[マドリード 8日 ロイター] - スペインの経済は、最終的にギリシャ危機の飛び火を免れるかもしれない。だが今年終盤の総選挙を控えて流動化している政治情勢は、既にギリシャによって一段と激しく揺さぶられている。
5日のギリシャ国民投票以降、スペイン国内の左派勢力の間では対立が強まっていて、与党の中道右派、国民党から政権を奪取するために連立が組めるかどうかは疑わしい。
通常ならばこうした野党の足並みの乱れは、ラホイ首相にとってはもっけの幸いとなっただろう。ところが首相自身も、選挙前の経済ショックを回避するためにギリシャを支援しつつ、一方でポピュリズム(大衆迎合主義)政党に付け込まれるのをいかに回避していくかという、厄介な問題を抱えている。
左派勢力のうち反緊縮を掲げる新党ポデモスは、ギリシャのチプラス首相が率いる急進左派連合(SYRIZA)と緊密な関係にあり、世論調査では支持率が僅差の第3位につけている。多くの人々を貧困に陥れた長年の緊縮財政を終わらせてくれるかもしれないとの期待が反映された形だ。
ポデモスのパブロ・イグレシアス氏は、スペインの社会労働党を含む欧州の中道左派政党は、右派が推進してきた行き過ぎた緊縮政策を支持してきたが、結果として経済成長も雇用も上向かなかったと主張。中道左派政党に対して、右派とのいまわしい連携を永久に断ち切って、社会的権利を守る人々の側に結集するよう呼びかけた。
イグレシアス氏の側近によると、ポデモスの戦略はSYRIZAとの距離を保って中道支持層を取り込むのではなく、左派の最大政党となることだ。そうなれば、現在は左派の中心的な立場にある社会労働党のペドロ・サンチェス党首は、ポデモスが率いる左派政権を支持するか、国民党と「大連立」を組むか二者択一を迫られる、という。
社会労働党は、大連立に動くつもりはないと表明する。ただ、特にポデモス主導の連立政権が先月、スペインの3大都市で政権を確保した点を踏まえると、ポデモスが社会労働党をしのぐ左派政党になる可能性はじりじりと高まりつつある。
<両刃のグレグジット>
これに対してラホイ首相はポデモスと社会労働党の双方への批判を強め、左派連合が出来れば半年以内にスペインには資本規制が導入され、成長率は下がって債務は膨らむと警告した。
ラホイ氏は8日、「口にしたり約束するだけなら非常に簡単だが、政権運営となると難しさが増す」と野党をけん制。その上で「われわれが実行してきた改革政策はうまくいっており、取りやめれば大きな間違いになる。わたしの見るところでは、社会労働党はポデモスの助けを借りてわれわれが成し遂げたことすべてを変えようとしている。それはスペインのためにならないと思う」と力説した。
もっとも経済情勢に基づくと、ラホイ氏の政策には評価できる部分とできない部分がある。失業率は2013年のピークの27%から低下したとはいえ、まだ24%という高水準で首相就任時の2011年よりも依然として高い。一方で国内総生産(GDP)は今年の成長率が約3.3%となる見通しで、欧州で最も高い部類に属する。
選挙でどの政党に投票するかを聞いた先週の世論調査では、ポデモスの割合は社会労働党や国民党とそれほど差はなかった。また極左のイスキエルダ・ウニダ(統一左翼)を含む左派連立政権の支持率は50%近くで安定的に推移している。
ポデモスと社会労働党の連立支持は37%、国民党と社会労働党の大連立支持は29%だった。
アナリストによると、ギリシャが痛みの伴う経済改革の条件付きであっても最終的に支援を獲得できた場合は、ポデモスにスペインの経済改革に異議を唱える新たな根拠を与え、社会労働党の支持層をも取り込む材料になるだけかもしれない。
ラホイ氏にとっては、有権者が恐ろしくなってポデモスから離れる可能性がある「グレグジット(ギリシャのユーロ圏離脱)」の方が、政治的には利点が大きくなってもおかしくない。
しかしスペイン政府が5日のギリシャ国民投票直後に同国はユーロにとどまるべきだと表明したことからすると、ラホイ氏はグレグジットを政局に利用する準備が整っていないもようだ。
グレグジットには、ラホイ氏再選の鍵を握るスペインの景気回復のシナリオに暗雲を投げかけるばかりか、スペイン国債が海外投資家から再び売りの標的にされる恐れが出てくる面もある。
(Julien Toyer記者)