは「何のためにやるのか」という話で、女性の(管理職)比率を上げたいなら、それでもいいんですが、私のイメージでは「いろんな意思決定の場に、ちゃんとケアする人が入っている」ことが重要だと思っているんです。

——ケアする人を、意思決定の場に。

会社の取締役会でも部長会議でもそうですが、経営判断をするときや、マーケティングの戦略を決めるときに、女性やケアする人がいたほうがいいと思っています。専門の部署でエキスパートが育っていけば、(女性管理職比率の)数字は達成できるかもしれないけど、企業にとっては多様な知見をもたらさないんじゃないかな、と思います。

経営学や人事経済学の先生に話を聞いたときに、ダイバーシティには、性別や人種などの属性と、経験とか価値観などの2種類に分かれるという話を聞きました。チームの生産性を高めるのは、属性ではなく経験などの多様性だそうです。

そのような観点でも、大切なのは、いろんな意思決定の場に、ちゃんとケアする人が入っていることだと思っています。

——意思決定の場に、女性やケアする人が参加する組織。柔軟な意思決定ができますね。ありがとうございました。

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中野さんは、5月16日(土)に東京・六本木で開かれるハフポスト日本版2周年イベント「未来のつくりかた--ダイバーシティの先へ」で、「子育てしやすい国へ——これからの働きかた」のテーマでパネルディスカッションをする。

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