イスラム恐怖症を煽る報道がエスカレートしている。これは終わりにしなければいけない。

時として偏見が僅かな時もある。しかし、11月15日のCNNは違った。

偏見がほとんどない時もある。しかし、11月15日のCNNは違った。

この日、CNNのキャスター、ジョン・ヴァース氏が、ムスリムの人権を守るフランス人活動家のヤサエル・ロアティ氏にこう質問した。

「テロリストたちがやろうとしていたことを、フランスにいたイスラムコミュニティの人たちが誰も知らなかったのはなぜですか?」

ロアティ氏は冷静に「イスラムコミュニティは、テロリストとはまったく関係がありません。まったく何もです」と答えた。

ロアティ氏は、世界に16億人いるイスラム教徒が、少数の過激派の行動の責任を問うべきではないと説明する。「ムスリムを『自称』するテロリストたちの行動を、私たちイスラム教徒は正当だと思っていません」。

だが、ヴァース氏は意見を曲げようとしなかった。「イスラムコミュニティからはまだ、このテロに関しての批判は出ていませんね。まあ、様子を見てみましょう」と続けたのだ。

すべてのCNNのキャスターが、“パリ攻撃を非難するイスラム教徒”という言葉で、ネット検索すべきだった。そこには、11月13日にフランスの首都で起きたテロを非難するイスラムコミュニティの実例が、何百件も表示された。その中には、ソーシャルメディアキャンペーンの、#notinmyname(「私の名のもとに〜しない」の意味)も含まれている。

ワシントンポストのエリック・ウェンプル氏や、ニュースサイト「サロン」のジャック・マーキンソン氏といったメディアのライターたちが、ヴァース氏の無知を非難した。ジャーナリストのような立場にある人間が、事実をよく確認せずに偏見に満ちた発言をしてしまうことが、最近あまりにも多い。

これは何も、Foxニュースで人々の恐怖を利用している人たちに限った話ではない。Foxニュースの人たちは一貫して、イスラム教徒たちに対する敵意を高めるために今回のテロ攻撃を利用しているようだ。もはや、ここでコメントする価値もないだろう。彼らだけではなく、主流のメディアもだ。イスラム恐怖症が活字でも、オンラインでも問題になっているが、テレビでのそれが最も顕著だ。

間違いを犯してはならない。プロデューサーが「イスラム教は暴力的な宗教なのか?」などというパネルディスカッションを構想するとしたら、それは質問とは言わない。彼らは、偏見を植え付けているだけなのだ。確かにそういった考え方をするアメリカ人が一定数いることは事実だろう。だがメディアの役割は、このような虚構を暴くことであって、これを正当化することではない。「寛容派」と「差別派」の主張を並べて紹介した時、結局「差別派」をより燃え上がらせるだけの結果に終わることがほとんどだ。

CNNの画面。「イスラム教は暴力を奨励している?」と書かれたテロップが表示されている。

メディア報道におけるイスラム恐怖症は、パターン化している。誰かが無差別暴力を行い、情報がほとんどない時には、まず、裏付けのない憶測が最初にくる。

ジョージタウン大学のイスラム学者、ネイサン・リーン氏は「ジャーナリスト、特にテレビのジャーナリストは、スクープに夢中です」と述べている。「多くのジャーナリストは、誘導質問をします。ほのめかし、暗示し、仮定します。『これがアルカイダによる攻撃という可能性もありますか?』という具合に。そうするとここから、会話はアルカイダ中心になるのです」。

NBCのトゥデイショーが11月16日に流した「イスラム教過激派組織・イスラム国(ISIS)のテロ攻撃で、プレイステーション4が使われた可能性がある」という報道もその一例だ。カナダに住むシーク教徒(イスラム教とは別の宗教)の男性の画像が、フォトショップを使って改ざんされ、「パリ攻撃の容疑者」としてスペインの大手新聞紙の一面を飾ったりもした。他にも、タイム誌がウーバー(Uber)が、パリ攻撃の間、普段の4倍のレートを課していたと誤報した

男性が持っているのはiPadで、コーランではない。頭につけているダスタルはシーク教の衣服だ。

この不幸な出来事では、攻撃はテロ関連のもので、犯人はイスラム過激派だった。ジャーナリストは、相も変わらず質問する。「なぜイスラム教徒は、このテロを非難していないのか?」と。CNNのヴァース氏が聞いたように。

「他の団体が非難しなくてもいいことを、イスラム教団体には非難するようにという期待が、今もあります。連帯責任という思い込みがあります」と、イスラム教徒擁護団体である、在アメリカ・イスラム改善協会(CAIR)の法務代表、コリー・セイラー氏はいう。

「ISISによる最大の犠牲者は、イスラム教徒です。そのことをなぜか我々は見落としがちですが、理解しようと努めなければいけません」と、彼は続けた。

実際、アメリカ・イスラム関係評議会(CAIR)も、他の多くのイスラム団体と同じように、このようなことが起こるたびに、強くテロを非難している。実に100回以上も非難してきた。2014年に同団体は、120人のイスラム教徒の学者によって書かれた団体の神学論を慎重に分析した、ISISに宛てた公開書簡にサインもしている

イスラム教の国の多くの市民たちが、Foxニュースで星条旗を振っている愛国主義者の人たちと同じだけ、ISISを憎んでいる。ピューリサーチセンターによる、イスラム教徒の多い11の国で行った最近のアンケートでは、テロリストグループに対する否定的な見方を持つ人がほとんどだということがわかる。ISISを支持する人が15%を超える国はゼロだ。これは、UFOを信じるアメリカ人(21%)や、ワクチンと自閉症が関連していると考えるアメリカ人(20%)、地球温暖化を否定するアメリカ人(37%)よりも少ない。これらの国で多くの国民が、最近のISISに対する空爆を支持している

世界中に存在するイスラムコミュニティには、相違点も多い。例えば、アメリカの同盟国でありながら、考えようによれば、地球上で最も過激なイスラム体制の1つともいえるサウジアラビアのような国もあれば、女性がリーダーに選ばれたことがあるトルコやインドネシア、マレーシア、バングラデシュのように進歩的な国もある。同じイスラム教コミュニティの中でもここまで違いがあるのだ。

「イスラム教徒が行っている善良な行いは、無視されています。その代わり、私たちと同じ信念を持っていると主張するイスラム世界の野蛮な少数派が、私たちを代表していると見なされるようになってしまいました」とセイラー氏はいう。ISISに宛てた公開書簡は、ほぼ全くといっていいほどメディアに取り上げられなかった。それなのに「アフガニスタンの洞窟にたった1人のクレイジーな男が剣を振っていたとしたら、彼はきっとニュースで何度も何度も報道されるでしょう」。

テロリストと、そうでない人との区別、イスラム世界の攻撃者と被害者との区別を消去してしまったメディアの怠慢。それこそが、シリアからの難民を受け入れるかどうかについて、我々が今、正気とは思えない議論(そう呼べるなら)の渦中にいる理由だ。

パリ攻撃に関わった5人以上の容疑者のほぼ全員が、ヨーロッパで生まれ育っていた。しかし、自爆した容疑者の1人の死体の傍で見つかった1冊のパスポートがシリアのものだったという理由から、我々は、苦しんでいる何万人もの無実の人を受け入れを拒むべきかどうかということで、議論している。

主流メディアは、信用できる専門家の意見を聞く代わりに、限られた情報しか持っていないにもかかわらず声だけは大きい評論家の方を多く用いる。これは間違った情報をばらまくプラットフォームだ。反イスラム教運動家のパム・ゲラー氏を使って何百万もの人に彼女の人種差別的な考えを届ける代わりに、移民政策研究所(MPI)の専門家や移民問題に関して国で最も権威のあるシンクタンクに話を聞いてはどうだろうか?

移民政策研究所は、2015年のレポートで「難民の受け入れプログラムで、テロリストが国に潜入する可能性は低い」ということを発表している。理由は、極めて明解だ。難民認定されるには、申請者は直接FBI(アメリカ連邦捜査局)と関わることになる。そして彼らは、何年もかかる、つらい何重もの検閲を通らなければならない。

事態は、報道機関が馬鹿な質問をして、それで終わるというものではない。そんなもので我々は、賢くもならないし良くもならないし、より多くの情報を得るわけでもない。テロが起こった時の誤った情報によるネガティブ・キャンペーンは、一人歩きし、何度も繰り返される。

無知が増幅することは無害ではない。29人の共和党知事と、1人の民主党知事がシリア難民を受け入れないと誓約したのも、これが理由だ。彼らが好んで振りかざしている憲法では、それを禁じているにも関わらず。

高名なイスラム教徒の弁護士に対して無礼にもISISを支持するかと訊いたCNNのドン・レモン氏にしろ、シリアの難民問題ではキリスト教徒の住民に優先権を与えるべきだと提案したメディア会の重鎮ルパート・マードック氏にしろ、テロ攻撃に関するメディア報道のすごく嫌な面というのは、時間がたっても良くなっていないということだ。ニュース機関が、馬鹿な質問をして、それで終わるというものではない。そんなもので我々は、賢くもならないし、良くもならないし、より多くの情報を得るわけでもない。テロが起こった時の、誤った情報によるネガティブ・キャンペーンは、一人歩きし、何度も繰り返される。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

Eid-al-Fitr Celebrated In London

イギリスのイスラム教徒女性

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