アジアの女性を取り巻く「ガラスの天井」はなくなるのか? 3カ国の編集主幹が語る、未来のつくりかた

ハフポスト韓国版の編集主幹のソン・ミナは、常識や社会規範にとらわれずに「クレイジーになりましょう(=Be crazy!)」とエールを送り、インド版の編集主幹のイシェタ・サルガオカーは「女性が自分の考えていることを声を大にして主張して」と呼びかけた。
Kenji Ando

アジアの女性たちは、どうしたら自らの活躍を阻む壁を壊し、生き生きと暮らせるようになのか──。ハフポスト韓国版の編集主幹のソン・ミナは、常識や社会規範にとらわれずに「クレイジーになりましょう(=Be crazy!)」とエールを送り、インド版の編集主幹のイシェタ・サルガオカーは「女性が自分の考えていることを声を大にして主張して」と呼びかけた。

2人は、ハフポスト日本版が5月16日に東京・六本木の泉ガーデンギャラリーで開いた開設2周年記念イベント「未来のつくりかた――ダイバーシティの先へ」に参加した。日本版の編集主幹の長野智子がモデレーターを務め、「アジアの女性、その生きかた」をテーマに活発な議論を展開した。アジア3カ国のハフポストの編集主幹の女性が一堂に会したのは初めて。

1時間以上にわたった議論では、3カ国での女性の社会進出を阻む原因として、社会通念や行動規範のほか、職場にある男女の差別意識が取り上げられた。解決策としては、女性が働きやすい社会にするための男性の働きかたの見直しや、男女平等の意識を育む家庭教育の重要性が唱えられた。

以下に、パネルディスカッションの様子をレポートする。

■日本、韓国、インドの編集主幹、それぞれのキャリア

長野:アジアの編集主幹がきょう、初めて全員揃いました。3人で「アジアの女性、その生きかた」というテーマで、各国の女性がどんな状況で現在、生きていて、どんな課題に直面しているのか、2人にうかがっていきたいと思います。まず自己紹介をお願いいたします。

ハフィントンポスト日本版編集主幹・長野智子

ソン:私は、韓国放送公社のKBSでニュースアナウンサーとしてのキャリアを始めました。KBSはNHKのようなものです。入社していろいろな番組をやりました。例えば、エンターテインメント番組のほか、夜9時のニュースキャスターを務めました。10年務め、私自身、いろいろなプレッシャーやストレスを感じました。1週間7日間、5年間ぶっとおしで働き続けました。そして、いろいろな限界が見えてきました。

そして、もっと挑戦したいと感じ、留学することを決めたのです。実際に「留学をする、仕事を辞める」と言った時に、自分の決断が正しいかどうか分かりませんでした。その時に、村上春樹の『遠い太鼓』という本を読んだんですね。ギリシャやイタリアを旅行したエッセイです。その後、彼は『ノルウェイの森』を執筆されましたが、私はその本『遠い太鼓』という本に非常に触発されました。

ハフィントンポスト韓国版の編集人、ソン・ミナ

人は時に間違ったことを言います。「女性は30歳を超えて結婚して、嫁に行かないといけない。子供を産むべきだ」といった声は時に間違っています。やはり自分から外に出て、時には挑戦しなければいけなときもあります。私たちはとどまっていることはできないのです。30歳を超えても、同じ環境にとどまれることはできない。そう思って、スペインに行くことに決めて、バルセロナ大学院で勉強しました。帰国してから、またKBSで少し働いたのですが、周りからはよく「人が変わったね」と言われました。エネルギッシュになったと。スペインで刺激を受けて、いろんなところが触発されたのだと思います。

長野さんも、テレビ局で働いていたとうかがっています。忙しく働くキャリアウーマンのみなさんは、時に休んでエネルギーを充電する期間が必要だと思います。私もスペインから戻って来て、よりたくさんのテレビ番組にも出演するようになりました。いろいろな本も書くようになり、出版した本がベストセラーになりました。そしてKBSを辞め、作家としての新しい人生を始めました。

そして、次の本では日本について書きました。その後、世界中を5年間旅して、7冊のエッセイと小説を書きました。2年前にまた韓国に戻って、素晴らしい仕事に恵まれました。ハフィントンポスト韓国版で働くという仕事です。そして、自分自身のソン・ミナ・カンパニーという会社も立ち上げました。今はCEOとして、ハフィントンポスト韓国版の編集主幹として、様々な顔を持っていろいろなプロジェクトに参加しています。

サルガオカー: 私が仕事を始めたのは21歳。若くしてキャリアがスタートしました。3年前にアメリカのコロンビア大学院でジャーナリズムの修士号をとりました。

ハフィントンポストインド版の編集主幹のイシェタ・サルガオカー

21歳で就職した会社はコンサルタンティング会社のベイン・アンド・カンパニーで、投資ファンドや製薬会社を担当しました。非常に素晴らしい仕事だったのですが、2年半務めて「もっとメディアに携わりたい」と思いました。私は書くことが非常に好きですし、また、民主主義にとっても重要な役割を果たすと感じたからです。

そして、コロンビア大学で学んだ後、アメリカで『チャーリー・ローズ・ショー』というインタビュー番組のディレクターをすることになりました。彼は世界でも最も重要なインタビュアーだと思っています。彼は、首相のインタビューにも携わっていました。日本の安倍首相にも彼はインタビューしたことがあります。私はその製作にかかわることができました。非常に興味深い仕事でした。他にもハリウッド俳優のケヴィン・スペイシーやアンジェリーナ・ジョリーなど、国際的に活躍する人たちの取材に関わることができました。

その後、2年経ってインドに戻りました。2014年12月からハフィントンポスト・インド版に勤めています。インド版は12月9日にスタートし、ちょうど6カ月経ったところです。

長野:この『チャーリー・ローズ・ショー』というのは本当に有名な素晴らしい番組です。この若さで、あの番組の製作現場で活躍していたのは、素晴らしいキャリアです。

ソン・ミナさんは、私とキャリアが重なるところがあります。フジテレビに入社し、バラエティ番組をやっていたのですが、報道番組がやりたくて仕事を辞めて、私の場合はニューヨークへ行き、向こうの大学院を出て、今報道をやっています。

■アジアの女性を取り巻く現実

長野:成功している2人ですが、それなりに大変な思いもされてきたとのことです。その辺りのお話をこれからうかがっていきたいと思います。

ディスカッションの前に、こんなデータを見て各国の女性を取り巻く現実を直視してみたいと思います。男女平等のデータです。出典は『世界経済フォーラム 国際男女格差レポート2014年』です。

これは男女間の平等差で、健康や教育、経済、政治参加の4分野の評価からランキングがつくられました。142カ国中、日本は104位、インドは114位、韓国は117位となっています。アジア各国は低いです。北欧がトップ上位に入っています。

次に、「女性が占める管理職の割合」をみてみましょう。ILO(国際労働機関)の調査によるもので、日本と韓国がこの中に入っています。管理職の中で女性がどれだけの割合を占めているかですが、日本は108カ国中96位で11.1%。韓国は97位で11.0%です。

ソン:このような統計を見ると、韓国では女性が生きていけない場所のように思えますね(笑)。こんなにランキングが低いなんて。大変残念ですが、もっといい状況の国がたくさんあって、確かにこのデータは現状を表していると思います。改善しないといけない点が多いことは事実ですね。

長野:ILOは、なぜこんなに日本と韓国が低いかについて「伝統的な男女の規範がある。それによって労働分野、とりわけ決定権において男女に強い役割分担がある国である」と分析しています。その結果、世界でも女性の管理職の割合が低くなっています。

もう1つ見てみたいと思います。「ガラスの天井」です。いわゆる女性が職場で働いていて、目に見えない天井があり、そこから上に昇進できないということです。これはエコノミストの統計です。OECDの加盟国中、統計のとれた28カ国のランキングですが、27位が日本、28位が韓国になりました。労働参加率、教育、給与、育児に対する費用、出産の権利といった評価を元にこのランキングがまとめられています。

長野:安倍政権は「女性の活用」をスローガンにして訴えていますが、こうしてみると、上位のフィンランド、ノルウェー、スウェーデン、ポーランド、北欧諸国に比べ、非常にアジア、特に日本と韓国にはガラスの天井があって遅れているなと感じます。「よくこんな国で、女をやっているな」と、女性の方はついつい思ってしまうところもありますね。

ガラスの天井ということで、私も言わせてもらいますと、私がフジテレビに入社したのが1980年代。この時は女性アナウンサーだけ契約(社員)でした。私は1985年に新入社員で入社したのですが、私が初めてアナウンサーの正社員採用の代となりました。それまで男性社員が正社員、女性アナウンサーは契約でした。

もちろん時代とともに、アナウンサーの事情も変わってきました。このパネルディスカッションをやるにあたって、今の若いアナウンサーに話を聞いたのですが、確かに今でも30歳女性アナ定年説というのはあるみたいです。やはりずっと活躍してきても、若い女子アナが入ってきたら、どうしても、それまで積み重ねたこと以外にキャリアチェンジをしないといけないとか、あるいは子供が出来てしまったら、女子アナウンサーや報道記者として第一線にはもう戻れない、といったガラスの天井が、今もあると彼女たちは言っています。

■アジアにおける「ガラスの天井」は?

長野:2人にも話を聞いてみたいと思います。ミナ、ご自身でガラスの天井を体験しましたか。

ソン:これは世界中、共通のことだと思います。アジアだけではないと思います。このデータではフランスは5位ですが、パリで暮らしていたときに、フランス人の女性の友人がいした。彼女は弁護士で、男性と同じ資格を持っていました。しかし、給料は男性より低いと言っていました。韓国も同じです。これは世界が抱える普遍的な問題だろうと思います。

韓国で、私も痛みを伴うつらい経験をしました。午後9時のニュースでアンカーをしていたときでした。あるとき、休暇をとって戻ってくると、パートナーが新しい人に変更されていました。休暇の間に、男性が変わっていたのです。新しい人は、信頼できる強力なジャーナリストだったので、素晴らしいパートナーに恵まれたと思いました。同時に、彼は初めてテレビにアンカーとして出るということでした。彼はレポーターでしたが、アンカー的な役割はしていなかった。

その時に特報が入って来たのです。速報は、私がわくわくすることなのです。オープニングの重要な政治や社会的なニュースというのは、だいたいアンカーが話します。「速報がきて、私はうまくやらなければ」と思いました。独自の原稿を書こうと、意気揚々でした。しかしながら、レシーバーでプロデューサーが言うのです。「これは男性にやってもらってくれ」と。1人の女性がそのメモを持って、スタジオに入って来て、私のパートナーに渡しました。彼が、ニュースアンカーとして出るのは初めてです。実際に、その速報は彼によって報じられました。

私にとっては、とても苦しい、心が痛む時でした。国連の重要な決議が出たとか、大きな戦争がイラクで起きたとかということではありません。野球の速報だったのです。日本のチームでもプレーしていた選手が重要なホームランを打ったという速報だったのです。私はその速報すらも読めないのかと。私はニュースアンカーを3年もやっていたんです。私は(自分のキャリアを)考え直すきっかけになりました。現実はこうなんだと。女性の直面しているのが、こういう現場なのだと。しかしながら、報道局というのは、まだ良い待遇なのです。(一般社会では)結婚して退職をするとか、出産をして退職をする存在として、女性は扱われていると思うのです。この現状は、不公平だと思います。

しかしながら、もっと深く考えてみると、これは社会的な暗黙のルールなのです。例えば、KBSのアナウンサーは女性の方が多いです。2008年に初めて女性ディレクターが誕生しました。女性は一生懸命仕事をします。テレビでもラジオでも長い歴史があり、2008年に女性ディレクターが誕生したので、まだ役員レベル(の女性)は誰もいない訳です。

今の仕組みでは、若い人をすくいあげて、より良い職場環境を整えてくれる人がいない。支援してくれる人がいない。ですから、確かにガラスの天井というものがあると思います。もしかしたら、日本の方が厳しいのかもしれませんが。

長野:速報の話ですが、その時は何歳でした?

ソン:31とか32だと思います。もしかしたら、今は変わっているのかもしれません。パリに住んでいた時のフランスの実情をお伝えすると、重要なニュースは男性のアンカーが報じます。サルコジ(前フランス大統領)のニュースなどです。

クロセジャーという56歳の女性のアンカーがいました。彼女は、最も重要なアンカーウーマンと言われています。編集長のマーセンクラーという人も、やはり女性のアンカーをずっとやっていました。女性が、50、60代でも活発に仕事をしています。

これは、私たちの国とはだいぶ実情が違います。ですから韓国で、そのような状況に直面してがっかりした訳です。いろいろな条件や状況が重なりあって、制約がかかっていると実感し、ディレクターに(辞める)話をしに行きました。

そのときの彼の顔は忘れられません。それでも私は辞めました。私にとっては、やはりもっと自分が何をやりたいかを考えることが重要だったからです。何をすれば幸せになれるのか。自分の能力を最大限生かせるところで働きたい、と思ったのです。ニュース番組を辞め、そしてKBSを辞めました。7年勤めた後、スペインに行きました。それによって、人生が大きく変わりました。

日本も同じだと思います。日本のテレビ(ニュース番組のアナウンサー)は、若くてきれいな女性ばかりですよね。その隣にいる年配の男性がニュースを読みます。もちろん、それだけではないと思いますが、能力を見てあげるべきだと思います。どういったキャリアがあって、どういった経験をこの人は積んでいるのかで、女性(の能力を)見るべきだと思います。単純に若さだけではないと思います。

長野:イシェタ、インドはどうですか?

サルガオカー:インドにも、やはりガラスの天井があると思います。非常に家父長制度が強いです。男性が常に上を行きます。ただ、テレビ番組については、女性が番組に出ています。女性自身が自分の番組を持っている人がいます。インドは3つの国営チャンネルがあるのですが、実際、午後8時、9時のニュースは女性がアンカーを務めています。最も有名なアンカーがバルカーダットさんです。NYでの「women in the world」というイベントに参加した方で、午後9時の放送枠を、5〜6年に渡って担当しています。45歳を超えていますが、自分自身の番組を持っています。非常に刺激を受けます。これは(女性が活躍できるのは)やはりメディアの世界だからです。

他の企業や他の業界に、それだけの女性はいません。特に、役員レベルでは、女性はいませんでした。最近、ムンバイ証券取引所が、「上場しているすべての会社は、女性の取締役を少なくとも1人は入れないといけない」という規制を設けました。もしも守らない場合は、罰金を払わないといけない。これが2015年から施行され、現在ほとんどすべての会社が遵守しております。

このように、ちゃんと少しずつステップは踏んでいます。しかし、働く女性は増えても、管理職になっていく女性は少ないのです。その間に「仕事か、家族か」の選択を迫られるからです。どこの国でも話されているトピックだと思います。これは非常に長い戦いだと思います。

自分自身はキャリアの中で、ガラスの天井を感じたことはありません。今のポジションではそれほど感じていません。私はマイノリティーだと思います。

長野:このガラスの天井がどこから来ているのか。日本の場合は、すでにできあがった男性社会に女性が入って、働く状況はあると思います。もう1つは、男性だけでなく、女性にも固定観念があると思います。「きちんと家庭を守って、家を守って、子供を育てる人が良い奥さんであり、いいお母さんである」とか。仕事を辞めて、海外赴任の夫について行き、毎日素晴らしい食事をつくると、「素晴らしい妻だ」と絶賛されたりします。

例えば、日本でベビーシッターに子供を預けて、「夫婦で食事に行ってきます」と言うと、「何考えているんだ」と言われることも多いと思います。私の友達で、アメリカで子育てをしている日本の人たちは「本当に子育てがラクだ」と言います。やはり日本の社会には、何となくみんなが共通して持っている固定観念があります。男性のみならず、女性自身もそれに縛られているのではないかという感覚があります。日本人の女性は、その狭間で、現代的な生きかたと仕事との両立で悩んでいると思います。

ソン:韓国という国も、儒教が慕われています。女性も、自分自身に制約を加えてしまっているのだと思います。いくつか指摘されることがあります。まず第一に重要なのは、「進歩的な教育を家庭でする」ということです。母親が変わらなければいけません。母親こそが大きな違いをもたらすことができる存在なのです。

いま韓国の女性は、本当に変わって来ていると思います。2014年に、非常に面白い記事が出ました。私たちの国には、9月に自分の故郷に戻って、家族みんなが集まる時期があります。昔は、20代後半とか30代前半の女性は帰りたくないものだと言われていました。「なんで結婚しないのだ」と言われ続けるからです。しかし最近では、むしろ「結婚するな。独身としての人生を楽しみなさい」とお母さんに言われるそうです。本当の意味で、社会を出て、自分のしたいことをすることが重要だと思います。

例えば、母親の教育に対する意識が変わっています。娘に対し、チャンスを与えるとか、水泳を習わせるとか、あるいは、どのようにお金を稼ぐか、ということを学ぶ機会を与えています。最近は、そうすることで最終的に、ちゃんと女性として独立できるようにしなさい、という教育をしています。このように、最初に母親が変わるべきだと思います。

もう1つ、自分のことも考えてみてください。みなさんは感情的になったりすることはないでしょうか。例えば、何か仕事場で問題が起きると、男性が対応します。男性は「大丈夫です。気にしないでください。解決できるから!」と言います。女性の場合は、個人的な問題に受け取ってしまうことが多いと思います。上司に嫌われているとか、友人がこう言っていたとか、自分個人の問題と捉えて傷ついてしまうのです、女性も、もっと合理的に考えることが必要です。同僚と友人もきっちり分けるべきだと思います。

もちろん、私たちの哲学や文化に根ざすことがあると思います。女性としてやらなければあると思いますが、やはり家庭での教育が重要だと思います。一人ひとりの自尊心を、どういうふうに育んでいくのかが重要だと思います。

サルガオカー:私たちの3カ国には、家父長制度があります。ただ私の両親は、2歳上の兄と私を区別しませんでした。常に平等で、彼ができることは私もできました。私は男女は当然で、平等な機会が与えられるべきだと感じてきました。これは、おそらく家庭(の影響)が大きかったと思います。親が平等に接することで、自分が上司になったときも、自分の部下や同僚を平等に扱うようになると思います。男性か、女性かでみるのではなく、人で見るのです。

もう1つ、特に私の育った文化では「女性の方がより弱々しい、あまり声を上げない、自信を持っていない」と思われています。しかし、(女性も)自分で何かできると思えば、それは自信を持ってやるべきです。何かをやりたいと思ったら、誰かが止めようとしても、やれると思って戦うべきです。そうしないと、本当の変化は生まれません。自分たちの居場所は、自分たちで作り上げていかなくていけません。

■インドの女性が抱える、暴力やレイプの問題

長野:インドでは、特に貧困層の女性が暴力、レイプ、人身売買で苦しんでいます。

サルガオカー:はい。人身売買はあります。ここ数年、今まで以上に事件が報じられるようになりました。特にデリーで、(バスから)女性が引きずりおろされる事件があった時がそうでした。様々な法整備がなされ、準備されています。それぞれの作業場、仕事場でも、いろいろな意見があります。ハラスメントがあるのかどうか、(労働環境に)不満があるのか、例えば、何かの差別があるのか、新たな様々な法制度が整備されています。

しかし、法整備が進められても、大きな考え方が変わっていかなくていけないと思います。女性は所有物ではないのです。自分の所有物として、自分が思うようにできるということではなく、1人の人間として人格があるということです。本当に悲しいのは、この2015年になぜこんな話をしなくてはいけないのか、ということです。インドには先進的な領域もありますし、日本も韓国もインドも大きな経済圏ですが、もっともっと女性のために成しえなければいけないことが、たくさんあります。

それは、考え方を変えるということだと思います。女性に対する暴力やレイプもそうですが、女性に対して尊敬や敬意を持って、どう接するのか。女性は、子供を育てて、両親の面倒を見て、夫の面倒もみます。家事もしています。これは大変な仕事で、敬意に値すると思います。

長野:インド政府は何か改善するためにやっているのですか。

サルガオカー:やっていると思います。ただ、インドという国は、29州あり、12億人の人口がいます。非常に多くの人口です。ですから、インドの都市と郊外は、違う国に匹敵するほど差があります。私はムンバイから来ています。

ですから、ガラスの天井やインターネットの速度などの課題がありますが、郊外の女性は医療や衛生、きれいな水があるかどうか、また、教育が受けられるどうか、といった課題に直面しているのです。私は幸いアメリカで勉強しましたが、郊外の若い女性は、学校に行く事も許されないのがインドなのです。政府は今、女の子であっても学校に行かせようとしています。独立した女性を育てようと、女の子の(教育の)ための予算を編成しようとするなど、政府の取り組みもなされています。財務的に、独立していることは重要だと思います。そうした取り組みはなされています。

■男性の意識を変える、各国の取り組み

長野:各国に、ガラスの天井があることが分かりました。家事や育児など、男性の協力がなくしてはできない。各国はどのように関わっているのでしょうか?

ソン:ちょっと分からないのですが、おそらく変わっているのかもしれません。率直に申し上げて、韓国ドラマの、ヨン様(ぺ・ヨンジュン)のような人はいません。一般的に、韓国の男性は進歩的かもしれませんね。年齢とか職種によっても違うと思いますが、特に若い世代、20〜40代の男性は家事を手伝っているようです。しかし、同時に昨2014年、夫婦で働いている家庭の40%が、「女性だけが家のことをやっている」という統計が出ました。非常に高い数字です。夫婦両方とも仕事を持っていながら「子供の面倒や家事は、女性任せ」という家庭が40%もいた訳です。これは変えないといけないと思います。

もう1つ、変えてなければいけない点が2つあると思います。1つ目は、韓国ではあまりにも残業が多いのです。遅くまで働いて、いうなれば仕事の後に、飲みながら仕事をするところがあります。男性が飲みながら仕事をすると、女性が早く帰りますので、家事は女性任せになります。長時間、残業をして、すべてのエネルギーを仕事に注ぎ込むのではなくて、家庭にも目を向ける必要があると思います。こういった文化的なことを変えていかなければいけません。

2つは、社会的なシステムです。多くの韓国の若い女性は、たぶん日本も同じだと思いますが、恐怖心を持っていると思います。子供を産んだら、誰か子育てを手伝ってくれるのか。私の弟は、ニュージーランドに住んでいます。幼稚園の園料は高いですが、政府が(園料の)約50%を補助していて、幼稚園では、ほぼマンツーマンで赤ちゃんの面倒をみてくれます。赤ちゃんの日々の写真や動画を撮ってくれて、細部に渡るまで本当に面倒を見てくれます。まるでお母さんが面倒をみてくれるぐらいです。

だから、安心して仕事に行けるんですね。弟は、午後5時とか7時に仕事を終えると、奥さんと一緒に家に帰って、家事をします。2人で半分ずつ分担しながら家事をしています。これは1つの事例です。私たちの国も、文化的に変わっていかなくては行けません。

女性も、自分の夫に対して、「これをやってほしい」と「半分、半分。家事は、女性だけの仕事ではないのだよ」と伝えていくことも大切です。共働きなのですから、夫にも理解してもらうことです。

これは10年とか、長い時間がかかることだと思います。フランスは先進国ですが、100年前の書物を読んでみると、女性も過酷な状況の中で、フランス革命を戦った、と書いてありました。男性と戦うことを推奨している訳ではありません。もっと自然でソフトな形で、女性としての強みを生かすことができるのではないか、と。一緒に協力して、共存できる。いい形で、徐々に変えて行くことが大切です。

長野:インドでは、男性のワークライフバランスが必要だと思いますか。

サルガオカー:変化は必要です。特に、ワークライフバランスは全員が必要だと思います。例えば、(ビジネスで)成功した女性がいて、その女性の帰宅が遅い。その夫の方が帰宅が早い。これもまた1つの問題を引き起こすと思います。

ただ、男性対女性の戦いではない、ということを伝えたいです。これは戦争ではありません。男性と女性が、一緒に手を携えて前に進んでいかなくてはいけません。女性というのは、女性だけでは暮らしていけません。1人では暮らしていけません。パートナーや同僚が必要です。男性と女性は共存していかなければなりません。一番重要なのは、会話を始めるということです。例えば、子供を産もうと決めたのであれば、それは共同の努力ということになります。少しずつ変わっていくことが必要です。

私にとって、一番大きな影響を与えてくれたのが父でした。ミナさんと同じで、進歩的な父の下で育ちました。このデイスカッションに参加されている男性も、ぜひそうなっていただきたいと思います。女性は、ぜひ夫や兄弟、お父さんと、このような会話をしてください。家で、身近なロールモデルを目の当たりにすることが重要だと思います。そうすれば、外に出たときに行動できるからです。

ソン:こうしたイベントを韓国で開催した場合、もっと多くの女性がいると思います。しかし、今日はすごく男性が多いので、びっくりしました。日本には、明るい未来が待っているとなと思います。日本の男性、すごいです。

■女性の活躍推進、各国の女性政治家について

長野:社会を変えるとなると、女性が政治に関わることが重要になってくると思います。ここで各国の女性政治家のランクを紹介します。韓国が85位、インドが106位、日本は117位です。実は、ここにいる2人の国、韓国は朴槿恵(パククネ)大統領、インドはインディラ・ガンディー首相です。韓国やインドでは、強い女性の政治家が出て、社会が変わったのでしょうか?

ソン:「本当に変わりました」と私は本当は言いたいです。私が感じる限り、大きな変化は生まれていないと思います。確かに政治的に、北朝鮮との問題もありますし、経済の状況など、(国が抱える)たくさんの問題があるのは事実です。2014年は、セウォル号沈没という悲劇的なことも起きました。そんな状況で、大きな変化が起きているかといえば、まだそうではないですね。

女性でも男性でも、とにかくマインドセット(考え方の枠組み)を変えるが重要だと思います。男性であれば、もっと進歩的であるとか、あるいは、女性大統領であれば、より保守的であるとか、そういった人々の固定観念があると思います。韓国は他の国々よりも遅れているランキングになっていますが、私たちには比例代表制(という選挙制度)があります。

比例代表制は日本と同じですが、2000年から法律を変えて、韓国では少なくとも30%は女性(の候補者)でなければならなくなりました。2004年に、50%に引き上げました。2004年から、だんだんと(女性政治家の)割合が上がって、今は約半分の国会議員が女性になってきています。システムを変えたことで、より多くの女性や若い人が政治に参画できるようになりました。

移民の問題に詳しい女性政治家もいます。フィリピン出身ですが、韓国人と結婚して国籍を変えました。その夫が事故で亡くなったのですが、それでも国会議員になっています。彼女は、女性の権利、移民の権利のために努力をしています。これは、大きな変化ではないかもしれませんが重要な変化です。

長野:(候補者の一定の割合を女性に割り当てる)このクォーター制は、最近日本でも聞かれるようになりました。実はこのランキングでも、上位トップ10のうち、9つがクォーター制を導入しています。海外では、100を超える国が導入しています。韓国も採用しました。日本では、野党からはクォーター制の導入を、という声が出ていますが、与党はまだ議論していないということです。インドでも採用していますか?

サルガオカー:法案はあります。議会には、1996年に提出されています。19年前になりますが、まだ通過していません。女性の置かれている環境を変えたいのですが、この法案が通っていないのが現実です。この法案は、下院と州議会の議員の36%を女性にするという内容です。

インドにも女性の首相、インディラ・ガンディーという首相がいました。もう40年も前の話です。それ以後、何が起きたのか。経済は成長しましたが、まだ女性のリーダーは出て来ていません。10年ほど前に、両院議員総会でソニア・ガンディーが首相に選出されましたが、彼女は固辞しました。インドでは女性の大物政治家もいますが、そうした女性は独身であることが多いです。現在のナレンドラ・モディ首相は、男性ですが独身です。政治にあまりに注力してしまうと、家族を持てない傾向があるようです。

長野:インドでは、クォーター制をビジネスに適用したのですね?

サルガオカー:はい。上場企業であれば、(1人以上の)女性を取締役として据えます。ただ、取締役の何割を女性にするか、ということまでは決まっていないと思います。

■「クレイジーであれ」「スペシャルであれ」

長野:最後に、現状を変えていくメッセージはありますか?

ソン:韓国も日本と同じ問題に直面しているということを伝えたいと思います。小さな頃から、礼儀正しく、と育てられていますから、言われたことをきちんと守る。そして、その環境の中で幸せをつかみとる、と思っているところがあります。韓国の女性は、群れから外れることを怖いと感じます。みんなと違うことをすることが怖いんですね。ただ、変えていかなくてはいけない。私も、世界の素晴らしい方々と会ったり、仕事をしたりする機会に恵まれました。彼らはみな天才です。そして、同じようなことをおっしゃっていました。「クレイジーになりましょう」(Be crazy!)と。「スペシャルになれ」(Be Special!)と。「スペシャルな存在になることを恐れるな」と言っています。

多くの若い女性にお伝えしたいです。規範に則っとるだけでなく、自分の道を選ぶべきだということです。「何かをしなければ幸せになれない」ということはありません。自分で決めて、自分でつかみ取らないといけないということを申し上げています。みなさん、顔が違いますよね。みなさんの状況も、1人ひとり違うと思います。それぞれに幸せがあります。それを見つけないといけない。クレイジーであること。スペシャルであること。そして、群れから外れることを恐れないこと。

あとは、旅行をしてほしいですね。旅行される人は、みんな好奇心が旺盛です。世界を知りたい。新しい人に会いたい。そういう好奇心があれば、新しい人生が開けて行くと思います。たくさん旅行して、多くの違った人に出会って、他の人がどうやって暮らしを営んでいるのかが分かれば、勇気を持って自分のしたいことができるのではないでしょうか。

サルガオカー:インド、日本、韓国では、伝統の価値観が培われています。「やらなければいけない」という固定概念があります。近代的な女性になりたい、女性として働きたい、家族を持ちたい、と思うことはいいことです。家族を持たない自由もあります。もちろん、すべての伝統をないがしろにしているわけではありません。私自身も伝統的な人間ですけれども、ムンバイから10時間のフライトをして、今日は東京で、みなさんの前で、女性の話をしています。

ぜひ、そういったやりたいことを考えてみてください。みなさんが高度な教育を受けたい、良い仕事をしたい、社会の中で自分を守り戦っていきたい、と願うことは、みなさんの伝統をないがしろにするものではありません。伝統を大切にしながら、なおかつ進歩的になれるということです。

もう1つ、重要なのは自信ですね。現状の制度にチャレンジするという勇気です。誰かから「できない」と言われて、納得してはいけません。自分がやりたいと思えば、なし得ます。簡単なことではないかもしれません。戦わなくはいけないかもしれませんが、その気持ちがあれば戦えます。ミャンマーの(非暴力民主化運動の指導者)アウンサンスーチーさんは言っていました。「選択肢があなたの前にあります」と。その選択というのは、結果をもたらすことです。みなさんの選択した結果が受け入れられなかったり。中には簡単な一筋縄ではないものがあったりしますが、しかし戦っていかなくてはいけないことがあります。私たちすべてのチャレンジであります。

これは、すべての人の課題だと思います。男性と女性の平等は、男性の世界観や人生も楽するもののです。今まで、自分が全部やってきたことを女性と分かち合うことができます。男女が平等な社会を推進していくためには、システムや制度にチャレンジすることを躊躇しないことです。誰かがガラスの天井を割ってくれることを待っていてはいけません。誰もやってくれません。自分でガラスの天井を割らないいけないのです。私たちの文化においては、ぜひ女性のみなさんに、声を大にして自分の考えていることを主張していただきたいと思います。

皆さんの決断にかかっています。唯一、自分たちがコントロールできることは自己です。人に強制的に変えられるものではありません。変わりたいのかどうか、変わるのかどうか、この部屋を出るときの、みなさんにとっての決断だと思います。

長野:1時間にわたって、2人のお話を聞いてきました。やはり2人の事情を聞いていても、女性の活用とか女性の社会進出という言葉。ただ、数を増やせばいいというものではないということは分かりますね。リーダーが男性であれ、女性であれ、それを問わず、それぞれがどんな考えを持っていて、それをどう発表するかが重要だと思います。また、そうしたリーダーシップを持つ女性が、女性であることを理由に昇進を得られないという状況がまだまだあると思います。そこは政治や企業が取り組んで行く課題だと思います。

また、ことさらに女性の活用といいますが、もちろん女性の中には仕事をしないで家にとどまって、子育てに集中したいという方もいるでしょうし、男性の方も家にいて、家事をしたいという方もたくさんいらっしゃると思います。大切なのは男性にとっても女性にとっても固定観念にとらわれないということです。So please be crazy!

【関連記事】