新国立競技場問題、第2回検証委で徐々に明らかになった「検証ポイント」は?

ヒアリングが順調に進んでいる一方で、関係者や関係機関が多数に上がることから、経緯に関わる事実認定の難しさも痛感しているとの報告があった。

工事費が乱高下したあげく、「2520億円」に膨れ上がった新国立競技場の整備計画。その費用の積算根拠や責任の所在などを明らかにするための第2回検証委員会が8月19日に文科省で行われ、関係者12~13人のヒアリングを終えたことや、一時、ゼネコンによる設計JVから「3462億円(解体工事を含めると3535億円)」に上る工事費の試算が出されていたこと、当初の「1300億円」が曖昧に出てきた数字である可能性など、検証ポイントも少しずつ明らかになってきた。【池上正樹、加藤順子】

この日は、検証委員会には、東京大学名誉教授の柏木昇委員長をはじめ、前回欠席した京都大学工学研究科建築学専攻教授の古阪秀三氏、公認会計士の國井隆氏、弁護士の黒田裕氏、元五輪選手で一般社団法人アスリート・ソサエティ代表理事の為末大氏、みずほ証券常任顧問で経済同友会常務理事の横尾敬介氏の6人全員が出席した。

冒頭、柏木委員長から、ヒアリングが順調に進んでいる一方で、関係者や関係機関が多数に上がることから、経緯に関わる事実認定の難しさも痛感しているとの報告があった。

また、議論を公開することで証拠隠滅や口裏合わせなどがヒアリング対象者の間で起こる可能性もあることなどから、ヒアリングに関わる情報についての公開のタイミングは慎重に行い、事実認定のできる然るべきときまで非公開にしていくことが了承された。

■ JSCへのヒアリングで明らかになった具体的な金額

続いて、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)が検証委に提出した「新国立競技場の工事費・解体工事費の変遷について」の資料が公開された。

検証委からの資料要求に基づきJSCが作成したとされる資料が 配布された。ヒアリングにより具体的な設計費が明らかになった部分も(配布資料1「新国立競技場の工事費・解体工事費の変遷について」)※クリックすると拡大します

今回、同資料で明らかにされた、設計段階ごとにJSC、設計JV、施行予定者が算出した工事費の変遷をみると、2013年7月30日の時点で、設計JVによる工事費の試算は、解体工事費を含めると「3535億円(工事費のみで3462億円=2013年7月単価)」にも上っていた。

前年の2012年7月20日、JSCは国際デザインコンクールを実施した際の募集要項に、競技場本体の工事費として「1300億円程度」(97年10月完成の日産スタジアムの単価を補正)と記載している。

この1年余りの期間に何があったのかが、検証ポイントの1つになる。

その後、JSCは文科省に、延べ床面積を29万㎡から22万㎡に縮小する複数のコンパクト案を報告。東京五輪の招致が決定した直後の2013年9月24日に、設計JVとの協力のもとでJSCから文科省に報告されたのは「1852億円(同1785億円=2013年7月単価)」。この金額は、同年11月26日に公開で開かれた第4回有識者会議でも報告された。

同年12月27日、自民党行政改革推進本部無駄撲滅プロジェクトチーム(河野太郎座長)からの意見を踏まえ、JSCは設計JVとの協力のもと、工事費概算額を「解体工事費含めて「1692億円(工事費のみ1625億円=2013年7月単価、ここまで消費税5%)」と試算した。

しかし、2015年1~2月、大成建設などの施工業者による工事費の試算は「3088億円(スタンド工区+屋根工区=今年1月単価、消費税8%)」に再び跳ね上がった。

この期間に起きた変遷も、検証のポイントとなる。

■ 試算変遷前の2つの「空白域」と、当初概算1300億円での実現可能性という視点

また、建築学の専門家である古阪委員から、建築プロジェクトの概算工事費がどのように変化しながら「目標工事費」になっていくのかについてのレクが行われた。

一般的な建築プロジェクトの工事費の算出法を示した古阪委員

古阪委員は、“乱高下”の見方について「あくまで発注者が何を要求し、市場がどのような単価で流れているかによって様々に変わり得る」と指摘。社会保険に加入できない労務者に対応するため、2013年度から公共工事設計労務単価を上げたことや、2年間に建築工事単価が最大20~30%上がっているものがあること、さらに鉄骨材料単価も30%上昇している流れなども踏まえ、きちんと原因を検証する必要があるという。

討議では、為末委員から、「当初の1300億円が正しい数字だとすると、建築費と人件費、材料費の上昇だけでいくと、どのくらい上がった可能性があるのでしょうか?」という質問が出された。

古阪委員は「1300億円というのは、通常なら坪単価を基に計算する。どのくらい上がったか言えないのは、最初の数字に意味がないからです。当時、どのような見積もりをしたのか、きちんと検証しなければならない」として、「1300億円」という当初の概算に実現可能性の検討が適正に行われていたのかどうかについても、検証ポイントに挙げた。

為末委員(中央)は、現段階の検証の感触について、「予算のプライオリティを高く置いておけば、この金額ではいけそうにないとの判断もあった可能性がある」と話した。

國井委員は、2012年7月から1年余りと2014年の2回にわたり「空白域」があるとして、「この空白の2つの期間に、どういうことが起きていたのか、きちんと検証しないといけないと思う」と主張した。

柏木委員長は、「当初の1300億円は、精度の粗い数字であることがはっきりわかったと思います。設計JVの試算に基づくJSCの数字にしても、精度が粗い。最終的には、施工業者の請負価格になるから変更になる。工事が終わってみないと、本当の価格が出てこない」といった点も含め、今後も積算についてのヒアリングを進めていく方針を示した。

■ 「JSCは条件を全部盛り込んだまま安くしようとした。そこを知りたい」

第2回の検証委は、2年前から新国立競技場の計画について、市民の目線から見直そうと呼びかけてきた「神宮外苑と国立競技場を未来へ手渡す会」のメンバーの女性たちも見守った。

「最初の1300億という数字自体が曖昧な数字だというのはちょっとびっくりした。設定した段階で、これは目標額ではなく上限だと、JSCやデザインコンクールの要件でも言わなければいけなかった。また、コンクールの審査経過を見ると、1300億円を超えるから失格になった他の人の案もあるのに、今回のザハ案は1300億円を超えるのに通している。コンクールの要件自体についても突っ込まなければいけない」

「いろいろな団体が好き勝手に注文して来ても、予算がないのなら、普通なら諦めてくださいとか、屋根はできませんとか、調整するのがJSCの仕事ですよね。しかし、一切調整もしないで全部の条件を入れたまま安くしようとした。全部入れたら、安くできないことは知っているはずです。

結局JSCは、設計JVが3000億円超えると出してきたのに、それを隠蔽して後から金が付いてくる、税金だからなんとかなるだろうということで進めた。その辺の問題が今日の委員会では出てこない。なぜ条件を落としていかなかったのかという点がすごく不思議だし、私はそこを知りたい。欧米的なシステムと日本的システムがごちゃまぜになってしまったから、今回の検証で改めていくチャンスだという話も出ていたが、何でもかんでもいろんな団体が出してきた要求を全部盛り込もうとして破綻したわけだから、それがまさに日本的なシステムだったのではないか」

傍聴した同会の女性たちは、次々にそう感想を語った。

新国立競技場や周辺の街並み模型。建築計画の白紙撤回直前に行われた競技場将来構想有識者会議(委員長 佐藤禎一元文科省事務次官)で披露された(2015年7月7日 都内)

検証委員会後、柏木委員長と記者団との主な一問一答は次の通り。

――ヒアリングの進捗状況について

(日程は)相変わらず厳しいと思っております。ヒアリングは、JSCと文科省はほぼ終わりました。とにかく急いでスタートしたものですから、最初は何を聞いていかわからない。聞いていくうちにだんだん細かいところが分かっていく。そうすると、最初の人にもう一回これを聞かなきゃいけないな、ということが出てくるんですね。だからたぶん、第1回のヒアリングでいろいろお話をいただいたうちの主要な方には、もう一度ヒアリングをやっていただくということになるんじゃないかと思っております。

それから、ヒアリングをやりながら、「出た会議があります」「じゃあ、議事録がありますか」「あります」「じゃあ、出してください」……こういうことをやっているわけで、その書類がかなり溜まっております。それを読む時間がどのくらいあるのか。いまだにかなり厳しい状況だと思っております。

――下村大臣からヒアリングしたのか?

いえ、まだです。こういうヒアリングはやり方がありまして、まずは下の方から聞いていくんですね。最後に一番偉い人に聞くというのがやり方です。

――これまで何人くらいに話を聞いたか?

12〜13人だと思います。(JSCと文科省に?)はい。

――古阪委員に工事費算出方法の説明を求めた意図は?

建設工事というのはものすごく複雑なプロジェクトなんですよね。(略)めちゃめちゃ複雑なわけです。そういうことが分かっていないと正確な判断が我々もできませんので、委員の理解を共通にするという意味で今日の委員会(の内容)になったわけです。

――誰にどういう内容をヒアリングしたかを最終的に公表するのは報告書なのか?

報告書の段階で必要なのか判断つきかねている。もうひとつ、私は法律家なので、あやふやな段階であまり公表したくないということなんですね。あやふやなものをあやふやなものとしてお伝えするのは非常に難しい。最初の1300(億円)だって非常にあやふやだったわけですよね。非常にあやふやな数字ですよという風に公表していれば、少しは世間の受け止め方は違ったのではないか。1300という数字が確定的なものとして出ちゃって、私も最初はそんなものと受け止めていました。その辺のむずかしさ。さっきのヒアリングの話に戻れば、ヒアリングで聞いたことを今度は書面で確かめるわけですね。それから他の関係者の話も確かめるわけです。その確かめる前には、ちょっとここ(=公開の場)では言えないな、という気が非常に強いわけです。

――報告書の後に公表されるのか?

報告書の前にこういう場(=検証委会合)があると思うので、その時に「根拠は?」と聞かれることになり、「それは下村大臣のです……」とか答えることになるのだと思います。

会議の冒頭で柏木委員長は、ヒアリングの内容を「しかるべきタイミングに公開する」として委員会に諮ったが、囲み取材では「報告書での必要か判断つきかねている。あやふやな段階では公表したくない」とも話した。

――1300億円が非常に粗い数字という話が出たが、これだけの大きな公共工事ではある程度の額の設定にどう収めていくかは非常に大切なプロセス。それが倍近くになるというのは違和感があるが。

1300(億円)はデザインコンペをやるための前提条件だったわけです。その募集要項にあるのは、JSCのほうとしては、1300億円程度を想定しています、という表現なんです。それを頭に入れながら設計をしろということなんですね。だからあれがプロジェクトの上限であるとかの記述は全くない。コンペに応募した人も、そこまで拘束力があるのかということをわかっていなかったと思うんです。

私は法律家だから文言の解釈を考えるわけですけれども、1300億円を超えない範囲でのデザインを出せとは書いていないですね。つまり、JSCとしては1300億円を考えていますから、それを考えて絵を描きなさい、こういうことになるわけです。

だから1300億円というのはどれだけ関係者の中で拘束力があるものとして受け止めてられていたかというのはちょっとこれから検証する段階です。

次回の検証委員会の日時は未定。

池上正樹

大学卒業後、通信社などの勤務を経てフリーのジャーナリストに。主に心や街を追いかける。震災直後から被災地で取材。著書は『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち』(講談社現代新書)、『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)、『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)など多数。厚労省の全国KHJ家族会事業委員、東京都町田市「ひきこもり」ネットワーク専門部会委員なども務める。ヤフー個人http://bylines.news.yahoo.co.jp/masakiikegami/

加藤順子

ライター、フォトグラファー、気象予報士。テレビやラジオ等の気象解説者を経て、取材者に転向。東日本大震災の被災地で取材を続けている。著書は『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社、共著)、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社、共著)など。Yahoo! 個人 http://bylines.news.yahoo.co.jp/katoyoriko/

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