【新国立競技場】森喜朗氏ぼやく「センチュリーに乗せてもらったらパンクして降ろされた」(発言詳報)

2020年東京オリンピックの組織委員会会長を務める森喜朗・元首相が7月22日、東京の日本記者クラブで講演した。2520億円にのぼる建設費が高すぎるとして安倍晋三首相が白紙撤回を表明した新国立競技場について「私も迷惑している」と述べた。
7月22日、記者会見する森喜朗氏
7月22日、記者会見する森喜朗氏
Taichiro Yoshino

2020年東京オリンピックの組織委員会会長を務める森喜朗・元首相が7月22日、東京の日本記者クラブで講演した。2520億円にのぼる建設費が高すぎるとして安倍晋三首相が白紙撤回を表明した新国立競技場について「私も迷惑している」と述べた。

6月末まで日本ラグビー協会の会長を務めた森氏は、2019年に日本で開催予定のラグビー・ワールドカップに間に合わなくなったことについて「当初、横浜の日産スタジアムに決めて申請して了解を得ていた。ところが『オリンピックやるぞ』ということになり『ラグビーも間に合わせるなら入れてやれ』ということになった。クラウンぐらいの車に乗っていたら、後ろからセンチュリーが来て、乗せてあげると言われたので乗せてもらったらパンクして、降ろされて追い越されて…笑い話にもならない」とぼやく場面も。

2520億円となった新国立競技場の建設費については、東京都や組織委が負担する金額の方が高いことを理由に「実は国がいちばん負担が安い。何だよとなりかねない」と持論を展開。「もうちょっと説明を閣内でしておかなければいけなかった」と、下村博文・文部科学相を批判した。価格上昇の原因は、東日本大震災や東京オリンピックに伴う建設資材の高騰と推測し、新たな計画に「あんまりちまちま、あれ造るな、これ造るな(と言わないでほしい)」と注文した。

主な発言と一問一答は以下の通り。

%MTSlideshow-236SLIDEEXPAND%

最初に申し上げておきますが、この新国立競技場の問題については、私は正直、大変迷惑してるんです。別に新国立競技場を組織委が造るわけでもなく、組織委がああして、こうしてといったわけでもない。造るのは国。都は協力するだろうと思います。

たまたま、完成時の当時目標の2019年は、ワールドカップのラグビーが日本で行われる年。メディアの皆さんはラグビー、ラグビー、ラグビーのためにと言われるが、実はプレオリンピックの年は、五輪と同じ状況で各種競技をやらないといけない。その方がより大事なんです。なぜか私がラグビー協会長をしていたから、体がでかいんでみんな私に注目したのかも知れないが、ラグビー協会のために造るという見方をしているメディアもあったし、意図的に報じたメディアもあったようですね。

私の巨体が遮っているように漫画に描かれましたが、ワールドカップのラグビーを決めたのはもっと早い時期です。決勝と準決勝2試合と開幕戦が大事ですが、我々が当初、横浜の日産スタジアムに決めて申請して了解を得ていた。ところがそのことで国立を使うかどうか国会議員の先生と相談しているときに、後ろから「オリンピックやるぞ」ということになり「じゃあオリンピックやるならラグビーも間に合わせるなら入れてやれや」ということになり、我々はクラウンぐらいの車に乗っていたら、後ろからセンチュリーが来て、乗せてあげると言われたので乗せてもらったらパンクして、下ろされて追い越されて…笑い話にもならない。

初めから誘ってくれなければよかったと思うけど、やりにくいのは組織委もラグビー協会の会長も森で、ことさらことをこんがらかせてしまったというのはあると思います。アスリートがつつがなくプレーできる場所を選定して、いい会場を設営するのが仕事であって、くれぐれも利用させていただくという立場なんだということ。

この7月24日が5年後のちょうどオリンピック開会式。開幕5年前セレモニーを計画しております。そのときあらたにエンブレムとマークの発表をしたいと思っています。最初に絵を見ていただくのは総理大臣だろうと、それぞれ手分けして同じような時間帯にご覧に入れて了解を得ようとしておったんです。私の担当は安倍晋太郎総理大臣(本人発言ママ)だったんです。そのときは「あ、あ、いいねえ」ぐらいのことで、あまり感動を示さなかったような気がします。ちょうど、安全保障の問題が国会を通過したのと同時に、新国立競技場のことで頭がいっぱいで、もやもやとした気持ちのなかで、私が「エンブレム」と言ったもんですから。「すごいなあ、よかったなあ」ぐらいのことは言ってほしかったのが残念だったんだけど。

これまで1年半の間、何をやったのか。国立競技場の問題と同じようなことでした。東京都が造る建物と組織委が受け持つ施設がどれぐらいかかるのか。震災以降の資材、人件費の上がり、その上、オリンピック特需が出てくるとますます上がってくることが一番心配。国立競技場もそこが元だろうと思います。

まず、都がやる施設、これは恒久な施設です。いくらぐらいかかるのかと洗ってみたら、大変でした。当時、猪瀬(直樹・前都知事)さんが誘致運動をされて、「キャッシュオンバンク」、4000億あるよ、と世界に何度も言った。ところが東京都が造る施設は4000億をはるかに超えていた。これだと都民は不満に思うだろうと、2500億ぐらいに圧縮したつもりでおります。そのため日本の競技団体の抵抗がすごかった。いちばん強かったのはヨット。東京湾にすばらしいハーバーを造りたいという夢は分かるが、堤防1本造るのに460億なんです。それを2本やるという。ボートは東京湾の横に新設することになった。ボートコースは造るのに1000億ですよ。

国立競技場の2000億が高いとみなさん言うが、メディアの皆さんもそのこと少しも書かない。何なんだよ。そういうお金には何も言わないでおいて、果たして理屈に合うのかとも思うんです。

我々組織委員会が受け持つ施設は仮設なんです。ところが意外に金がかかる。幕張メッセにフェンシングとテコンドー、レスリングが行く。スタンドだけで1万5000人造らなければいけない。40~50億かかるでしょうねえ。お台場のビーチバレーは1万人のスタンドをつける。終わったらただちに元に戻す約束なんです。施設を負担するだけでも1000億は超えるし、運営をしていかなければいけない。テロ対策は相当の機材を必要とする。これだけでも100億ぐらいは考えなければいかん。IOC会長は「アジェンダ2020」を示した。できるだけ施設に金かけず、そのためにあえて開催都市に限定しないで、範囲広げてもいいですよ、と。

猪瀬さんに直接の責任はないが、竹田(恆和)JOC会長と一緒に東京都がIOCと契約したんです。この2人がつくった案は私から見てきわめてずさんですよ。それでも組織委が負担する金はどうみても3000億は超えるだろうと私たちは見ております。

都の金額と組織委の金額に比べ、国が負担するのは国立競技場だけ。そういう目で、2520億円という金額の印象は大変だということになりますが、実は国がいちばん負担が安い。何だよとなりかねない。安倍さんはこの辺の数字のことをご存じないと思っているんです。(下村博文)文部科学大臣は知っているんだから、もうちょっと説明を閣内でしておかなければいけなかった。

国立競技場はオリンピックとラグビーのために造るんだという印象があるわけですが、もう老朽化して建て替えないといけないことは誰が見ても分かる。JSCも非常に気にしていて、私も国会議員在任中から最大の関心事だった。しかしなかなか金がかかるし、きっかけがつかめなかった。たまたま、ラグビーなり、オリンピックなり、この機会に建て替えないといけないね、となった。今の国立も陸上競技には使えない。国際連盟の基準に合わず、いつも横浜や大阪を使っている。8万人収容にいちばんこだわったのはサッカー協会です。ワールドカップを誘致するための約束だから必死だった。

今度、どういう規模のものになるかしらないけど、8万以下だったら、サッカー連盟は二度と日本にワールドカップを持ってこられない。今度、日本は女子サッカーのワールドカップをやりたいと思っているが、8万人のスタジアムがないから手を上げられない。だからいろんな希望を受け入れたものを造ってあげるのがスポーツファンのためだろうと思ってきたわけです。

日本の全体の計画でいきましても当初の3倍ぐらいかかっている。日本も最終的に2兆円超すのかもしれない。ロンドン2兆5000億です。何でもロンドンを見習えと言いますが、ソチは何と5兆円です。オリンピックの経費は大変かかるんだということもご承知だと思います。

【質疑応答】

Q:先日の安倍総理の白紙撤回がありましたが、2520億、国の負担は少ないとお話を進められたということは、あまり圧縮しすぎて日本の中心的な施設として、「あまり減額すべきでない」と聞こえたが。

A:どの程度かかるのかという計画を、今度は官邸がやるということですから、事前によく調査してもらいたい。初めに「この枠」と言うと不足するものがいっぱい出てくる。最低限何が必要なのか。JSCが最初に造ったものに何が必要だったのか見てもらいたい。キールアーチだけで900億円なら、取ればそれでいいのか。もっとアスリートに必要なものがいっぱいあるから、よく調べておやりになって、各省庁だけでなく、東京都も、できればアスリートの経験者も入った委員会をつくって、スケールはともかく、施設的に落ち度のないものにしてもらえれば。

Q;1000億円超えるオリンピックのメーンスタジアムはなかったというが、こだわらない方がいいということか。

A;外国の比較をよく出されますが、事情があるんです。ロンドンは切り売りしてサッカー場にした。平均460億というが、北京の労働要件と比較して言うのも見識のない話。労働者の賃金、全然違います。今はほとんど使われていない状況じゃないですか。ロンドンは簡単にサッカー場にしたのは、ラグビー場が2つあるから。このあとどう使うのが大事だと思いますね。

Q:7月24日であと5年。暑さ対策は頭が痛いのでは?

A:アメリカの放送会社と契約して、びっくりするようなお金が出ますから、アメリカのゴールデンアワー基準にやるわけです。暑いからと手を抜くわけにいかない。安倍さんに「サマータイムやりなさい。1時間じゃだめだ2時間にしなさい」って言ったんです。そうすれば朝7時といったって朝5時ですから。去年か一昨年、話をしたんですが、「なかなかみなさん反対するんでねえ」と言っておられましたが、これが安倍さんの「夕活」って奴じゃないですか。朝早く出て早く帰るというのを役所からやっている。これも5年後までいけばかなり定着する。多少は変われるかもしれない。

Q:安倍さんが2020年夏をまたぐ総理をやると、佐藤栄作を超える長期政権。安倍総理大臣が五輪とともに引き続き政権運営する可能性はどうお考えですか。

A:これはなかなか大変な問題ですけどね、個人的な感情を言えば、2020年の開幕宣言を安倍晋三にやってもらいたいという気持ちはあります。64年のときは池田(勇人)さんだった。がんだと分かって入院した。それで池田さんが最後のオリンピックを終えてがん治療に入られた。あっ、安倍さんがそうなるって意味じゃないですよ。

Q:新国立競技場、森さんのお考えとしては、いくらぐらいが妥当?どのくらいかかる?

A:あのね、いくらかかるということは、基本設計して皆さんが考える。それを造るのはゼネコン。彼らはどう儲けよう(と考え)、発注側は安く造ろう(と考える)。JSCがやれっていっても無理です。

Q:これからコンペをやりなおす。どこまで関わっていきたいか?

A:失礼なお答えをしますが、迷惑なことだ。私には関係ないということなんです。組織委は関係ないということです。それを理解してないから、まるで意図的に報道している機関もありましたが、そういう意味で迷惑だと申し上げた。

Q:組織委としてどのようにコンペを進めて、どこを重視すべきだとお考えでしょうか。

A:組織委はそういうことをやる組織ではないんです。資格も発言権もないんです。希望はできるかもしれませんけど。オリンピックのためだけのものじゃないんですよ。これから何十年、スポーツのためにある。だから、あなたの質問は回答できないです。

Q:でも関心をもって注文つけていく?

A:それはできないと思いますよ。ただ、国立競技場をスポーツだけでなく文化の聖地にしようというのがみんなの気持ち。特に安倍さんは「科学技術のショーケースにしよう」とおっしゃった。たとえば顔の認識、席が入場券と一致して、違った人が座ると赤ランプがつくとか。その設備やシステムを外国がどんどん買いに来る。専門家が集まっていろんな面白いアイデアをやってたんです。果たして役人ができるのかなあと思いますけどね。トイレはどこも女性が列を作る。女性のトイレをできるだけ増やすと言ってきた。そういうことを役所の皆さんは考えてくださるかな。そういうことはアドバイスとして言うかもしれませんね。

世界に発信できるように、あんまりちまちま、あれ造るな、これ造るな(と言わないでほしい)。トラックだけ造って芝で見ておれというならそれでいいですけどね。

Q:五輪招致にも非常に尽力したので質問したい。新国立のデザイン、見直しの前にはデザインがIOCに高く評価され、これが勝因だと言う方もいる。安倍首相も国際公約としてプレゼンした。いろいろなセールスポイントがあったが、ザハ案はどれぐらいのインパクトがあったのか。そういった計画が白紙に戻ったことを、説明する立場にあるが、どのようにIOCに理解を得るつもりか。

A:あれで1票入れる人もいたかもしれないが、それだけでなくていろんな設備、中の条件を見てすごいな、となったし、安倍さんのプレゼンス、プレゼンテーションも効果的だったことは間違いない。失言があって、私も時々するんだけど、日本が人種差別的発言をある偉い方がしちゃったんで、大変批判を受けて、スペインに負けそうになったんですね。それをひっくり返すだけの力を競技場は持っていた。大変大きな意味があったんだろうなと思う。正直僕はあんまり好きじゃなかった。でも私、発言権ないですからね。

どう説明しようか、悩んでます。ここで言ったら終わりじゃないですか。

Q:今回の件で責任問題をどう考えておられるか。ザハさんに13億円払うなど、60億円ぐらい損が出るという話もある。もっと早く見直していれば、間に合ったという考え方もある。結果的にこうなったことについて、お金の損も、誰かが責任を取らないと新たなスタートを切りにくいのではないか。

A:機構上、JSC、文部科学省が扱う所在ではなかったが、いままでの慣行上そうなっていた。どこに責任があるか、難しいが、全体で負わなくてはいけない。誰がどうこうということも大事ですが、新たに官邸が責任を持ってやると。それを見てからでいいんじゃないですかね。責任と犯人を持ち出して、あまりいいことはないと思いますね。

Q:遠藤利明・オリンピック担当大臣に期待すること、新国立に期待することは。

A:遠藤大臣は党におられたときからスポーツ関係にはきわめて重要な役回りをしてきた。スポーツ基本法の改正、サッカーくじの改正、立法にも苦労した。それからまさに、悲願でもあったスポーツ庁設置の国会対応から何から中心になってやった。遠藤さんが日本のスポーツをどうあるべきかいちばん熱心に取り組んできた。その方が座長になられた。何もかもしっかり目配りできると思う。各省庁も安心するのではないか。

価格が高くなって国民から批判を受けたけど、中身については少しでもよみがえってくれたらいいなと思う。神宮外苑の中にスポーツと文化の殿堂として残ってほしい。

注目記事