新国立競技場の検証報告、責任の所在にどこまで迫れるか

新国立競技場の工事費が膨れ上がった経緯や、その責任の所在などを明らかにする検証委員会の報告書案がほぼ確定し、いよいよ9月24日に示される。
加藤順子

新国立競技場の工事費が当初は1300億円とされ、後に2520億円に膨れ上がった経緯や、その責任の所在などを明らかにする検証委員会の報告書案がほぼ確定し、いよいよ9月24日に示される。

元々、検証委員会は16日に設定されていたが、「まだ精査できていない」として、連休後のこの日に延期されていた。

検証委員会は、これまで進めてきたヒアリングによって、新国立競技場が白紙撤回に追い込まれるまで迷走し続けた責任の所在に、最終検証報告でどこまで迫れるのかが注目される。【レポート/池上正樹】

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第3回検証委員会は9月4日、新国立競技場の建設予定地(旧国立競技場跡地)を視察した後、JSC(日本スポーツ振興センター)から説明聴取を同本部事務所で行った。

同日の検証委員会には、東京大学名誉教授の柏木昇委員長をはじめ、京都大学工学研究科建築学専攻教授の古阪秀三氏、弁護士の黒田裕氏、元五輪選手で一般社団法人アスリート・ソサエティ代表理事の為末大氏、みずほ証券常任顧問で経済同友会常務理事の横尾敬介氏の5委員が出席。公認会計士の國井隆氏は欠席した。

また、JSC側から、河野理事長、鬼澤理事、山崎本部長の3氏が出席した。

JSCの河野一郎理事長、鬼澤佳弘理事

まず視察を終えた後、柏木委員長は「キールアーチがいかに巨大なものであったか身を持って体感した。客観的な検証を行うには、机上のペーパーだけでなく、現場を見ることが必要だと改めて感じた」と話した。

次に、JSCの鬼澤理事から、国立競技場の立地や歴史について地図を見せながら説明。旧国立は敷地約7万4000㎡、収容人員約5万4000人だったのに対し、新国立は明治公園や新宿特別区等43660号、43680号などを帯同した一体の敷地で約11万3000㎡、収容人員約8万人の競技場として計画されていたという(図表の赤の細かい点線がザハ案)。

また、今後の工事等を考えると、敷地内に十分な工事ヤードを確保できないため、近隣に工事ヤードが必要だとしている。

新国立競技場敷地に関する都市計画は、2012年12月、再開発等促進区に定める地区計画制度を活用し、ザハ案による企画提案書を東京都に提出。都の都市計画審議会の審議を経て、2013年6月、都都市計画地区計画に決定された。

JSCの説明によると、敷地外周に沿って8メートルの歩道上空地を確保。明治公園と霞ヶ丘広場が新国立競技場敷地になることから、公園の再配置を行い、西側の歩道上空地の上に立体都市公園制度に基づく人工地盤を整備する。南側には新明治公園をつくり、歩行者デッキによって千駄ヶ谷駅からの導線確保などを計画していた。

委員からは「ザハ案で建設するとき、建築資材の置き場が足りないということが言われてましたが、どの辺に置こうと考えていたのでしょうか?」と質問が出され、JSC側は「近隣の地権者のご理解を得ながら確保していければということで、まだそこまで進んでいませんでした」と報告した。

「計画としては、今の都営アパートの所が資材置き場ですか?」という問いには「1つは今、申し上げた通りですし、もう1つはご案内のように、課題になっているサブトラックをどのタイミングで作るかということと建設を進めるのはオーバーラップするだろうということがありましたので、神宮第2球場辺りの話を東京都や組織委員会と進めていました」と答えた。

さらに委員から「仮設や工事用の資材置き場なども通常は施工計画に入る。今回、白紙にはなったが、そのときの見積もりには、そういう用地の整備や資材置き場、職人コストなども入っているのか?」という質問が出された。

JSC側は、「立て込んでいる地域であり、施工業者だけで計画するのは難しい所もある。私どもも一緒になって、現地建築事務所や工事ヤードの確保も予定しながら、工期やコストを積んできた」などと説明した。

この日の委員会は、とくに目新しい事実もなく、現地で「視察を行いました」ということのみがニュースといえる。

第3回会合を行う検証委員会メンバーとJSC側の参加者

検証委員会後、柏木委員長と記者団との一問一答は次の通り。

――ザハ案やキールアーチが狭いのではないかという印象を受けられたとのことですが?

いや、狭いという印象は受けませんでした。印象に残ったのは、370メートルのキールアーチのスパンがなかなか想像できない。それが現場に行って、いかに巨大なものか。スパンが長ければ長いほど、製作は難しくなる。あの長さで高さが70メートルということになると、それを現場で建設するのは、大変な苦労だなというのを実感しました。

――ヒアリングは何人くらい聞かれたのか?文科省とJSC以外には、どういう方に聞かれたのか?

山下設計、日建設計の2社だけです。人数はわからない。2度やってる方もいらっしゃいます。

(事務局)約30名です。重複もございますので、延べ30数名です。

――今日、現場をご覧になられて、キールアーチについては実現可能性をずい分議論されてきたんですが、その点はどのように…

私は技術屋でないので、実現可能性はよくわからないですが、ヒアリングで実現しないという話は聞きませんでしたね。方法はいろいろあるが、難しい。大きな鉄鋼物、橋梁などは船で運び、現場でつなぎ合わせる。でも、今回のキールアーチはそれができないので、敷地まで小さな部品で持って来て、現場で組み立てる。そういう難しさがあるという話は聞きました。できないという話は聞きませんでした。

――その難しさに伴って、費用が大きく膨らんでしまうという点については、どのように…

費用が大きく膨らむとか、最初から見積もった金額でやってますから、膨らむことはないんじゃないですかね。

――そもそも現場を見ようと思った意義というか、何をどう生かそうという狙いがあったのか

このプロジェクトの難しさですね。問題の1つの原因は、非常に難しかったということがあるんだろうと思う。安藤忠雄さんが「これは日本の技術の水準を世界に見せるんだ」ということが1つの目的だったというように、難しかった。370メートルのスパンを現場で想像できたことは、とても大きかったと思う。

――そもそも、ここに作るのは無理があったと…

そこは私どもの検証の範囲外です。旧国立競技場が耐震構造になっていないということで、建て替えが最初から決まっていた。それがだんだんオリンピック・パラリンピック、ラグビーの世界大会に発展してきたわけで、我々は新国立競技場を作ることが決まってからの検証。そのところで適切かどうかを検証しなければいけない。

――これまでのヒアリングでわかってきたこと、何か感じられたことはありますか

それはまだ勘弁してください。あらかじめお話ししておきたいことは、皆さんとのコミュニケーションが大切だと思うので、報告書ができたところでこのような記者会見があると思います。そのときは十分な時間を取って頂くようにしています。そのときは何でもお答えいたします。いまのところ1時間半くらい考えています。足りないときは、私の所で取材に応じます。

――現場をご覧になって、このプロジェクトは非常に難しかったということを…

難しいって…難しいかどうかは法律屋ですから、どのくらい難しいかは実感としてわからない。ただ、多くの方が「難しい」とおっしゃってるということで。難しいけど、先ほどの安藤忠雄さんの言葉「チャレンジ」だったんだろうと思います。難しくなければ、平凡な建物しか建たなかったんだろうと思います。

――難しという言葉は、検証上、どういう意味があるのか。難しいから曖昧でも良かったのか、難しいからJSCだけでやることに問題があったのか、よくわからない

後者のほうに近づいてくる。難しいからこそ、十分なスタッフがいたのかどうか、ということにつながってくると思います。

――JSCのトップのヒアリングは、今日が初めてですか?

もう済んでいます。

――検証委員会は、今日が最後になるんですか?

今日が最後でした。大臣から「9月中旬」と言われていますから、それを目指して必死になってやっています。

――ヒアリングは概ね終わっているのですか? すべて終わったのか

概ねですね。これからもう1回聞かなければいけないことになれば、事務局にお願いしてセットしてもらいます

第4回検証委員会は、24日午後1時から開かれる。

池上正樹

大学卒業後、通信社などの勤務を経てフリーのジャーナリストに。主に心や街を追いかける。震災直後から被災地で取材。著書は『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち』(講談社現代新書)、『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)、『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)など多数。厚労省の全国KHJ家族会事業委員、東京都町田市「ひきこもり」ネットワーク専門部会委員なども務める。ヤフー個人http://bylines.news.yahoo.co.jp/masakiikegami/

ザハ・ハディド氏の当初の案

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