LGBT1万人撮影プロジェクト「OUT IN JAPAN」が追い求める「LGBT可視化」の試み

「目に見えないLGBTの存在をポジティブに可視化する」ためには何が求められるのか。
Leslie Kee

日本のLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)をはじめとした、セクシュアル・マイノリティのありのままの姿を、多彩な写真家が5年間かけて1万人撮影するプロジェクトの第2弾「OUT IN JAPAN #002」。今回は98組118名のLGBT当事者が参加し、写真家のレスリー・キーさんが撮影した。

OUT IN JAPAN」は、"LGBTの存在は身近にいる"というメッセージをビジュアルで表現する試みでもある。しかし、日本では普段の生活でLGBTの存在を身近に感じる機会はまだまだ少ない。

なかなか目に見えてこないLGBTの存在を知るにはどうすればいいのか。そのために、LGBTの当事者以外の人たちは何を知っておけばいいのか――「目に見えないLGBTの存在をポジティブに可視化する」ためには何が求められるのか、「OUT IN JAPAN #002」の参加者に尋ねてみたところ、具体的な提言をしてくれた人もいれば、可視化することに疑問を呈する人もおり、意見はさまざまに分かれた。

中村吉基さん

私はカミングアウトして、キリスト教の牧師をしておりますが、まだまだカミングアウトできていない日本のLGBTの人たちへの一助になればと思い参加させていただきました。

LGBTの人たちは、みなさんのすぐ近くにいます。彼らは声が上げられないだけなのです。だから「私の周りにはいない」という方がとても多いのですが、当事者の中でもカミングアウトについて慎重になる、そしてネガティブな思いを持つ人がたくさんいます。

そういう声を上げられない人たちが本当に生きやすい社会をどのように作り上げていけばいいのか。それは当事者だけで考えていてはいけませんし、ヘテロセクシュアルの人たちが中心に考えても難しい。やはり両者が手を取り合って、お互いが住みやすい、ダイバーシティが認められる社会を作っていくべきだと思います。

川島智さん

恥ずかしかったですが、七五三のようで楽しかったですね。

可視化も大事なのですが、あえてオープンに、目に見えるものにする必要もないんじゃないかな。カミングアウトできる人が、できるときにその人なりに表現できるようになればいいと思います。生きていくうえで、「私はこういう性別です」と言ったり、自分のプライベートを公言したりするのは、本当であればそんなことを強いられる必要がないものなのです。でも、これから日本の法律を変えるとか、LGBTやいろんなセクシュアリティの方たちの地位を向上させるとなると、ある程度は声を上げていかなければいけないと思うのですが、このような時期を乗り越えて、日本にも多様性が生まれていく暁には、お互いにフラットで、思いやりを持って接し合えるのが理想です。

南定四郎さん

私はゲイマガジンを編集しておりましたからモデルの撮影はしょっちゅうやっていましたが、モデルになったのは初めてです。

私が運動を始めた21年前に比べると、今は大変化が起きています。OUT IN JAPANのように、大勢の人が集まるイベントはなかったですね。私は一時期活動から離れていましたが、その間に世の中が変わったみたいで、一挙に、こうして大勢の人が集まってパワーを発揮するようになったのは驚きでした。これからはLGBTの当事者の人たちも積極的に自分たちの存在を大いにアピールすべきだと思います。

もともと、LGBTの当事者の中に、「一般的な当事者」という存在はいません。それぞれに特異性があるのです。でもうっかりすると、相手側の類型的なパターンに当てはめて生きていくほうが楽だと思ってしまって、それでおしまいになる人がいっぱいいます。それだと本人も幸せではありませんから、当事者も、もうちょっとそのあたりを啓発しないといけません。

本来は、「私たち当事者は普通の人なんだ」と、当たり前のことをわざわざ伝える必要なんてありません。「違う」とか「変わっている」なんていうのは、相手側が思っているだけなんですから。こちら側から「あなた方と同じなんですよ」なんて言う必要がない。それを、言わなくちゃいけない、覚悟を決めなくてはとカチカチになって考えてしまう人が随分いますが、でも私からすると、そんなことはする必要はないのです。

私は普通に、ごくありのままに生きてきました。特別に何かをしてきたわけではありません。周りからおかしいと言われたこともありませんし、そうして84歳まで生きてきました。そういう具合に、みんなが「相手に合わせる当事者」ではなく、当事者性を自分が思った通りに出していく世の中になればいいのです。

中村真史さん

ストレートの人たちに対して無理にメッセージを投げかけるとか、大げさにやる必要はないんじゃないかと思います。僕は幸い、ストレートの人たちとの関わりの中で自分がゲイということで辛さを味わったことがあまりないんです。友達もほとんどストレートですし、家族もみんな知っています。

自分がそういう立場にいるから、辛い立場にいる人にとってはきつい言葉になってしまうかもしれませんが、LGBTって一種の個性というか、その人が持っているもののほんの一部でしかないので、別に無理にストレートの人たちに理解を得ようと思ったこともないし、「目に見える形にするためには」という質問自体に疑問を感じてしまいます。する必要がそもそもあるのかなって。

松岡宗嗣さん

可視化するという意味では、LGBTの友達がいることが一番強いみたいですね。距離が遠すぎでもだめですし、家族とか、距離が近すぎても難しい。友達という間柄だと、当事者としては最悪その人との間柄を切ったとしても生きていくことはできるわけですから、自分を受け入れてくれるストレートの友達を作ると、きっとその友達は理解を深めてくれるのではないでしょうか。距離感が大事だと思います。

大方なつみさん(右)・土屋朝美さん(左)

当事者が自分で「こういう人間なんですよ」と表現できることでしょうか。私の場合はレズビアンなので、「女の人が好きで、レズビアンなんですけど」と、普通に自己紹介するような。

LGBTの中でも、見ただけでセクシュアルが分からない人もいますよね。ひとくくりにLGBTと言っても本当に細かいので、そこは自分から言うしかないと思います。なかなか伝わらないですよね。特にストレートの人たちに対しては。

櫻田宗久さん

例えば、飲み屋とかで隣りにいる人に「私はゲイなんだ。LGBTの当事者なんです」と、気軽に言えるようになるといいですよね。学校であれ、家族であれ、身近な人から意識を変えていく、分かっていってもらうのが一番大事だと思うんです。

セクシュアリティといっても人それぞれ違うものですから、一番親しい友人とか、家族といった、その人の内面性を一番分かっている身近な人たちに伝えるのが、世の中を変える手段なんじゃないかなと思います。

石坂わたるさん

当事者の顔が見えて、実際に身近にいるんだと知ってもらうことが重要なので、自分の周囲の人にカミングアウトできるのであればそれに越したことはありません。あるいは名前を出さなくても、写真や映像で実際に当事者の顔が見える機会を増やしていったり、たとえばネットで、全てのプロフィールが出せない人も部分的に「自分はここにいるんだとアピール」したりすることで、世の中に発信していく。当事者それぞれができる形でやっていけば、見える化につながっていくんだと思います。

Ki-Yo(清貴)さん

LGBTの可視化って、相互理解だと思うんです。LGBTの当事者だけでもダメですし、当事者以外の方たちがある程度の理解を持ってもらう。お互いの歩み寄りが必要ですよね。これってすぐに分かり合えることにはならないと思うので、とても時間がかかるでしょうが、当事者と支持者の人たちが手を取り合って活動していくことでストレートの方たちがLGBTのことを少しずつでも認知していっていただく。一方、僕たち当事者も活動を続けていきながら自分に自信を持って生きていくこと、自分らしく生きていくことを一人ひとりが意識していけば、普通に受け入れてくれる世の中になっていくと思うんです。時間がかかるとは思いますが、ゆっくりと活動していけたらいいなと思います。

撮影を担当したレスリー・キーさん

可視化する、ということなら、テレビの地上波でレギュラーの番組やるくらいじゃないとね。私が司会になって、有名無名に関係なく、LGBTの人たちとストレートの人たちを呼んで毎週トークショーをやる。そして有名人にもどんどん参加してもらう。それが話題になったら、一般の人たちにも届くようなメッセージが伝えやすくなりますよね。ストレートで影響力のある人たちのフィルターを通してLGBTの社会の中でのポジション、苦しみ、喜びといった喜怒哀楽をすべて伝えられたら、知らないうちにLGBTの人たちがカミングアウトしてもいい社会になっていくと思います。そうしたら日本でもLGBTのビジネスが広がっていくから、日本の経済に必ずプラスになるんです。

LGBTはもうマイノリティじゃない、ということをテレビでもラジオでも積極的に取り上げていってほしいですね。

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現在、「OUT IN JAPAN #002」の写真展が、LGBTのキャラクターが多く登場するミュージカル『RENT』を上演中の日比谷シアタークリエで開催されている。撮影を担当したレスリー・キーさんと、『RENT』に出演している平間壮一さん、ソニンさんは、9月11日に行われた写真展のオープニングイベントで次のように述べた。

(左より)ソニンさん、レスリー・キーさん、平間壮一さん

「『RENT』の全41公演には、のべ2万5000人のお客さんがいらっしゃると聞きました。その2万5000人のお客さんに、OUT IN JAPANのスピリット、メッセージが伝えられたらいいですね。

OUT IN JAPANに参加した人たちには、それぞれの物語があります。撮影には3分で終わる人もいれば、10分かかる人もいましたが、その人それぞれのアイデンティティを、そして彼らの存在を自分の心、目で認識して写真で切り取ったのがこの作品です。自分の仕事を通じて、自分が愛する日本に貢献できること、そしてみなさんから勇気をもらえることに感謝したいですね。

自分の旅はまだまだ終わっていません。すでに撮影された方たちにも、引き続き応援してもらいたいです」(レスリー・キーさん)

「『RENT』に関わって、たくさんの”愛”を学ぶことができました。そして、レスリーさんにお会いして、彼も愛にあふれた人間で、OUT IN JAPANの写真ひとつひとつを見ていても、愛が伝わる作品だなと思いました。

『RENT』のフォトセッションでレスリーさんに撮影してもらったのですが、ドラァグ・クイーンの仕草や、ポーズ、衣装全てが初めての体験だったのでどうしていいかわからなかったんです。でも、レスリーさんが『もっと腰に手を当てて、お尻を上げて』と指示をいただいて、ああ、こうやって体のラインを出していくんだと学んでから、LGBTに対して勉強不足だと実感しましたし、このお芝居をやるにあたってもっと勉強していかきゃいけないんだと。

レスリーさんに撮ってもらうだけでも誇りに思えることなのですが、それ以外のことも教えてもらった撮影でした」(『RENT』でドラァグクイーンのエンジェル役を務める平間壮一さん)

「私自身、LGBTという言葉自体をはっきり認識したのは7、8年くらい前でした。それ以来、私は自他ともに認める『LGBTフレンドリー・ソニン』になれるように、『RENT』の役を通して、あるいは普段の生活でも、LGBTを理解できない人にもわかってもらえるような、架け橋みたいな役割を果たせればいいなと、いつも思っています。

OUT IN JAPANの作品を見ていると、レスリーのレンズを通して、LGBTの皆さんの物語や人生が溢れ出てくるようで。私もLGBTに関わってきたことに誇りを感じることができました。『RENT』を観に来ていただいた人たちにもメッセージが伝わると思います。『RENT』は、20年前の初演の頃は衝撃的な内容だったかもしれませんが、今では日常に近いテーマがたくさんちりばめられていると思うんです。だから『RENT』とOUT IN JAPANは、LGBTが現実のものとして実感しやすいコラボレーションじゃないかと思います」(『RENT』でバイセクシュアルのモーリーン役を務めるソニンさん)

写真展は10/9(金)まで。また、10/9(金)には、大阪で 第3回撮影「OUT IN JAPAN #003」が行われる。

「OUT IN JAPAN #002」参加者のみなさん

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