シャープ、液晶事業が悪化 中国失速などが直撃

経営再建中のシャープの液晶事業の赤字が拡大し、同事業を分社化して外部出資を求める再建交渉は一段と視界不良になった。
reuters

[東京 30日 ロイター] - 経営再建中のシャープ

「年度内にはなんとかしてもらいたい」。主力行の首脳は、シャープの連結業績の足を引っ張る液晶の再建に焦りを隠さない。

同社は26日、液晶事業の悪化で2016年3月期の連結営業利益を100億円に下方修正。15―17年度の中期計画で示した初年度800億円の計画は達成を断念した。14年度に2223億円の巨額赤字を計上して13―15年度の中期計画を撤回したのに続き、新たな中期計画も半年を待たずに躓いた。

シャープの中期計画は取引銀行の支援継続の前提になっている。2012年の経営危機を受けて、銀行団は計5100億円のシンジケートローン(協調融資)を設定したが、その期限が来年3月末に迫る。年度内に抜本策をまとめらなければ借り換えを危うくし、資金不足のシャープは事業が継続できなくなる。

中期計画の行方を危うくする液晶事業について、主力行は「リスク」ととらえ、その分離を視野に入れている。9月末の液晶在庫は1300億円。6月末の1500億円から減らしたが、依然として在庫評価損のリスクはくすぶり、一段の赤字拡大につながる恐れもある。

<中国失速と競争激化の直撃>

スマホ用液晶でシャープと競合するジャパンディスプレイ(JDI)

シャープの状況について、「すでに経営者は液晶をコントロールできなくなっているのではないか」(業界関係者)との声が出ている。前期末まで液晶を運営した担当役員は、巨額赤字の責任をとって退任した。これに代わって4月以降、高橋興三社長が液晶事業を直接監督し、10月にはカンパニー制を導入して、執行役員を液晶カンパニーの社長に据えた。

特に、複写機の開発や白物家電の営業を経た高橋社長は「液晶のことはほどんど知らない」と社内外で指摘されている。今年5月に液晶事業を柱の1つに据える中期計画を立てながら、わずか2カ月後には一転して液晶分社化の検討を表明した。

二転三転する経営方針に加え、今期からシャープの液晶事業が採用した方針は、顧客の受注を前に製造する「見込み生産」の停止だ。前任の液晶トップのもとで積み上がった液晶在庫を処理するため、工場の稼働を落としてきたが、新規受注が入らない中では稼働損が広がる。「製造と営業の現場がまったくかみ合っていない」(シャープ関係者)との悲鳴が社内で上がる中、液晶事業の損失は4―9月期で264億円に拡大した。

<思惑すれ違い>

業績が乱高下する液晶事業の采配に苦慮するシャープ経営陣と、その切り離しに焦る主力行。この一方で、出資候補になっている産業革新機構や鴻海精密工業

経済産業省は、シャープの技術の国外流出を懸念する声が多い。一方の革新機構は「資金を出すなら成長資金。救済資金は出さない」(幹部)との方針を崩さず、シャープ液晶への資本投下が成長投資になり得るかを慎重に見極める姿勢だ。

革新機構が検討するシャープ本体への出資に対しては、過半数出資で経営陣の交代につながる恐れもあり、シャープと主力行は否定的。政府、革新機構、シャープ、銀行の思惑はすれ違う。

年度内決着を求める銀行に対し、ある政府関係者は「2人も役員を派遣しながらこれまで銀行は何をやってきたのか」と不満を隠さず、シャープ出資の議論の前提として、銀行の貸し出し責任が問われるべきとの考えを示した。

シャープは10月に社内分社化を導入したが、液晶など各カンパニーは貸借対照表を持っていない。液晶を外部に分社化する場合、連結ベースで7587億円の有利子負債をシャープ本体と液晶会社がどこまで分け合うかという議論もあり、協議を複雑にしそうだ。

大型液晶の堺工場(大阪府堺市)を共同運営する鴻海とシャープは、2012年に基本合意した本体出資交渉が破談した経緯がある。それ以降もシャープの本体出資への熱意を隠さなかった郭台銘(テリー・ゴウ)董事長は、今回の液晶分社化の交渉では沈黙を守っている。

ある銀行系アナリストは「鴻海は、革新機構との協議が破たんするのを待っているのではないか。それを待ったうえでじっくりと価格交渉に入るのも手として考えられる」との見方を示している。

(村井令二 取材協力:浦中大我 編集:北松克朗)

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