Presented by AQUA SOCIAL FES!!

「宇宙からの視点」に宿る可能性――経済はエコロジー活動と手を取り合えるのか

悪いことも起きているけれど、優れたこともいっぱい起きている。わずかこれだけの間で、人間はこれだけ変われるんです。

「生まれて初めて、私は水平線が丸くカーブしているのを見た。カーブを強調しているのは、ダークブルーの光の細い筋。それこそ、地球を取り巻く大気である。これは、私が今まで散々聞かされてきたような、果てしなく広がる空気の層ではなかった。私はその頼りない外見に戦慄を覚えた」――「地球/母なる星」より

どこでそんな光景を見ることができるのだろう? 宇宙飛行士ウルフ・マーボルドは無限に広がる闇の中からこう言ったという。

この視点を多くの人に共有したい。そう思った人がいる。一般社団法人Think the Earthの理事を務める上田壮一さんだ。

Think the Earthは2001年に発足以降、さまざまな企業とコラボレーションしながら、地球環境や社会課題に関する活動を企画している。「工学部出身で、自然を守らないとダメだという意識が人より高かったわけではない」と語る彼は、なぜこのような活動を続けているのだろうか? 話を伺った。

■ 「このままじゃ地球はダメになる」というアプローチに引いてしまう自分がいた

――地球について考えるようになったきっかけは何でしょう?

88年に出版された「地球/母なる星―宇宙飛行士が見た地球の荘厳と宇宙の神秘」の影響が大きかったと思います。世界中の宇宙飛行士が撮影した、宇宙から見た地球と、彼らの言葉で構成されている写真集です。

当時は東西冷戦のまっただ中。ベルリンの壁も崩壊していないし、天安門事件も起きていない。宇宙開発が競争だった時代です。でも、そんな時代に出版されたにも関わらず、この本には、アポロやソユーズから撮った写真が分け隔てなく並んでいたんですね。

さらに、宇宙飛行士たちは口をそろえてかけがえのない地球の大切さを語っている……すごいなと。「宇宙からの視点」は、人を変えていく。戦争や環境問題を超えていく何かがあると思いました。

同時にメディアの力に初めて触れた感覚がありました。自分もそういう価値を世の中に届けたいと思って一度広告業界に入り、その後、95年に「アースウォッチ」のアイデアが生まれました。これを人に話すと、「現実化しよう!」と共感してくれる人が想像以上に多くて(笑)。どんどん話が進み、最終的に事業化することになったんです。

地球の北半球が文字盤に搭載され、自転と同じ方向に24時間で一周する時計「アースウォッチ」。98年にオリジナルアイデアのプロトタイプを完成させ、2001年にセイコーインスツルと共に商品化を果たした。

――そこからThink the Earthが?

そうですね。Think the Earthは環境NPOというより、「一日一回地球のことを考えてみよう」という緩やかな呼びかけをベースにした活動です。逆に、「地球は危機に陥っている」という強いメッセージを押しつけられると、心理的に引いてしまう側面もあると思うんですよね。

――「こっちが正しくて、こっちが悪い」というような?

そう。冷戦中は米ソの威信をかけた宇宙開発が進んでいたけれど、宇宙に行った人たちは「地球は1つだ」と実感した。こういう人間的なストーリーの方が僕は共感できました。だから、反対運動よりも「地球に生きていることってすごいことだな」と自然に思ってもらえるようなスタンスを大切にしています。

――「百年の愚行」はかなりショッキングなアプローチだったように見えます。

編集者の小崎哲哉さん、アートディレクターの佐藤直樹さんとThink the Earthの編集によって刊行(2002年)。続編は2014年にクラウドファンディングで出資を募り、上梓された(2014年)。

この写真集も、危機感を煽るために出版したわけではありません。21世紀を迎える時に、過去100年間に人類が犯した「愚行」を振り返ってみよう。その事実を直視した上で未来を考えようと企画しました。

20世紀の写真はフイルムが多く、基本的に撮影者が現場に立ってカメラに収めています。もちろんプロパガンダやカメラマン本人の意志が反映されたものもある。けれども写真に写っている事象があったことは否定できない。銃殺される捕虜、原子力爆弾、奇形化した魚、収容所……。

「百年の愚行」より。1970年 東パキスタン(現バングラディッシュ)の子どもたち。

この本は100枚の写真を載せていますが、1枚1枚に「愚行の犯人は誰なのか」と糾弾する印象を与えないようにするため、キャプションは極力省きました。愚行の根幹は、人間自身が持っている暴力性や、現代の文明生活、あるいは人口の増加だったりするので。これらは、未来において向き合わなくてはならないことです。

「百年の愚行」より。1935年頃、アフリカ。

――それが出来たのが2002年。

はい。ちょうど、この本を編集している最中に9.11が起きました。当初は、海外の出版社から声がかかっていたのですが、破談しました。

――なぜでしょう?

当時のアメリカは9.11以降「愛国」の雰囲気が強くなっていて、「自分たちがやって来たことを絶対的に正当化しなくてはらない世界」になっていたんです。「百年の愚行」のような文明批判をテーマにした本は、こんな雰囲気の中では売れないという判断になったんだと思います。最終的に紀伊國屋書店の方が「ぜひ出そう!」と発売元を引き受けてくれました。

――昨年は続編がでましたね。

「続・百年の愚行」より

折りに触れて続編の話はしていたものの、僕たちは9.11から約10年間、この新たな愚行を傍観してしまっていた。そんな時に3.11が起きた。この時に続編の話が動き始めました。

福島第一原発事故は、まさに文明への過信によって引き起こされたものだと思います。テクノロジーが未来を拓くことは間違いありません。でも、それは陰と陽2つの顔を持っています。社会システムや個人の価値観はテクノロジーの進化のスピードについていけないので、夢だけ語っていては歪が生まれる。その結果が3.11だったとも言えます。

「続・百年の愚行」より

■ 「企業」が変われば「社会」が変わる国、日本

僕が活動を始めた90年代は、こういう話に、耳を傾けてくれる人は多くありませんでした。「この人何言ってるんだろう?」という感じで。市民の力で社会を変えるにはたくさんの障壁があります。今の日本は市民というより企業社会の力が強い。でも、ここにチャンスがあると思いました。

CSRが浸透し始めた2003年以降、環境・社会貢献活動をしている企業が評価される時代になってきました。「社会にどう貢献しているか?」。それが企業価値を計る物差しになる。NPOやボランティアの力も増していますが、企業と上手に手を組むことができれば、活動の影響力をもっと大きくできます。だから僕たちは「エコロジーとエコノミーの共存」という考えのもと活動しています。

――衝突はないんでしょうか?

社会を良くするという共通の目的をもつと、企業やクリエイター、NPOなど、立場が違っても同じ方向を向くことができるんです。むしろ立場が違う人たちが一緒になった方が、新しい価値が生まれる。

その例が、AQUA SOCIAL FES!!です。これは、全国各地でNPOとトヨタが一緒に環境保全をテーマにした市民参加型のイベントを開くプロジェクト。環境保全活動を、フェスという名の楽しい場に作りかえられたのは、いろんな立場の人たちが一緒に仕事をしたからです。今の日本じゃないと実現しなかったと思います。15年前では不可能だった。

AQUA SOCIAL FES!!にて(写真提供:AQUA SOCIAL FES!!事務局)

NPOと企業が一緒に働くには、いろんな壁があります。たとえば業績を意識して短期的に考えがちな企業と、長期的視点で自然や社会を見ているNPOは、活動のタイムスケールが違います。でも、NPOの現場での知識や対応力、リスク管理能力に企業が舌を巻いたり、企業が持つモノ作りやサービスのクオリティにNPOが学ぶことも多くあります。企業と人が共に成長できる取り組みは、ポテンシャルを秘めている。

AQUA SOCIAL FES!!にて(写真提供:AQUA SOCIAL FES!!事務局)

■ 人類が「地球が青い」ことを知ったのは55年前

今、投資家の間では企業にESG(Environment、Social、Governance)情報の開示を求める声が大きくなってきています。財務の健全性だけでなく、環境・社会への対応、ガバナンスがしっかりした企業は結果的に儲かるという考えです。

リーマン・ショック以降、特にこの流れが強くなったと言います。先ほど言ったような、「人が成長する環境があるかどうか」は投資家が注目する情報になると思うんですよね。

――未来に対して閉塞感しかなかったのですが、何か変わりそうですね。

むしろ「不安」って原動力にすらなり得るんですよ。未来に対して楽観的になるのは難しい。テクノロジーを過信して、どんどん未来に進んでいこうっていうのも違うし、悲観すぎるのも違う。ペシミスティックだけどポジティブ。そういう姿勢が未来を作っていくのかなと。

50年前は宇宙から地球を見た人は1人しかいなかった。約10万年という歴史の中で、僕たちが生きているこの時代に、人類は宇宙からの視点を初めて得た。それから約30年前に、未来世代に責任を負う「持続可能な開発」という概念が生まれました。インターネットが一般化したのは20年前のことです。

悪いことも起きているけれど、優れたこともいっぱい起きている。わずかこれだけの間で、人間はこれだけ変われるんです。今できないことが5年後にできるようになっているかもしれない。いや、きっとできるようになっているんだと思います。

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