ケネディ大使が女性活用を訴え「新しい若い世代のためにも、後戻りはできない」

女性進出について語る「2015 ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」が6月29日、東京・赤坂で開かれた。開会式の冒頭、キャロライン・ケネディ駐日米国大使は「私たちの成功を待ち望んでいる新しい若い世代の男女がいます。もう後戻りはできません」とさらなる取り組みを訴えた。登壇した安倍首相もマタハラについて触れ、その根絶を約束した。
猪谷千香

官民のリーダーたちがダイバーシティや女性進出について語る「2015 ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」が6月29日、東京・赤坂で開かれた。このイベントは2013年から在日米国商工会議所が開催、女性の活躍する社会実現に向けたメッセージを発信している。開会式の冒頭、キャロライン・ケネディ駐日米国大使は、「日本に赴任して1年半の間に、日本では変化が起きている」と評価、「私たちの成功を待ち望んでいる新しい若い世代の男女がいます。もう後戻りはできません」とさらなる取り組みを訴えた。

また、政府の方針として「すべての女性が輝く社会づくり」を掲げている安倍首相も登壇。妊娠や出産をした女性が職場で嫌がらせを受けるマタニティーハラスメント(マタハラ)などについて触れ、法的整備も示唆した上で「こうした不利益な取り扱いは、女性が活躍する上で、また、長時間労働を食い止めるためにも、根絶していかなければなりません」と語った。

■世界中から日本の女性活躍推進に注目が集まっている

ケネディ大使はスピーチで、「日本に赴任して1年半の間に、すでに日本での変化を目の当たりにしてきました。女性の地位向上を長年にわたって訴えてきた人たちは、今回は今までと違うということを私に言っています。トップレベルでは、リーダーシップが発揮され、能力ある女性があらゆる職場に進出し、その数は増加しています。平和や人権問題での日本のグローバル・リーダーとしての役割と、国内の働く女性の惨憺たる待遇の現実は相容れないという認識の広まりは、この取り組みの緊急性を高めています」と評価した。

「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関」が今年の夏、東京事務所を開設することにも触れ、「かつてないほどの関心が世界中から日本に寄せられている」と指摘。「そのため、具体的な進展をしていることを示す必要があります。もう手一杯と感じている人がいるかもしれませんが、同僚や友人を勇気づける見本を示すことでより貢献できます」と一人ひとりの意識改革を訴えた。

また、文化人類学の草分け的な存在であるマーガレット・ミードによる言葉「献身的な少数の市民が世の中を変えられることを疑ってはならない。実際に、世の中を変えてきたのは、そういった人々にほかならない」を紹介。「進歩をもたらすには、女性自身が自らの人生や他人を助ける中で変革を生み出す立役者にならなければなりません。そのスキルを身につけるのに最善の方法だと思うのは、障害を乗り越え、女性に対する低い期待による制限を自ら課すことを拒み、すばらしい成功をおさめた人たちから学ぶことです」として、女性として初めて、連邦議会下院議長を務めたナンシー・ペロシ氏らの功績を語った。

冒頭にスピーチしたキャロライン・ケネディ駐日米国大使

■母親業の延長で政治家になった女性初の連邦議会下院議長

「ナンシー・ペロシは政治家の家に生まれましたが、結婚して6年間で5人の子供をもうけました。子供たちが成長するに従い、地元で民主党の政治に積極的に携わるようになりました。それは、彼女が政治は母親業の延長にあると考えたからです。きれいな空気や水、安全な食べ物など家族のために必要なものはたくさんあります。しかし、適切な公共政策がなければ、これらを手にすることはできません。そのためには、政治に関わらざるを得ないと彼女は語ります。

彼女は、先輩の女性議員によって後継者に指名されるまで、政治家になることは夢にも考えていませんでした。皆さんも、ナンシー・ペロシの気持ちがわかるのではないかと思います。女性はしばしば、自分に自信を持てないことがありますが、ナンシーを知ってる人ならば、なぜ彼女が選ばれたのかわかります。家庭からキャリアに転身することは、難しいことではないとナンシー・ペロシは言います。まず、自分の経験を認め、今まで専業主婦であったとしても、気にする必要はありません。育児や家事を切り盛りするのに必要なスキルは、どの職場でも役に立ちます。

5人の子供の母であり、女性初の連邦議会下院議長を務めたナンシー・ペロシ氏

明確な目標を持ち、最後は自分自身を信じること。私たちは自分の人生に責任を持つ決断を下さなければなりません。その行動のきっかけはなんだったのか、考えてください。私たちは互いに学ぶことができます。経験を共有することで、力をつけて前進できます」

ケネディ大使はこう述べ、最後に「日米両国の女性の地位向上を見据えると、道のりはまだ遠いです。しかし、私たちには勇気づけ、手を差し伸べてくれる人たちがいます。もう後戻りはできません。私たちの成功を待ち望んでいる新しい若い世代がいます」と訴えた。

■安倍首相、法的措置検討も含めたマタハラ根絶を約束

その後、スペシャルゲストとして登壇した安倍首相は、政権の成長戦略として女性の活躍を位置づけていると語り、「政権発足から2年半、明らかに社会の流れが変わりつつあることを感じています。私は上場企業の経営者の皆さまに、少なくとも役員の1人に女性を登用してほしいとお願いしています。それ以来、登用が進み、今や800人を超える女性が活躍しています」と手応えを示した。

安倍首相は、「さまざまな分野にチャレンジして、女性としての初めての階段を登る。実際に大小さまざまな失敗があるかもしれません。しかし、失敗から学ぶことが多いことは事実です。活躍する女性が増えていますが、こうした動きはまだ始まったばかりであります。社会全体に定着させていくことが必要」と延べ、現在、国会で審議中の女性活躍推進法案の1日も早い成立を目指すとした。

一方で、社会問題化しているマタハラについても触れた。

「妊娠や出産を機に仕事を続けることができなくなったり、思うように活躍できなくなったりするマタニティーハラスメントが後を絶たないことは残念です。そして、当事者の皆さんはなかなか声を上げにくいとも聞いています。こうした不利益な取り扱いは女性が活躍する上で、また長時間労働を食い止めるためにも、根絶していかなければなりません。政府としても、まず実態を明らかにして、法的な措置を含め、企業の取り組みの評価策を進めていきます。さらに、ひとり親で、子育てしながら働くお母さんを始め、さまざまな困難に直面している女性の皆さんのがんばりに対して、政府を挙げて支援を行ってまいります。安倍政権は女性の活躍を応援する手を緩めることはありません。輝く女性の応援の旗を一層、高く掲げていくことを約束します」

■マタハラ被害にあった女性が安倍首相に「直訴」

この日、安倍首相とともにパネルディスカッションに登壇したのは、パナソニックやBTジャパン、明治安田生命保険相互会社の役員ら女性4人。その中に、マタハラの根絶を訴えている「マタハラNet」の代表、小酒部さやかさんの姿もあった。小酒部さんは2015年3月、日本人として初めてアメリカ国務省から「世界の勇気ある女性賞」

を贈られている。

安倍首相にマタハラ根絶を「直訴」したマタハラNetの小酒部さやかさん(右から2人目)

小酒部さんは、「妊娠した時、上司からは『契約社員には時短勤務の制度がない。契約社員に会社が産休、育休を許すとは限らない』と言われました。人事部長からは、『仕事も妊娠を取るのは欲ばり。仕事に戻るなら妊娠を諦めろ』と言われ、無理をして働き続ける中、二度流産し、退職を余儀なくされました」と自身の体験を披露した。

「子供を産み、働き続けたい。日本ではそんな当たり前の希望が叶わない状態が続いています。いまだに、第一子の妊娠を機に6割の女性が仕事を辞めています。育児休業を利用した後に職場に復帰した割合は、正社員が41%、契約社員、派遣労働などの非正規労働者はわずか4%。妊娠などを理由とする職場追放や嫌がらせが横行している上、今現在は有期契約労働者は、一定の条件を満たさなければ育休制度を得ることができません。このため、たとえ条件を満たしていても、私のように数多くの非正規で働く女性が妊娠を機に仕事を失っています」と現状を訴えた。

また、小酒部さんは、「今の日本は産ませない社会です。しかし、昨年、安倍首相が女性が輝く社会を政策の柱に掲げてくださったおかげで、日本でもやっと女性が働き続けられる社会を作るべきだと認識され始めました。すべての女性が輝く社会というのであれば、安倍首相には、実効的な取り組みで本気度を示していただきたい。非正規も含め、日本全体のマタハラを解決するようあらゆる手立てを尽くしていただきたいと思います」と安倍首相に"直訴"。会場からは大きな拍手が起こっていた。

小酒部さんら女性たちのスピーチを聞いた安倍首相は、「今、求人倍率が高い水準にあるのは事実上、供給力の限界にそろそろ達しようとしているからです。さらに人材の供給力を挙げていかないと成長できない段階に至っている」と説明。「その供給力の壁を突破するのは、女性。新たな人材、生産性を上げていくためにも、まさにダイバーシティはきわめて有益な手段であり、ダイバーシティがなければ、生産性も上がっていかないし、成長していくこともできない」と語った。

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