『ぐりとぐら』中川李枝子さんが教えてくれた、育児の大切なこと「子どもはみんな問題児」

あの名作童話『ぐりとぐら』は、主任保母としてフルタイムで働きながら、2歳児を育てる多忙なワーキングマザーが書いた作品だった。

あの名作童話『ぐりとぐら』は、主任保母としてフルタイムで働きながら、2歳児を育てる多忙なワーキングマザーが書いた作品だった。

一人の母親として、数多くの子どもを預かり育ててきた保母として、そして子どもたちの想像力を育む作家として、まっすぐに生きてきた童話作家・中川李枝子さん。

最新エッセイ『子どもはみんな問題児。』は、そんな自身の体験を交えながら、子育てに奮闘中の親たちに向けての45のメッセージが詰まっている。今を生きる母親・父親たちに、本書を通じて中川さんが伝えたかったこととは――。

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■仕事と創作、それぞれの質を高めるために

――中川さんの年譜を見て驚きました。デビュー作となった童話集『いやいやえん』の出版が1962年、『ぐりとぐら』が雑誌に掲載されたのは翌63年。当時、中川さんは20代後半、息子さんは2、3歳とまだまだ手がかかる時期だったはず。仕事と育児に追われる日々の中で、創作に向けるエネルギーはどこから生まれてきたのでしょう。

ねえ、どうしてできたのかしら(笑)。でもね、みどり保育園は一切残業をしない園だったの。はじめと終わりの時間はきちんと守る、園だよりもない、行事もない。とにかく無理はしない、っていうのが一番のモットー。何しろ職員が私と天谷先生の2人しかいないんだから。お昼寝の時間は子どもたちと一緒に寝ちゃってたしね。

だから創作は子どもを寝かしつけた後の夜にやってたんでしょうね、きっと。あまり覚えてないんだけど。だいたい私は400字詰め原稿用紙7枚だから、仕事の依頼は「できそうだな」と思えるときだけ引き受けていたの。

ただし、台所で書くとかそういうことは一切やらない。書くときはちゃんと自分の机で書く、ということはきっちり守っていたの。台所で空き時間にちょこちょこ書くとか、そういうのは主人も嫌がるし、それだと全部が中途半端になってしまうから。

私、出版の世界のことは(児童文学作家、翻訳家、編集者の)石井桃子先生にすべて教わったの。最初の本『いやいやえん』が出たとき、石井先生から「お仕事を断るのはとっても嫌なことなのよ。でもちゃんと断らなくちゃいけません。それをやらないとあなたが駄目になる」ってピシっと言われて。それに何より保母という本業がありましたからね。

保育の仕事にマイナスになるようなことはやらない、プラスになることだけを引き受けよう。そうすることで作品の質を高めることができて、引いてはそれが保育の質を高めることにもなる。そう信じてずっと創作を続けてきたんです。

夫も美術家として仕事をしていますからね。「もし結婚がマイナスになるようだったら別れよう」というのは、2人の間でずいぶん早いうちに決めていました。

仕事部屋に飾られた「ぐりとぐら」の原画。仕事と育児を両立しながら描いた名作シリーズ

■「母親は家族の犠牲になんかなっちゃだめ」

――新刊『子どもはみんな問題児。』は、現在7万部(2015年8月)を突破したそうですね。私も子育て中の身なので読んでいてとても励まされました。気持ちがすーっと楽になる考え方や、パッと視界が開けるような言葉がいくつもあって。

そんな風にお役に立てたのならよかったです。毎朝、うちの前を通って保育園に行く元気な親子がいるんだけど、そのお母さんにこの本を渡したら、「題名を見ただけで元気が出た。職場に持って行ってみんなで読みました」って喜んでくれて。

――『ぐりとぐら』がロングセラー絵本となったように、本書も普遍的な"子育てのバイブル"として大人たちに読み継がれるべき一冊だと感じました。とりわけ、全編にわたっての「お母さん」たちへの寛容な眼差しが印象的ですね。

働いているお母さんは無理しちゃいけない。昔、働きながら子育てをしていた知り合いの女性は、ありとあらゆる便利な家電製品にお給料をつぎ込んでいましたよ。最新式の洗濯機とかね。毎日やるべきことはたくさんあるんだから、全部を完璧にやる必要なんてないのよ。

――共働き夫婦が増えていますが、「楽をすること」や「働いていること」に罪悪感を抱いてしまう母親もまだまだ少なくないようです。

もしも働いていることに罪悪感を持っているお母さんがいるとしても、そんなの子どもに見せちゃだめよ。むしろ「私は働いているのよ!」っていばらなきゃ(笑)。家族の犠牲になんかなっちゃいけません。子どもは子ども、自分は自分。赤の他人......じゃあもちろんないけど、子どもは親とは別の人間であり、それぞれが社会の一員として尊ばれるべき存在なんです。

その上で、お母さんたちには自分を一番大事にしてほしいの。だから健康診断は欠かさず行ってくださいね。お母さんが健康であること。これが子どもにとっても家族にとって一番幸せなことなんですから。

――あとがきにあった「お母さんはじっくり子どもに向き合うのと同じくらい、世の中に関心を持たなくちゃいけません」というくだりも非常に印象的でした。

そうよ、お母さんは世間で何が起きているかをしっかり見聞きして、選挙にも行かなくちゃだめ。特に今のような時代の状況ならなおさら。

でも戦争や平和って、なかなか口で伝えられるものじゃないのよね。うちの息子が3、4歳くらいのときかしら。「ママ、戦争ってなあに?」って聞いてきたのよ。「国と国とのケンカよ。戦争が起きると今まで住んでいた所から離れなきゃいけなくなったり、遠い国へ行かなきゃいけなくなったり色々あるの」って説明したら、息子は目には涙をいっぱい浮かべて最後まで聞いた後に、「でも、僕はやっぱり戦争に行く。守らなきゃ!」って。それを聞いて「ああ、こりゃ難しいなあ」って思っちゃった。

――戦争のむごさ、平和の尊さ、どちらも一言で簡単に伝わるようなことではないのかもしれません。

本当にそう。でもね、世の中のすべてのことは我が子の将来にかかってくるのですから。今、社会の先端に立っているのは子育て真っ最中のお母さんたちなんですよ。

中川李枝子(なかがわ・りえこ)

1935年、北海道生まれ。都立高等保母学院を卒業後、みどり保育園に17年間勤務。主任保母として働くかたわら絵本の創作を続け、1962年に出版した『いやいやえん』で厚生大臣賞、NHK児童文学奨励賞、サンケイ児童文化賞、野間児童文芸賞推奨作品賞を受賞。「ぐりとぐら」シリーズ、『ももいろのきりん』など著書多数。

中川さんの最新刊、毎日がんばるお母さんへ向けて語り下ろした『子どもはみんな問題児。』(新潮社刊)が発売中。

kodomo

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