【新国立競技場】ザハ・ハディド氏「私たちのデザインが、価値あるスタジアムを作る唯一の案」

ザハ・ハディド事務所がハフポスト日本版の取材に答えた。
Evan Agostini/Invision/AP

2520億円の建設費をめぐって白紙撤回となった新国立競技場の問題で、撤回された案のデザインを務めた、ザハ・ハディド氏の事務所(ザハ・ハディド・アーキテクツ)が8月26日、ビデオメッセージを公開した

23分に渡るビデオでは「白紙見直しはリスクが高い」と、政府の方針を批判。ザハ案の設計が、厳しい敷地条件の元、綿密に積み上げられたものであることを主張し、2520億円に膨らんだ建設費は、座席数や座席空調の削減と、スタジアムの外側の構造変更で削減できるとしている。

ビデオメッセージ公開と同日、ザハ・ハディド・アーキテクツがハフポスト日本版の取材に答えた。

――現在日本では、多くの人が新国立競技場は、もっと安く、コンパクトであるべきだと考えています。白紙撤回になったザハ案のコスト面、スケジュール面での優位性とは?

私たちのデザインは細かいところまでできていますから、それを基にして正確なコストを計算できます。これは、納税者にとってもいいことです。新しいデザインにすれば、スケッチを比較しながら費用を想定しなければならず、原価上昇などで値上がりするのを見込まなければならない。時間をかけずに急いでデザインされた競技場は、価格に見合った価値はありません。

私たちのデザインは建物の品質など建設契約が求める基準や、時間・予算がすでに明確になっています。これが、長期的な価値を持つ競技場を東京で建設する、唯一の方法だと言えます。

私たちのデザインならすぐにでも着工できます。今後コストを削減するとしても、請負業者が決まれば基礎工事が始められます。工事が早く始まれば始まるほど遅れが減り、工期に間に合わないリスクを減らせます。

新しいデザインを採用しても実際に着工できるのは、早くて2016年の終わり。急いで作ったデザインで不慮の事態や修正が発生しても対応できず、結局、多くの金を支払って対応するしかなくなります。コストが増えるだけだと思います。

デザインを初めからやり直すのは大きなリスク。手遅れになるまえに、このリスクを理解する必要があるでしょう。

――もし政府が1500億円未満の競技場を要求すれば、それに応える用意はありますか?

外苑に建てるには、現行のデザインが最もコンパクトで効率的な多目的スタジアムです。日本政府はより小さなスタジアムを望んでいるのかもしれませんが、私たちは、新国立競技場が、ただのオリンピック専用の競技場ではなく、多目的で持続可能な競技場であるべきだと思っています。たとえ陸上競技ができても、サッカーができなければ、2020年のオリンピックの後、競技場は十分に活用されないでしょう。それでは国民は投資に対する長期的な利益を得ることができません。

私たちは施工の入札をやり直すべきだと思っています。私たちのデザインでは価格が高くなると思われているようですが、その原因はデザインではない。東京の建設市場にあります。東京の建設市場は、インフレ市場であり、限られた業者だけが受注できる状態です。入札をやり直して、もっと多くの業者が参加して、低い価格を実現すべきです。スケッチを基にして想定価格を考えよりも、すでに完成している現在のデザインから、コストを下げるアイデアを考える方がより正確な値段を出せるんですから。

1500億円以下の予算で何ができるのかわかりません。ただ、東京がインフレ市場であることや、場所の制約があること、競技場のサイズを考えると、あまり現実的な価格だとは思えませんね。2520億円でも「陸上競技のための競技場」を建てるためにかかる費用です。可動式の屋根や観客席はなく、ファサードが一部あるだけでした。建設費用の大半は座席数とサッカーワールドカップなどの国際的なスポーツイベントを開催するかどうかに左右されます。座席数を大幅に減らすか、東京の建設市場のやり方を大きく変えなければ、現在の予算を半分に減らして競技場を建てるのは非現実的でしょう。

ロンドンオリンピックで使われたスタジアムを2015年現在の状況に置き換えて価格を比べてみると、1470億円です。公平に比べるために、建設が完了するであろう2019年までのインフレを考慮に入れて計算すると、2000億円を超えることになります。さらに、東京の建築物に必要な耐震工事も加えるとさらに価格が膨らみます。

ロンドンオリンピックスタジアムは大きな国際試合を開催することを想定して作られてはいません。イギリスにはすでにウェンブリー・スタジアムがありますから。オリンピックスタジアムは、それより小さい規模で作られていても、これくらいかかっているんです。

国際試合を開催できるような競技場を作るのが東京の望みです。より高性能の多目的競技場を作るためには、より多くの資金を投入しなければいけない。普通のオリンピック競技場を作るのに必要な建設費用は2000億円、多目的競技場を作るのに必要な費用は2520億円ほどになるでしょう。

限られた業者の中で競争が行われている現状と、工期を変えないのであれば、低価格を実現することはほぼ不可能。代わりに重きを置くべきなのは、「支払った金額から得られる競技場の価値」です。50年後も使える競技場にしたいのか、日本の国立競技場と呼べるにふさわしい建物にしたいのか。この価値を満たすための唯一の方法は、現在のデザインを採用すること。長期的な視点からみた価値が、一番重要な価値なのです。

――日本に来るつもりは?

もし招待されれば、もちろん行きます。私の初期の頃の作品のいくつかは日本で作られました。日本にはとても親近感を感じています。

――日本政府と、法廷闘争するつもりはあるか?

それについては、ひとつずつ段階を踏まえながら考えていきます。

――もういちど聞きます。新国立競技場のあるべき姿は?

現在のデザインが、国立競技場と呼ぶのにふさわしいと思います。このデザインは、建築家や専門家が審査する国際的なコンペで選ばれ、東京の2020年オリンピック承知のために使われました。その後、2年以上かけて神宮外苑という建設地に合うよう、新国立競技場の基準を満たすよう、改良を続けてきました。神宮外苑に建てるのに、これ以上コンパクトでふさわしいデザインはありません。日本の皆さんが今後100年にわたって胸を張って「国立競技場」と呼べる建物になるよう、日本のパートナーと私たちが綿密に練ったデザインです。

ザハ・ハディド氏の当初の案

新国立競技場のデザインたち

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