[東京 22日 ロイター] - 企業統治の仕組みを他社に先駆けて整備し、「先進的な」企業のイメージを内外株主に与えてきた東芝。今回の不適切会計問題はその仕組みが「空文化」していることを露呈した。
東芝は今後、ガバナンス体制の再構築に取り組む。取締役会のもとに置かれた指名委員会・監査委員会をいかに機能させ、成長力強化に結び付けるかが課題になる。
<問題発覚当時、海外投資家は信頼していた>
不適切会計問題が発覚した4月、海外投資家は東芝のガバナンスが機能しているからこそ出てきた問題だと受け止め、気にも止めなかった――。日本投資環境研究所・主任研究員の上田亮子氏は、こう振り返る。
委員会設置会社(現行法では「指名委員会等設置会社」)の採用が可能になった2003年、東芝は委員会設置会社に移行した。
日本企業の場合、業績悪化や不祥事が統治改革の原点になるケースが多いが、東芝は業績が順調な中でガバナンス改革を実施。海外投資家へのIR活動にも熱心に取り組んだ。
委員会設置会社への移行から12年。東芝は今年4月3日に不適切会計問題を初めて公表したが、海外投資家は東芝を信頼し「社外の目」がきちんと行き届いているからこそ、問題が発覚したと解釈。東芝は自浄作用を発揮して、この問題を乗り越えるだろうと楽観視していたようだ。
しかし、投資家の信頼は裏切られていく。内外の報道各社は5月から6月にかけ、不適切会計による利益のかさ上げ額拡大見通しを相次いで記事化した。6月に開かれた東芝の株主総会では、今回の問題の端緒が証券取引等監視委員会による報告命令だったことが判明。東芝が自らの統治システムの中で問題を発見し、進んで公表して調査に乗り出していたのではないことが発覚した。
<「要」の委員会が機能せず>
ガバナンスの専門家らは、東芝の指名委員会と監査委員会が機能不全を起こしていたと指摘する。指名委員会等設置会社は、取締役会の下に指名委員会、報酬委員会、監査委員会を置くよう会社法で義務づけられているが、3つのうち2つが機能していなかったことになる。
今回の不適切会計問題では、西田厚聰氏、佐々木則夫氏、田中久雄氏という歴代社長の確執が背景として連日、メディアで報じられた。
もし、報道されているように歴代社長の間で個人的な感情の対立が生じ、経営に影響を及ぼしたとなれば、指名委員会で透明・公平なプロセスを通じて経営最高幹部を選任してこなかった証拠だ、と複数の専門家はみている。
一方、東芝の第三者委員会の報告書は、監査委員会の機能マヒの実態を浮き彫りにした。
東芝の監査委員会は5人で構成。委員長は財務部門出身で社内取締役の久保誠氏が務め、3人が社外取締役。そのうち2人は外交官出身。「監査委員会の布陣だけでも、実質的な監査能力に疑問が浮かぶ」(上場企業の財務部門関係者)との見方も出るなか、報告書は社内取締役の島岡聖也監査委員の指摘ですら、監査委員会で取り上げられなかった事実を明らかにした。
「形だけ作って中身が伴わない典型例」と、金融庁幹部は東芝のガバナンス体制の機能不全を嘆く。
金融庁と東証が策定したコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)は上場企業の変革を促した。コードの策定をきっかけに、「監査等委員」を務める取締役に従来の監査役より重い責任を担わせる監査等委員会設置会社への移行や、社外取締役の選任が相次いだ。
東芝は21日、田中社長を筆頭に取締役8人が辞任すると発表。今後のガバナンス強化方針として、取締役数の削減とともに社外取締役の過半数採用などを打ち出し、監査委員会委員長には社外取締役の伊丹敬之氏を起用した。
だが、形だけの改革に終わってしまっては、ガバナンスの強化は「空文化」が続くことになる。指名委員会や監査委員会をいかに実効的な機関にするか、東芝には「待ったなし」の変革が求められている。
麻生太郎財務・金融担当相は21日の閣議後会見で、東芝の問題について「基本的には、個別の企業における企業倫理の問題」と述べた。そのうえで「コーポレートガバナンス(コード)を入れておいた方がより信頼性が高まる」として、コーポレートガバナンス・コードの意義に理解を示した。
ただ、日本投資環境研究所の上田氏は「経営トップの指名プロセスが非常に大事だ」と指摘。現経営陣の後継者の選任・育成計画(サクセッションプラン)について、コーポレートガバナンス・コードでより具体的に規定する必要があると述べる。
現在のコードは、サクセッションプランについて、取締役会が、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえて「適切に監督を行うべき」とするにとどまっている。
(和田崇彦 編集:田巻一彦)