川崎中1殺害事件は防げなかったのか 子供から「非行グループを抜けられない」と相談されたら?

少年による殺人や、虐待などの再発を防ぐには何が必要なのか。子供の世界の争いごと、役所の持つ問題点を解決するには? 専門家が語った。
時事通信社

川崎市で中学1年の上村遼太さん(当時13)が殺害された事件で、横浜地検は5月21日、殺人や傷害致死の罪で少年3人を起訴した。NHKニュースによると、今後、成人と同じ公開の法廷で裁判員裁判を受ける。

少年による殺人や、虐待、家庭内暴力などの再発を防ぐには何が必要なのか。政策シンクタンク「構想日本」の主催で4月下旬に開催されたフォーラムの様子を紹介しよう。

暴走族に脅される子供たち、そのとき大人は…

フォーラムに登壇した公益社団法人「日本駆け込み寺」代表の玄秀盛(げん・ひでもり)さんは、「自身のところに、上村くんのような少年たちが相談にやってくることがある」と紹介した。

「例えば、関東近郊から16歳の少年4人が相談にやってきたことがあった。2人は働いていて、1人は学生。もう1人は無職だった。

ある日、4人が地元でかっこ良く原付きバイクに乗っていたら、暴走族に入っている19歳の先輩が声をかけてきて『チームに入れ』と言う。暴走族に入ってもパシリで、先頭を走らされたり、後ろで警察の直前を走ったりしなくてはいけないので断った。すると、先輩は家まで押しかけてきて、『断るのならここに住めなくするぞ』と脅した。

4人はそれぞれ、親や就職先の大人に相談した。しかし、大人たちから返ってきたのは『付き合わなければいいのだ』という回答だけだった。付き合うのをやめればいいと簡単に言うが、子供の世界ではそれだけで終わらない。そのうち、私の本を読んだ1人が他の3人に提案して、私のところに相談に来た」。

玄秀盛さん

在日韓国人として生まれた玄さんは、中学卒業後、自転車修理工を皮切りに、すし職人、トラック運転手、葬儀屋、キャバレーの店長、会社経営などを経験。2000年に白血病の保菌者と判明してからは、それまでの人生を180度変え、家庭内暴力やひきこもり、金銭トラブルなどあらゆる相談を解決するための「駆け込み寺」を2002年5月、歌舞伎町に設置した。

相談は年中無休で無料。玄さん自身が、相談者のトラブル相手のところに乗り込むこともある。自著も10冊以上出版。そのうち数冊はマンガ化・ドラマ化するなど、駆け込み寺の存在を発信し続けてきた。13年間で相談を受けた人数は3万人に上る。

「相談に来た4人のうち2人は、『もう19歳の少年を殺してしまえばいい』とまで簡単に考えていた。もう1人は、『どっちでもいい』。残りの1人は『いやいや、別の方法があるだろう』と。その子が私の本を読んでいた。

4人には、『バイクに乗るのをやめる』、『いっそのこと、暴走族に入って19歳になって好きにバイクに乗れるまで我慢する」、『引っ越す』、『19歳の少年を殺す、ただしその後、責任を取ることも待っている』などの選択肢があることを、さらっと話した。その後、4人で相談してもどうしたら良いかわからないというので、とりあえず『1000円カットに行って坊主にしてこい』と言い、丸坊主にさせた。

坊主になった頭を見たら、地元の19歳の少年は理由を聞いてくるだろう。その時は少しストーリーを変えて、『歌舞伎町に遊びに行ったら玄さんという人に見つかり、説教された』と言って、私の本を見せればいい。地元でもバイクに乗ればいいと話した。

結局それで解決した。ただし、バイクの改造はやめ、普通に乗る。それが落とし所だった。

大人が真剣に、子供の相談にのることが大事だ。警察がどうの、法律がどうのと逃げてはダメだ。日本語が通じるなら相手に会えばいい。相手も最初からは“どつかない”」。

司会者からは「それは玄さんだからできるのであって、我々が暴走族などに乗り込んだら、ボコられるのがオチだ」と指摘すると、玄さんは「国会議員の間で、"第2の玄さん"のような仕組みをつくる動きもある」と紹介した。

玄さんのようにはなれない、しかし子供を救いたい

一方、NPO法人「シンクキッズ」代表幹事の後藤啓二さんは、「玄さんのような人は稀有(けう)な存在だ。玄さんに出会える子供は幸せだが、それはごく一部でしかない。虐待や暴力で子供たちを救うには、制度化という方法もある」と話す。

後藤さんは警察庁に勤務していた23年間でDVや子供虐待などの案件に関わり、ストーカー規制法や児童ポルノ禁止法の立案、制定に携わった。退官後は弁護士として活動するかたわらシンクキッズを立ち上げ、児童虐待防止法の改正を求める署名運動などに取り組んでいる。

後藤さんは現在の児童虐待防止法について、「学校・児童相談所・警察が子供の情報を共有したり、共同で家庭訪問を行ったりするような連携が、法律で義務付けられていない」と指摘する。

「虐待死などが起こると検証委員会がつくられる。その報告書には必ずと言っていいほど、『関連機関が連携するべき』ということが書かれている。

しかし、ここ2〜30年間、報告書に書かれているだけで実現はしなかった。役所の縦割り意識からか、自らの対応の不手際を他の機関にみられるのが嫌なのか、機関連携が行われず、必要な情報が関係機関で共有されていない。

例えば、『あの家では子供が泣いている、虐待の疑いがある』と近隣住民から警察に電話がかかってきたとき、警察は実際にその家に行くが、親から『夫婦げんかだ』と嘘を言われ、子供の体を調べずに帰り、子供が亡くなってからわかったということがあった。児童相談所の担当者と一緒に家庭訪問することもなかった。

上村くんの事件にしてみても、子供は悪くないのだ。あの頃の年齢の子供で、深夜徘徊して、不登校になって、非行グループに入るという子供は山のようにいる。社会はそのような子供たちを問題少年と捉えるが、子供は好きで深夜徘徊するわけではない。そこには、家庭や学校、地域などの問題があるからで、子供自身は全然悪くない。

家庭の問題では虐待、暴力があるかもしれないし、学校ではいじめや体罰があるかもしれない。地域の問題では、非行少年にいじめられているということがあるかもしれない。何かしらがある。

そのとき、例えば学校の体罰であったら、学校任せにするだけではなく警察も一緒に見守るとか、義務付けられていれば必ず動く。しかし、現在は義務付けられていないので、役所からすれば『義務でもないことを、なぜやるの?』となっている」。

後藤啓二さん

後藤さんは、現在ある社会資源をもっと有効に活用できるのではないかと考えている。実際に、高知県では関連機関の連携ができている事例を紹介した。高知県でも5年ほど前に虐待関連死があり、それをきっかけにして関連機関で情報共有などができるようになったという。

「これまでの役所の文化から考えれば、高知県が特異だと思う。公務員は、法に書いていないことは、やらない。

テレビなどでは子供の死がたびたび報道されるが、『大人ひとりひとりがもっと子供に目を向けることが必要だ』などともっともな事を言われても、実際にみんなが玄さんのようになれるかというと、難しい。

では自分は何ができるのかと考えたときに、法改正が必要だと署名などで政治家や自治体などに働きかけるなど、できることもあると思う」。

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