山口組の分裂騒動は「山口組の歴史の終わり」 溝口敦氏・久保利英明氏が語る

1980年代の山口組と一和会の抗争や、九州の同仁会と九州誠道会など、暴力団抗争は組を割って出た方の敗北に終わった。しかし溝口氏は今回は違うとみる。
Taichiro Yoshino

日本最大の指定暴力団「山口組」の分裂の背景は何か。対立はどちらに軍配が上がるのか。暴力団関係者らへの取材を長く続けてきたジャーナリストの溝口敦氏と、暴力団追放運動に長く関わってきた弁護士の久保利英明氏が10月20日、日本外国特派員協会で講演して語った。

山口組は、司忍(本名・篠田建市)組長率いる「6代目山口組」から、司組長らの運営に不満を募らせたとされる直参の暴力団が「神戸山口組」を旗揚げし分裂。現在、それぞれ約7000人、約3000人の組員を抱えるとみられる。

■分裂の背景は「お金と人事」

溝口氏は、山口組分裂の背景について「お金と人事」と分析した。

6代目山口組の直系組長が、山口組総本部に上納する金は、溝口氏によると「毎月115万円、積み立て10万円。そのほか、飲料水や日用雑貨など強制的に買わされ、これに毎月50万円くらいかかる。お中元は各人あわせて5000万円、お歳暮は1億円を司組長に贈るほか、1月25日の司組長の誕生日にも1億円を贈る。直系組長1人あたり、年間約3000万円を納める」という。

「山口組総本部は毎月約7000万円の収入があり、そのうち約3000万円が司組長に入る。司組長の年収はおおよそ10億円と推定されるが、任意団体の会費収入として課税されていないとみられる」。しかし2015年7月、工藤会(北九州市)の野村悟総裁が、上納金を脱税した容疑で逮捕された。「組長を脱税で立件せよ、との指示が全国の警察に出ており、司組長も脱税で逮捕されるのではないかという観測がある」と話す。

司組長の上納金の高さに不満を募らせた神戸山口組は、新しい会費システムをつくったという。「直系の役付き組長は毎月30万円、中堅組長は20万円、ヒラ組長は10万円。ヒラ組長を基準にすると6代目山口組の10分の1ほどの会費で済ませられる。お中元やお歳暮を禁止し、組長の誕生日祝いはしない。このため、イタリア製ブランドで身を固める司組長に対し、神戸山口組の井上邦雄組長はユニクロを着ているという話もある」と述べた。

また、司組長の出身母体「弘道会」(名古屋市)が、6代目山口組の人事を独占していることも背景にあると分析した。「若頭、若頭補佐も弘道会から出ており、順当に行けば7、8代目組長も弘道会出身者が独占するのではないかという危惧がある」

■「どっちに転んでも、両者とも力を弱めていく」

1980年代の山口組と一和会など、暴力団の分裂抗争は組を割って出た方の敗北に終わった。しかし溝口氏は今回は違うとみる。「今回、割って出た側と付き合おうという組が出ている。組員の数で言えば7:3で6代目山口組の方が多いが、勢いや人気は神戸山口組が優勢。ゆくゆくは五分五分になり、神戸山口組が勝ってしまうのではないかと、私自身は推測している」と話し、「どちらに転んでも、両者とも力を弱めていく。おそらく山口組最後の分裂であり、山口組の歴史の終わりを意味するかもしれない」と推測した。

その背景として溝口氏は「暴力団全体が今後ますます数を減らし、勢いをなくしていく。警察庁の統計で見ても、暴力団対策法施行以来、数を減らし、しかも減少のペースが上がっている。暴力団全体に社会的需要がなくなった」。久保利氏は「これまで興行や地上げ、債権回収をヤクザがやっていたが、弁護士の数が増えてその仕事を弁護士が取るようになった。ヤクザへの需要が司法への需要にシフトした」と説明した。

山口組を巡る暴力団事件

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